初代iPhoneが高値で落札されたというニュースが話題になった(執筆時は約834万円)。そういえば、我が家にも同じ初代iPhoneの実機がある。当然ながら未開封品ではないので高値で売ることはできないが、今回は2007年に発売された世界で最初のiPhoneについて思い出しながら語ることで何百分の1かはいただけるというわけだ。
高値で落札されたということは、歴史的に意義のある1台だということ。今回は、そんな初代iPhoneが残した功績を振り返ってみたい。
初代iPhoneは、2007年1月9日に米国で開催されたMacworld Conference & Expo 2007の基調講演で、スティーブ・ジョブズによって発表された。「これからわれわれは3つのiPodと同じように世界を変える革命的製品を出します。最初はワイドスクリーンとタッチスクリーンを備えたiPod(大きな拍手)。次に革命的な携帯電話(さらに大きな拍手)。3つ目は、ブレークスルーとなるインターネット・コミュニケーション・デバイス(小さめの拍手)」
しばらく間をおいてジョブズはこの3つを繰り返し、それぞれのアイコンはくるくる回っていく。ざわめく聴衆。「もうわかったかな?」「これは3つの別々のデバイスではなく、1つのデバイスなのです」「その名前はiPhone」「今日、Appleは電話を再発明します」
歴史に残るジョブズのプレゼンテーションは見たことのある人も多いだろう。
しかし、コアなAppleファンはこのプレゼンにしびれたものの、業界の反応は必ずしも芳しいものではなかった。AppleはMotorolaと共同開発したiPod組み込み携帯ROKRで一度失敗しているので、iPodを組み込むことのインパクトはそれほど大きいとは考えられなかったし、インターネットに接続するためのデバイス、スマートフォンと呼べるものは既に存在していた。
iPhoneは今でこそスマートフォンの代名詞のように言われているが、当時は完全な新参者で、ビジネス用途にはBlackBerryが君臨しており、NokiaのSymbian端末、MicrosoftのWindows Mobileをベースにした携帯電話やPHS(シャープのW-ZERO3)も人気があった。日本では販売されなかったが、Palm OSベースのTreoも一定のユーザーがいた。
1月の発表から5カ月がたち、6月28日には最初のレビュー記事「発売前のiPhoneを2週間使ってみた結論」が公開された。当時、Wall Street Journal紙のウォルト・モスバーグらによるレビュー記事の翻訳を担当していたので、その原稿を読み返してみると(現在は契約が切れておりITmediaでは読めない)、当時の状況を思い出す。
辛口で知られるモスバーグによるレビューはおおむね高評価で、特にマルチタッチインタフェースを絶賛していた。タップ、フリック、ピンチといったタッチインタフェース向けの用語はiPhoneで初めて導入されたようなものだ。それまでのタッチインタフェースは、指で操作できるものでも細かい作業はできない感圧式だけで、静電容量方式で複数の指の動きを同時に検知する機能はなかった。いや、一部にはあったのだが、モバイルデバイでは皆無だったといっていい。
このマルチタッチ機能を最も効果的に使ったのが「Maps」だ。これは、現在のようにAppleが独自で開発している地図ではなく、Googleマップのシステムを使い、それをiPhone用にカスタマイズしていた。地図を2本指のピンチ操作で自由に拡大・縮小し、さらにそのまま回転させれば地図自体の向きを変えることができる。そんな地図はこれまでなかったのだ。
Appleはマルチタッチを特許で保護しており、後発のAndroidではマルチタッチが使えなかったため一本指で長押しするなどトリッキーな操作で拡大・縮小を行っていた。
マルチタッチはインターネットブラウザのSafariにも大きく貢献した。画面サイズが小さくても、その部分だけピンチ操作で拡大してボタン操作もでき、読み終えたら戻せばいい。
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