楽天モバイルの自社エリアの整備、切り札は「プラチナバンド」と「宇宙」? 矢澤社長が報告

» 2023年02月24日 13時00分 公開
[井上翔ITmedia]

 楽天モバイルは2月22日、取引先企業向けイベント「Rakuten Mobile Partner Conference」を開催した。同種のイベントは、同社の親会社である楽天グループも実施してきたが、今回は同社が初めて“単独で”開催したものだという。

 イベントでは、同社の三木谷浩史会長(楽天グループ社長)らが登壇し、同社の近況と強みをアピールした。この記事では、矢澤俊介社長が行った楽天モバイルの「エリアカバーの拡大」に関する説明に焦点を絞ってレポートする。

三木谷会長 三木谷浩史会長は「楽天の挑戦」と銘打って、楽天グループの歩みと、そのDNAを共有する楽天モバイルの事業上のチャレンジについて解説を行った
矢澤社長 矢澤社長は「エリアカバーの拡大」という表題で、自社エリアの拡大状況について解説した

自社エリアの「人口カバー率」は98%に

 携帯電話の人口カバー率は、「携帯電話を持つかどうかにおいて、一番重要なもの(指標)」の1つであることは間違いない。楽天モバイルは、その改善を最重要視し、リソース(経営資源)も多く割いているという。

 同社では4G LTEサービスにおいて1から自社ネットワークを構築する一方で、その補完としてKDDIとローミング契約を締結し、au(KDDI/沖縄セルラー電話)の4G LTEエリアを「パートナーエリア」として運用してきた。サービス開始当初、自社エリアの人口カバー率はわずか23.4%だったが2022年10月時点では98%に達し基地局の実数も6万局超となったという。

 現在は、人口カバー率のさらなる向上に向けて取り組んでおり、99%に向けて準備を進めているとのことだ。

人口カバー率 楽天モバイルの4G LTEサービスの自社エリアの人口カバー率は98%に達した。現在は99%以上とするべく取り組んでいるという
大都市部 大都市部では濃いピンクの自社エリアが少なかったが……
人口カバー率 ここまで広げることができた。トラフィック(通信量)の多い大都市部などでは、ネットワークの密度を高める対策も進めているという

「ローミング返上」も随時進行

 自社エリアの拡大に伴い、同社ではauエリアへのローミングを順次縮小している。矢澤社長は、神奈川県を例にその状況を解説した。

 2022年12月時点では、横浜市、川崎市、相模原市といった政令指定都市でもパートナーエリア、つまりauネットワークへのローミングが結構広く行われている。例示されたプロット図を見ると、人が密集しそうな場所における自社エリア化は比較的進んでいるものの、一部ではauのネットワークに頼っている様子が伺える。

 しかし2023年4月までには、港湾部や山間部の一部を除き、神奈川県におけるローミングはおおむね解消できるようである。自社エリアとパートナーエリアをハンドオーバー(つなぎ替え)する際は、一瞬〜数秒ほど通信の切断が発生する。自社エリアの拡大により、このような体感的な通信品質の向上も期待できる。

神奈川県 神奈川県は、2022年12月末時点でも意外とパートナーエリアが残っている。しかし、2023年4月にはおおむね解消するという

「プラチナバンド」でエリア品質に期待

 楽天モバイルは現在、4G LTEネットワークを1.7GHz帯(バンド3)でのみ構築している。一方で、他キャリアが保有している700MHz〜900MHzの帯域を保有していない。「プラチナバンド」とも呼ばれているこの帯域は、1.7GHz帯の電波と比べると障害物に強く、エリアカバーを広げる上で有利とされている。そのこともあり、同社は機会のある度に「プラチナバンドの割り当て」を訴えてきた。

 プラチナバンドについては、他キャリアが3Gサービス向けに割り当てられている帯域の再編を行い、一部帯域を同社に割り当てる方向で議論が進むかと思われていた。

 しかし、NTTドコモが総務省の会合において「700MHz帯の一部にある未使用帯域を活用するのはどうか?」という旨の提案がなされた。そのことを受けて、総務省でも当該帯域をLTE(LTE-Advanced)用に割り当てる検討を開始した。

 同省の動向次第とはなるが、帯域再編を待たずにプラチナバンドによるエリア改善を進められるという点で、楽天モバイルにも一定のメリットがある提案ともいえる。

総務省の検討 NTTドコモの提案を受けて、700MHz帯のうちの3MHz幅(上り:715MHz〜718MHz/下り:770MHz〜773MHz)をLTE-Advance規格用に割り当てる検討が始まった(総務省資料より)

 矢澤社長は「具体的な検討はこれから」としつつも、プラチナバンドを利用したさらなるエリア品質の改善について言及。「2023年末か2024年初には(プラチナバンドの)サービスを開始したい」と意欲を示した。

エリアカバーイメージ プラチナバンドの導入によってエリアのカバー品質をさらに高めたいという。ただし、プラチナバンドの割り当て方は総務省で検討が進んでいる所なので、整備計画そのものは策定できていない

宇宙からエリアカバーを行う「SpaceMobileプロジェクト」は順調

 楽天モバイルでは、エリアカバーを広げる方法として、プラチナバンドに加えて低軌道通信衛星を活用する方法を検討している。今回のイベントでは、その進捗(しんちょく)に関する報告もなされた。

 同社は米国の人工衛星メーカーであるAST SpaceMobileと共同で「Space Mobileプロジェクト」を推進している。このプロジェクトでは低軌道通信衛星から“通常の”LTEの電波を発することで、山間部や離島を含む全国をエリア化することを目指しており、2022年11月には実証実験を行うための予備免許を取得している。

 「海でも、飛行機の中でも、冬の山の中でもつながる」上、「災害が起こった際も、リモートで地上の基地局から切り替えることでつながる」ことは、楽天モバイルの大きなアドバンテージとなりうる。総務省や取引先には、近いうちに実証実験の状況を報告できそうとのことだ。

 なお同社では、「(既存の)3キャリアよりもつながる楽天モバイル」を目指して、SpaceMobileプロジェクトの商用化を2024〜2025年に行うとしている。

目的 SpaceMobile Projectを進める目的は、地上におけるエリア化を
BW3 国内での実証実験で利用する人工衛星「BlueWalker 3」は2022年11月14日に展開を完了しており、予備試験の取得を受けて実証実験も開始したようである
BW3 プラチナバンドと宇宙を活用して、エリアカバーを広げる方針だ

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