これに対し、ドコモの井伊氏は「金額は決めていない」としながらも、早期の売上高100億円達成を目標に掲げる。「100億円を超えないものは事業ではないと思っている」というのが井伊氏の考え。裏を返せば、OREXは成長の余地が大きい事業と見なしているといえる。井伊氏は「楽天シンフォニーは600億円から700億円なので、できない数字ではない」と語る。現状では国内が中心だが、実績ができ次第、オペレーションやサポートを担う海外拠点も設立していく方針だ。
ドコモの強みになりそうなのは、同社と近い境遇の大手キャリアがいることだ。井伊氏によると、「相手のキャリアは、全部が全部O-RANというわけではなく、もともとのネットワークベンダーの基地局があって通信されている中で、そのうちの何%かをO-RANにしたいというアプローチ」を取っているという。いわば、「ブラウンフィールド(既存の事業がある中で新たな設備投資などを行う事業のこと)的な事業になる」(同)ため、後からO-RAN準拠のネットワーク機器を導入したドコモは、ノウハウを生かしやすい。
一方で、井伊氏は「楽天(シンフォニー)とは芸風が違う」と語る。どちらかと言えば、ドコモは導入やオペレーション支援といったサポートに徹しており、無線ユニットやサーバなどのハードウェアや、仮想化したCU/DU(Centralized Unit/Distributed Unit)などのソフトウェアは通信機器ベンダーの製品を活用する。OREXもそのためにできた座組みで、誤解を恐れずいえば、ドコモはコンサルティングに徹している印象がある。
同様の事業は楽天シンフォニーも行っているが、仮想化プラットフォームやクラウドサービスなどを自ら手掛けている点は、ドコモとの大きな違いといえる。楽天シンフォニーの方が、よりベンダー的な動きをしているというわけだ。ネットワーク運用管理ツールの「Symware」やプラットフォームの「Symworld」を外販しているため、売り上げはドコモより立てやすい。受注残高も「4500億円積み上がっている」といい、三木谷氏は「2年でそんなになる会社は他にない」と自信をのぞかせる。
2社の事業領域にはずれもあるため、同じ会社がドコモと楽天シンフォニーの双方と取引しているケースもある。米DISH Wirelessだ。同社は、2021年に楽天シンフォニーをO-RANとクラウドネイティブ技術のベンダーとして選定。楽天シンフォニーのネットワーク運用システムを採用した。一方で、DISHはMWCでドコモが発表した5社の支援先の1社で、同社はドコモが横須賀リサーチパーク(YRP)の用意したO-RANネットワークの検証環境を利用する。
自社のソリューションを中心に据えてO-RANを推進する楽天シンフォニーに対し、ベンダー13社と共同体を作り、導入や運用支援に特化するのがドコモといえる。O-RANを導入する側のキャリアの希望によっては、2社が手を取り合うことも不可能ではない。
三木谷氏も「どっちかと言うと見下されているので(笑)」とちゃかしつつも、「そういうの(パートナーシップ)もありだと思う」と語っていた。“芸風”だけでなく、その成り立ちもまったく異なる2社だが、O-RANを国ぐるみで後押しする動きもある。今後、“共演”の機会はさらに増えていきそうだ。
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