今、ほとんどのスマホは2つ以上のカメラを搭載している。たいてい「超広角・広角・望遠」のパターンで(中には望遠カメラが2つついていたり、1つはマクロカメラだったりするけど)、広角カメラは一番使う基準となるカメラなので「メインカメラ」と呼んだりもする。
じゃあ、どのくらい広角なのか、どのくらい望遠なのかを具体的に示す数値が「焦点距離」だ。
焦点距離は「mm」で表すけど、これはもう普通に長さの単位で、短ければ短いほど「広角」に、長ければ長いほど「望遠」になる。広角は「wideangle」の訳で広い範囲を撮れることを、望遠は「telephoto」の訳で、teleは遠いって意味なので遠くのものを撮れることを示しているのだけど、実はそれ以外にも大きな違いがある。
レンズは広角になればなるほど遠近感が強調される、端の方がゆがんで写るようになり、逆に、望遠になればなるほど遠近感がなくなって写る。
面白いので「iPhone 14 Pro」を使って、超広角(13mm)から3x望遠(77mm)までメインの被写体が同じようなサイズで写るように(つまり広角のとき近づき、望遠のときは離れて)撮ってみたのがこちらだ。
全部同じ人を撮っているのだけど、ポイントは2点。
1つは近寄って超広角で撮った写真と、少し離れた望遠で撮った写真では「顔の形が全然違う」こと。超広角だと立体感が強調される。望遠だと形がすっきりきれいに写る。人を撮るときはちょっと望遠の方がいのだ。
もう1つは背景。広角は文字通り広い範囲の背景が写る。望遠は広角の反対で「狭角」(そんな用語はないけど)なので写る背景の範囲も狭い。
これは大事だ。
とまあそれだけ知っていればまず困らないのだけど、せっかくなので細かい話を。
焦点距離の「焦点」ってのはレンズの中心(大ざっぱな意味で使っています。厳密にいうとややこしい)とイメージセンサーの距離のこと。
分かりやすくいうと、虫眼鏡(つまり、凸レンズ)で太陽の光を集めて黒い紙に当ているっていう誰もが子どものときにやったような……いやイマドキは危ないからやらないのかもしれないけど、そういうとき、一番光が集まって紙が焦げだしたときのレンズと紙の距離が「焦点距離」。「焦げる点」だ。
そのとき、焦点距離が短いレンズだと広い範囲の光が集まるし、遠いレンズだと狭い範囲の光しか入らない。これが広角や望遠と焦点距離の関係なわけで、焦点距離が短いほど広角であるということなのだ。
ここでスペック表を見ると、16mmとか24mmとか書いてある。あのスマホの厚みを考えたら、何をどうやっても、16mmとか24mmの距離なんて取れない。レンズを組み合わせて光学的にあれやこれやアクロバティックなことしても無理だ(レンズ設計なんてしたことないけど、多分そうだ)。
実はそれにはからくりがあるのだ。iPhone 14 Proのスペックを見ると堂々と「24mm」って書いてあるけど、写真用のソフトで撮影データを見ると「レンズ焦点距離が6.86mm」でその下に「35mm換算レンズ焦点距離が24mm」とある。
スペックには24mmとあるけど、実焦点距離は6.86mmなのだ。7mm以下。これならレンズを複雑に組み合わせればなんとかなりそうなだ。
なぜそれを24mmと書いているか。業界慣習といってしまえばそうなのだけど、フィルムカメラ時代に最もポピュラーだった「35mmフィルム」(デジタルカメラだといわゆるフルサイズセンサー)に焦点距離24mmのレンズを付けた場合と同じくらいの角度が写るよという意味なのである。
デジタルカメラはイメージセンサーサイズがまちまちで、スマホに至っては、超広角カメラと広角カメラと望遠カメラで採用するセンサーサイズが違うのが当たり前。だから実焦点距離を素直に書いても何の目安にもならないのだ。
そこで当初から「35mm判のフィルムにレンズを付けた場合」に換算して表記することで統一しているのである。だから「35mm判換算で24mm相当」なんて書き方をするのが一般的で、例えばZenfone 9のサイトを見ると「35mm換算:23.8mm相当」とある。
そして、いつのまにか多くの機種で「35mm判換算」を省略するようになってしまったのが現在なのである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.