約3日に渡るKDDIの通信障害も、大きな話題を集めた。対象エリアは全国にわたり、影響を受けたユーザー数も音声通話とデータ通信を合わせて3000万超。総務省の定める「重大な事故」に該当する通信障害は年数回のペースで起こっているが、ここまで大規模に発展したのは前代未聞だ。既報の通り、原因はルーター交換の作業手順ミスや、それに起因するVoLTE交換機の輻輳(ふくそう)。HSSと呼ばれる加入者データベースにも影響が波及し、原因の切り分けに時間を要した。
KDDIは、この通信障害に対して“おわび返金”を行った上で、対策強化に500億円を投じる計画だ。ネットワーク監視や自動復旧にAIを活用したり、仮想化技術の導入を前倒ししたりと、さまざまな再発防止策を講じていく。ユーザーに対する周知の仕方や、伝わりやすい表現を巡る課題も顕在化した。一方で、通信障害は何重に対策しても、なかなかゼロにはできない。実際、KDDIの一件があった約1カ月後には、楽天モバイルも重大な事故に該当する通信障害を起こしている。
さかのぼると、2021年にはドコモがネットワーク設備の切り替え工事に失敗し、IoT端末から大量の位置登録信号が上がったことで輻輳が発生。スマートフォンも巻き込み、音声通話約460万回線、データ通信約830万回線が利用しづらい状況に陥った。ソフトバンクも、2018年にパケット交換機の証明書が期限切れになっていたことを見逃がし、3000万回線以上で通信障害が発生した。4社とも何らかの通信障害を起こしている上に、原因も異なる。ネットワーク障害をゼロにする難しさは、ここからも分かるはずだ。
けがの功名ともいえるのが、KDDIの通信障害後に、代替的な通信手段の必要性が認識され、その対策を講じる機運が高まったことだ。総務省では、事業間ローミングや緊急時にeSIMやデュアルSIMで他キャリアを利用する案が検討されている。事業者間ローミングは、警察、消防などの要望もあり、呼び返しありのフルローミングを実現していく方針が示されたところだ。
とはいえ、フルローミングはネットワークの大幅な改修が必要になり、対応にはコストはもちろん、時間がかかる。また、KDDIの通信障害のように、コアネットワークが原因の場合は、そもそもローミングができない。そのため、緊急通報だけの発信が可能な「SIMありアノニマス(匿名)緊急通報」や、eSIM、デュアルSIMを使った代替回線への切り替え策についても、継続検討されている状況だ。
特に後者のeSIMやデュアルSIMは、事業者間の合意があれば、比較的早期に実現できることもあり、キャリア各社は前向きな姿勢を示している。eSIMはiPhoneを皮切りにAndroidにも広がっているため、現時点でも利用できるユーザーは多い。2023年には、各社が何らかのサービスを投入することを期待したい。きっかけが通信障害だったのは少々残念だが、2022年は改めて“つながること”の価値に気付かされた1年だった。
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