「1円端末」や「プラチナバンド獲得」の行方は? 2023年に注目すべきモバイル業界のトピック石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)

» 2023年01月07日 11時00分 公開
[石野純也ITmedia]

 政府主導の料金値下げが一段落した2022年のモバイル業界だが、端末の販売には新たな課題も顕在化した。俗にいう「1円端末」が、それだ。2019年10月に施行した改正・電気通信事業法で回線契約と一体になった端末購入補助が2万(税別)に規制された結果、販売には急ブレーキがかかった。とはいえ、端末は回線を使ってもらうためのきっかけにもなる。そこで編み出されたのが、端末の直接値引きという手法だ。一律で端末そのものの価格を値引くことで、上記の規制は回避できる。

 一方で、この割引は適用範囲が広すぎることもあり、“転売ヤー”を生み出しやすい。割引規制が持つ本来の意義も問われるため、総務省でその在り方を探っているところだ。2023年には新ルールが登場する可能性がある。割引のルールは、競争環境を整えるためのものだが、同じ観点で注目したいのが楽天モバイルへのプラチナバンド割り当てだ。2022年末にダークホースとなる狭帯域の700MHz帯が“発見”され、他社の周波数を譲渡してもらう方針だった楽天モバイルに新たな選択肢が生まれた。

 値下げが一段落したことで、各社とも、ARPU(1利用者あたりの平均収入)の反転を目指している。5Gのエリアが拡大すれば、その分トラフィックも伸び、ユーザーは大容量プランを契約する傾向がある。キャリア側にとっては、いかにデータ通信を使ってもらうかの工夫を求められる1年になりそうだ。2023年のモバイル市場は、どのような競争環境になるのか。その行方を予想していきたい。

上限2万円の見直しなるか? 再び変わりそうな端末の買い方

 2019年10月に改正された電気通信事業法により、端末購入に伴う大幅なキャッシュバックはなりをひそめた。MNPなら端末無料は当たり前、場合によっては数万円の金券が手に入るといった状況は過去の話だ。一方で、端末購入補助の上限が2万円に定められたことで、販売には急ブレーキがかかった。出荷台数そのものは大幅には減少していないものの、ミドルレンジモデル以下のボリュームが増し、買い替えの期間も徐々に長期化している。

端末割引 端末購入補助のガイドラインで、回線契約にひも付く割引は2万円に規制されている。これにより、端末のミドルレンジ化が進み、買い替えサイクルも長期化しつつある
端末割引 円安傾向も相まって、2万円の値引きでは端末が売れづらくなった。画像は、KDDIが「競争ルールの検証に関するWG(第37回)」に提出した資料

 こうした中、2021年ごろから復活し始めたのが、端末の1円販売だ。1円といっても、数万円のモデルを2019年以前と同様に値引きすると、電気通信事業法の上限2万円に抵触してしまう。そこで、各社とも端末本体を直接値引く手法を採用。通信契約とひも付かない値引きという形を取り、規制を回避した。もともと価格が控え目なミドルレンジモデルは、通信契約に伴う端末購入補助との合わせ技で一括1円などの超低価格で売り出される販売手法が一般化している。ハイエンドモデルは店舗側の負担が大きくなりすぎるため、“一括”1円で投げ売りされることはまれだが、残価設定型の分割払いと組み合わせて“実質”1円になるケースが多い。

端末割引 21年秋ごろに、一括1円などの超低価格で端末を販売する手法が編み出された。端末そのものを値引くことで実現している。写真は約1年前のもの

 とはいえ、これは単なる値引き販売に他ならない。あまりに価格が安くなりすぎてしまうと、いわゆる転売ヤーを呼び込んでしまうことになる。各社とも、1人1台などの対策を取ってはいるものの、中古業者の買い取り価格より安い販売価格自体にも問題がある。また、端末購入補助の上限が定められた趣旨を踏まえると、発売直後の端末を一括1円まで下げ、転売ヤーが利益を上げられてしまうような販売手法にも疑問符がつく。一律2万円という条件は厳しすぎるにしても、一括1円との間に落としどころがあるはずだ。

端末割引 端末割引が過熱した結果、転売ヤーを呼び込む事態になってしまった。出典は同上

 こうした販売規制が、2023年に見直される機運が高まっている。総務省で開催されている「競争ルールの検証に関するWG」がその舞台だ。現状は、ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルからのヒアリングをしている段階。ここで、ドコモやソフトバンクは、中古の端末を基準にしながら、端末購入補助に柔軟性を持たせる提案を行った。ドコモ案は中古端末の販売価格、ソフトバンク案は買い取り価格と違いはあるが、中古端末より新品端末の方が安いのは行き過ぎた割引であるといった問題意識は共通している。

端末割引 ドコモは、端末の中古価格を基準に割引上限を設定する案を提案した。画像は、ドコモが「競争ルールの検証に関するWG(第37回)」に提出したもの

 KDDIも、5G移行の足かせとなるため、一律2万円の上限を見直すことを求めている。これに対し、楽天モバイルは端末価格に応じて割引の上限額を変える案を提案。どの方法に決まるかは未知数だが、総務省が却下しなければ、今までより割引の方法は柔軟になることは確かだ。同WGではMVNOや販売代理店からもヒアリングを行い、夏ごろに報告書を取りまとめる予定。2023年中に、端末販売のルールが見直される可能性がある。

端末割引 「競争ルールの検証に関するWG(第37回)」に提出された楽天モバイルの資料。端末のクラスに応じて割引の上限を決めるという内容だ

 ただ、これによって端末が安くなると考えるのは早計だ。仮に2万円の規制が見直されても、新たなルールで割引の総額が決まってしまうからだ。例えばドコモ案をストレートに採用した場合、発売直後のiPhoneはほぼ値引きができないことになる。割引の条件を柔軟にする代わりに、端末そのものの割引への規制も求めているため、一括1円のような販売手法が封じられてしまう恐れもある。いずれにせよ、2023年は端末の買い方が大きく変わる始まりの1年といえそうだ。

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