2月27日から3月2日(現地時間)にかけて開催されたMWC Barcelonaで、ドコモと楽天が激しい火花を散らした。と言っても、国内通信の料金やサービスの話ではない。舞台は、両社が注力するOpen RAN(O-RAN)だ。
楽天は、2021年に完全子会社化した米アルティオスターや2020年に買収した米イノアイの技術をまとめる形で、2021年に楽天シンフォニーを発足。もともとはO-RANや完全仮想化技術を輸出していく事業ブランドだったが、2022年には法人化を行い、海外拠点も拡充している。
これを追いかける立場に立っているのが、ドコモだ。同社は、MWCに合わせてO-RANを推進するためのブランド「OREX」を発足。同社の支援先が5社になったことも明かしている。ともに日本発でO-RANを推進していくドコモと楽天シンフォニーだが、2社には成り立ちの背景や立ち位置の違いもある。その最新動向を見ていきたい。
O-RANとは、モバイル通信の機器をオープン化して、異なるベンダー同士の装置をつないでいけるようにする取り組みのことを指す。日本では、マルチベンダー体制が比較的一般的だが、海外ではノキアやエリクソン、ファーウェイといったインフラベンダーが1社で丸ごとキャリアのネットワークを構築していることも多い。キャリア側に技術的なノウハウが少なくても、サービスをタイムリーに提供できるのがこの体制のメリットだ。
一方で、1社のベンダーから抜け出せない、「ベンダーロックイン」の問題はかねて指摘されてきた。3Gや4Gで入れたベンダーは、5Gになったからといって丸ごと入れ替えるのは難しい。一度ネットワークができてしまうと、代替が難しくなるというわけだ。結果として競争が起きず、コストが高止まりしてしまうのは弊害といえる。基地局などの保守管理においても、ベンダー側が在庫を抱えていなければ、すぐに部品を入れ替えるのが難しくなる。
こうした中、2018年にはモバイルネットワークを構成するさまざまな機器のインタフェースをオープン化して、つないでいくための仕様を策定するO-RAN Allianceが発足。設立メンバーとして、ドコモや米AT&T、独ドイツテレコムや仏オレンジに加え、中国のチャイナモバイルもここに名を連ねている。このアライアンスが策定した仕様に基づいた機器は、MWCに多数出展されている。
具体的には、ドコモのOREXコーナーに展示されていた仮想化の構成図が分かりやすい。この「タイプ1」では、基地局のソフトウェアに富士通、仮想化プラットフォームにWind Riverが採用されており、ハードウェアアクセラレーターはNVIDIAだ。また、サーバには富士通とインテルを採用している。こうした異なるベンダー同士を組み合わせても装置が動作し、モバイルネットワークを構築できるのがO-RANの成果だ。
中でも、日本勢はこれまで基地局ベンダーとしてのシェアが低かった半面、ドコモが積極的に推進していたこともあり、O-RANへの取り組みは早かった。MWCでも、NECや富士通のブースの展示はO-RANに対応したソリューション一色だった。既存のベンダーは、パイを奪われる側になるため、どちらかといえばO-RANに対してはやや消極的な面もあり、日本のキャリア、ベンダーの勢いが目立つ。
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