一方で、キャリア間のつながりやすさには、まだ差があるのも事実だ。特に2020年に本格参入したばかりの楽天モバイルは、他社に比べると、まだまだエリアの穴が目立つ。とはいえ、先に述べた通り、ローミング頼りだとかかるコストは膨大だ。こうした事情もあり、同社は急ピッチでエリアを拡大。2月には人口カバー率96%を前倒しで達成した。その後もエリアを徐々に広げており、11月には人口カバー率は98%まで上がった。
この人口カバー率は、Band 3と呼ばれる1.7GHz帯で実現している。ただ、700〜900MHzのいわゆるプラチナバンドと比べ、1.7GHz帯は電波の浸透性が低く、遠くまで飛びにくい欠点もある。人口の少ないへき地や山間部を効率よくエリア化しようとしたり、ビル内や地下に電波を浸透させたりする際には、やはりプラチナバンドがないことが不利になる。こうした中、楽天モバイルはプラチナバンドの獲得に向け、本格的に動き始めた。これも2022年の注目トピックといえる。
4月には、楽天モバイルの代表取締役社長に就任した矢澤俊介氏がインタビューに応じ、プラチナバンド獲得に向けた意気込みを表明。並行して実施されていた総務省のタスクフォースでは、周波数の再割り当て制度を活用し、楽天モバイルがプラチナバンド獲得を表明した際の具体的な移行方法などが検討されてきた。楽天モバイルは、既存3社から5MHz幅ずつのプラチナバンドを譲り受ける形で、15MHz幅の割り当てを希望するという。
10月には改正電波法が施行。移行期間やコスト負担の在り方で既存3社と対立していた楽天モバイルだが、タスクフォースでは同社の主張がほぼ全面的に認められ、プラチナバンド獲得に向けて大きく前進した。これを受け、楽天モバイルは2024年3月からプラチナバンドを使ったサービスの開始を目指すことを表明した。楽天モバイルによると、基地局数やカバーしているエリアの広さと、加入者獲得率には相関関係があり、東京23区と同程度の割合になれば、ユーザー数は1200万まで増加するという。
一方で、再割り当てを目指す楽天モバイルに“待った”をかける動きもあり、結論がどうなるのかは予断を許さない状況だ。11月30日には、ドコモが総務省に対し、700MHz帯の一部に空きが作れる可能性があることを報告。特定ラジオマイクや地上デジタルテレビ放送、ITSと携帯電話が使う周波数の間を使い、3Hz幅の帯域を確保できるという。理論通り、既存システムとの干渉を起こさないかどうかを検証する必要はあるが、同周波数帯は3GPPでも標準化されており、4Gでの利用が可能だ。
この報告に先駆け、ドコモは帯域幅ごとに収容できる契約者数を試算した資料を提出していた。3MHz幅なら1100万人、5MHz幅なら1830万人、楽天モバイルが希望する15MHz幅なら5500万人を収容できるという。プラチナバンドは容量対策ではなく、カバレッジ対策で使う周波数帯。楽天モバイルに15MHz幅もの帯域を割り当てるのは過剰だというわけだ。ドコモの試算通りだとすると、3MHz幅あればしばらくは楽天モバイルにとって十分な帯域幅といえる。しかも同社のユーザー数は、料金プラン改定も相まって減少している。
ドコモの提案した狭帯域700MHz帯は、急ピッチで利用の可否が検討されることになった。この帯域が携帯電話用に利用できるようになれば、あえて既存3社からプラチナバンドの一部を奪う必要がなくなる。三方よしならぬ四方よしで決着できる見込みが出てきたといえる。早期に解決できれば、楽天モバイルのもくろみ通り、2024年にはサービスを開始できる可能性もある。このようなプラチナバンド獲得を巡る動きも、2023年に注目しておきたいトピックといえそうだ。
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