競争環境の整備という観点で、2022年から持ちこされた宿題は他にもある。中でも大きいのは、楽天モバイルへのプラチナバンド割り当てだ。おおよその経緯は、前々回の連載で書いた通り。2022年10月の電波法改正により、既存事業者が使用中の周波数を再割り当てすることが可能になった。この制度は、プラチナバンドも例外ではなく、2022年早々から非公開でタスクフォースが進められてきた。楽天モバイルは、この再割り当て制度を使ってドコモ、KDDI、ソフトバンクからそれぞれ5MHzずつのプラチナバンドを獲得する方針だ。
帯域を譲ることになる既存事業者は、フィルターの挿入やリピーターの置き換え費用を楽天モバイル側に求めていたが、タスクフォースの結論でその主張は一蹴された。期間も標準で5年になり、可能な場所から徐々に移行が進められていくことになった。これに対し、ドコモは特定ラジオマイクや地上デジタルテレビ放送などとの干渉防止のために空けられていた周波数帯に着目。3MHz幅を捻出できる報告書を総務省に提案し、情報通信審議会での検討が急ピッチで始まることが決まった。
注目したいのが、12月27日に発表されたタスクフォースの報告書だ。報告書がパブリックコメントを受け付けるための“案”だったときとは異なり、開設指針の制定にあたっては「申出に係る周波数帯において、携帯電話システムに割り当てる可能性のある周波数の有無」(原文ママ)を考慮することがうたわれている。より平易に言い直すと、再割り当てを検討する際に、別の周波数帯が利用できるかどうかも判断の材料にすべきということだ。700MHz帯が利用できるようになった場合、仮に楽天モバイルが再割り当ての競願申請をしても拒否される可能性が示唆された、ともいえる。
もっとも、楽天モバイルも現時点では「競願申請する方針に変わりはない」(広報部)といい、大手3キャリアに“ガチンコ勝負”を挑む予定だ。ただ、仮に700MHz帯の3MHz幅が利用可能になれば、勝算が下がる可能性もある。検討の取りまとめが出るのは、春ごろの予定だ。既存キャリア3社から奪った15MHz幅と、新たに捻出した3MHz幅のどちらに転ぶかは未知数だが、運用中の帯域幅を減らした際の影響は見えない部分も多い。楽天モバイルのユーザー数を踏まえると、エリア対策だけに使うなら3MHz幅でも十分なため、後者の方がより現実的だ。また、700MHz帯の3MHz幅であれば、他社の立ちのきを待つ必要がなくなるため、楽天モバイルもエリアを拡大しやすくなる。
帯域幅やその方法は不透明ながら、ポジティブに考えると、同社にプラチナバンドが割り当てられる確度はより高まったといえる。新規参入事業者ゆえにエリアには穴のある楽天モバイルだが、その差を埋めるための準備が着々と進んでいるというわけだ。一方で、プラチナバンドなしでも同社は粛々とローミングエリアを縮小しており、コストを削減している。2022年に導入したUN-LIMIT VIIによって、収入も増加。2023年中に黒字化を達成する予定だ。2023年は同社にとって大きな転換点といえる1年になる。
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