2022年3月にドコモから基地局設置のための鉄塔6000本を買い取る発表をしたことで話題を集めたのが、インフラシェアリングを主力にするJTOWERだ。インフラシェアリングとは、複数のキャリアが基地局を“相乗り”を指す。諸外国では主流の方式だが、日本ではキャリア各社がそれぞれ基地局を建て、エリアの広さを競争軸にした経緯もあり、インフラシェアリングの活用はあまり進んでこなかった。この状況を変えたのが、5Gだ。
5Gの導入で設備投資がかさむ中、各社ともインフラシェアリングを活用する方針に転換。KDDIとソフトバンクがこれを推進する「5G JAPAN」を設立したことは、その一例。ドコモがJTOWERに鉄塔を売却したのも、エリア拡大が競争領域ではなく、協調領域になりつつあることを象徴している。JTOWERは設立が2012年と早く、10年以上、この領域に取り組んできた先駆者だ。5G時代になり、その存在感が増している同社の戦略や強みを解説する。
社名に“TOWER”とついていることからも分かるように、JTOWERは当初から、鉄塔をキャリア各社で共有するタワーシェアリングを志向していた。一方で、「日本のキャリアは各社がバラバラに設備投資をしてきた過程がある」(代表取締役社長 田中敦史氏)。2012年と設立が早かったJTOWERだが、当時はタワーシェアリングを受け入れるキャリアはなく、苦戦を強いられていた。そこで同社は、まずIBS(In-Building Solution)と呼ばれる屋内設備のシェアリングを進める。
外からの電波が届かないビルなどは、機械室などに基地局の設備を入れ、そこからアンテナを分配し、建物内を広くエリア化するのが一般的だ。ただ、これを各社がバラバラにやると、現状では4社分の設備が必要になってしまう。建物によっては、アンテナの設置や配線が物理的に難しいケースもある。そこで、JTOWERは「バラバラに配線するのではなく、1本で済ませてしまえばよいのではないかと考え、自社で共用装置を開発した」(同)。
これを建物に導入すると、RU(子機)と呼ばれる無線信号を光信号に変換する子機やアンテナを複数のキャリアで共有でき、ビルの機械室に複数社の基地局(ベースバンドユニット)を設置するだけで済むようになる。キャリアは、配線済みのビルに基地局を追加するだけ。エリア化の工事を大幅に簡略化できる。4社それぞれに対応する必要がなくなり、交渉や工事の時間を短縮できるのは、ビルのオーナーにとってもメリットといえる。
JTOWERは、2014年に4Gの商用サービスを開始。2020年には、5Gに対応した共用装置も開発した。こうした利点がビルのオーナーとキャリアの双方に受け入れられた結果、2022年末の導入実績は全国で374件に達し、屋内にインフラシェアリングの件数は順調に伸びている。もともとは、新築の物件に導入することが多かった共用装置だが、「既存の設備が古くなった際にJTOWERで巻き取ってくれないかという話がある」(同)といい、設備の置き換えも徐々に増えている。
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