公正取引委員会の「1円スマホ」廉価販売の指摘に違和感 実効性はあるのか

» 2023年03月27日 18時02分 公開
[はやぽんITmedia]

 公正取引委員会が指摘している携帯電話の廉価販売。委員会が公表している緊急調査の報告ではいくつか整合の取れない点が見られる。今回は報告書の内容を読み解いてみることにする。記事中の価格は全て税込み。

2万2000円の範囲で値引いても不当廉売と見なされる場合も?

 今回、公正取引委員会が行った緊急調査では、携帯各社でiPhoneの売り上げ上位20位、Android端末の売り上げ上位20位の端末を対象としている。iPhoneについては同じ機種でも、容量別に「別機種」とカウントされるため、数が多くなっている。

 問題とした不当廉売については、実質負担額が1000円未満の端末を対象にしている。これは一括1円だけでなく、いわゆる「24円維持」などの端末をキャリアに返却するものも対象になる。

 これを受けてネット上では「1001円以上で販売すれば不当廉売にならないのか」「不当廉売の基準は端末によって異なるのでは」という意見も見られた。

  調査結果によると、4万円未満の端末で不当廉売が多く行われ、調査対象の30.4%を占めたとのこと。 ただ、ここには電気通信事業法における2万2000円の回線値引きによって、1円で販売できる廉価な端末も含まれている。そのため、例えば2万2000円の機種が割引後に1000円未満の価格となることは制度上問題ない。

公正取引委員会 調査結果のスライドでは、4万円未満の機種で値引きが多かったと指摘している
公正取引委員会 シャープのAQUOS wishなど、定価を2万2000円で設定することで、電気通信事業法の2万2000円規制下でも1円で販売できる例もある。このような例に対しても公正取引委員会は「不当廉売」と指摘しているのだ

 これらの端末に関しては、規制下の回線値引きを見込んだ価格設定となる。問題となる不当廉売とは、iPhoneをはじめとした本来高価なはずの端末を市場価格よりもはるかに値引くことだと筆者は考える。

 例えば、7万円台のiPhone SEを回線契約込みで1万4800円(契約なしでも3万6800円)という価格は中古市場より安い。公正取引委員会として目を光らせるべき点はこの部分のはずだ。

 この2万円値引きで1円にできる廉価な端末の存在については、ある意味規制下にて販売するための価格設定といえる。これについては、総務省と情報や値引き規制の金額設定の意図がうまく共有できていない印象を拭えない。

公正取引委員会 iPhone SE(第3世代)は年度末ということもあって安価に提供されている店舗もある

過度な値引きは体力のあるキャリアだからできること

 携帯キャリアが値引きを行う背景については、キャリアから代理店に課せられる契約ノルマが厳しいこと、アクセサリーや単体販売での粗利がほぼないこと。また、キャリア側からの提案によるものもあるとしている。

 そのため、収入をMNPなどによるキャリアからの販売奨励金に依存してしまう構造になっていると取りまとめられている。MNPの契約数欲しさに過度な値引きを行うことが常態化していたのだ。

公正取引委員会 利益の源泉がキャリアからの販売奨励金に依存する構造であったと指摘している

 この値引きについて、公取委は市場価格や提供単価よりも明らかに安価に提供することを「独占禁止法に違反する不当廉売」に当たるとしている。また、過度なノルマを与えて代理店に必要以上の負担を強いるような販売方法は同法の「有利的地位の乱用」に該当する可能性があると指摘している。

公正取引委員会 スライドは端末提供が赤字の機種を示したもの。ストア価格より高価な価格設定のiPhoneも含まれている

 携帯キャリアにおける廉価販売は、端末を赤字で販売しても通信料で補填することと、端末価格を定価より上乗せしてそのマージンで補填することで成り立っている。このスキームは、資本力と回線収入のある大手キャリアだからこそなせるものだ。資本力に乏しいMVNOや、別途そのような収支を持たない販売店では難しい。

 加えて、端末価格のインパクトや説明不足によってMVNOへユーザーが流動的にならないこと、明らかな廉価販売によってSIMフリーの端末や中古の端末事業が継続困難になるのではと指摘される。

公正取引委員会 ドコモで購入した端末が他社でも利用できる旨の説明、周知も必要としている

 現在、SIMロックは禁止されており、消費者は端末とキャリアを選べるようになった。その一方で消費者に十分に周知されておらず、公正取引委員会は「ドコモの端末を他社で使うことができない」といった認識のユーザーにも、MVNOで利用できることの周知を図らなければならないと指摘している。

不当廉売の基準が不透明 公正取引委員会の指摘に実効性はあるのか

 公正取引委員会から不当廉売の基準等については明確にされていない。あくまで独占禁止法に当たる可能性があるため、キャリアや代理店は「スマートフォンの価格設定には十分に留意する必要がある」にとどめている。

 このため、現時点では値引きした価格設定において、法的拘束力もなく、「廉価販売」を抑止することは難しい。値引き率などの明確な基準もなく、あくまで「留意すべき」という見解を示しただけとなっている。

 また、キャリアのiPhoneの定価がメーカー直販より高価な事や、2万2000円で販売される端末を電気通信事業法の範囲内で値引くことについては大きく触れられていない。例えば、iPhone SE(第3世代)はApple Storeでは6万2800円〜の設定だが、ドコモでは7万3370円〜となり、1万円以上高価な形となる。

 公正取引委員会が「独占禁止法禁止違反が見られた場合は厳正に対処する」としたこともあり、年度末の携帯市場では2022年に比べると一括価格を示す過度な値引きは少なくなったように感じる。

 それでも、多くの量販店などでiPhone 13やGoogle Pixel 7を実質1円といった方法で販売しており、依然として過度な値引き販売が続いていることは事実だ。

 公正取引委員会の動きからも、近いうちにスマートフォンの値引きについては大きく変わることが予想される。安価に高性能なスマートフォンを手に入れたいのであれば、情報収集を行って、3月末までに購入するとよさそうだ。

 さて、このような根深い問題について、公正取引委員会はもちろんのこと、総務省も含めて、じっくり議論する必要がある。電気通信事業法の改正から間もなく4年。そろそろ見直しが必要な時期に来ているのかもしれない。

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