「FCNT経営破綻」の衝撃 arrows/らくスマ販売好調でも苦戦のワケ、穴を埋めるメーカーは?石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)

» 2023年06月03日 06時00分 公開
[石野純也ITmedia]

 arrowsシリーズやらくらくスマートフォンを手掛けるFCNTが、5月30日に民事再生法の適用を申請したことを発表した。同社の親会社にあたるREINOWAホールディングスや、FCNTなどの端末を製造するREINOWA傘下のジャパン・イーエム・ソリューションズ(JEMS)も、経営が破綻。FCNTはSNSなどのサービスを、JEMSはFCNTの端末を除くスマートフォンなどの製造をスポンサー企業の支援を受け、継続する予定だ。一方で、FCNTの端末開発や保守などは、支援先が見つかっておらず、同日付けで事業を停止している。

 FCNTは富士通から切り離され、設立された企業。当初は富士通コネクテッドテクノロジーズという社名だったが、2018年に投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループが株式の70%を取得した。2021年には富士通が残る30%の株式を手放し、資本関係を完全に解消。これに伴い、略称だったFCNTを正式な社名にしていた。arrowsシリーズやらくらくスマートフォンなど、富士通時代からの代表的なブランドは継続しており、現在も販売が続けられている。

FCNT FCNTは、5月30日に民事再生法の適用を申請。同日付けで端末の販売やサポートを停止している。ただし、同社の端末を取り扱うキャリアは、独自に販売、サポートを継続する意向だ

 2月には、環境に配慮し、再生素材をふんだんに使った「arrows N」をドコモから発売するなど、経営破綻のそぶりが見えなかっただけに、突然の発表には大きな衝撃が走った。同社の端末を販売するキャリアも、販売やサポートの継続を模索するなど、対応に追われた。同じ5月には、京セラもコンシューマー事業からの撤退を表明しており、日本のスマートフォン市場が大きく動く可能性も表面化している。ここでは、その影響や今後の行方を占っていきたい。

販売は好調だったFCNT、エントリーモデルへの偏りが遠因か

 メーカーの経営破綻というと、販売がふるわなかったようにも見えるが、実態は少々異なる。FCNTの場合、端末の売れ行きはよかったからだ。MM総研が5月に発表した22年度(22年4月から23年3月)通期の「国内携帯電話端末の出荷台数調査」によると、FCNTは携帯電話全体でシェア9.9%の3位、スマートフォンに絞ってもシェア8.0%で5位につけている。Androidスマートフォンを販売するメーカーに限れば、それぞれシェア2位、シェア4位になる。

FCNT MM総研が5月に発表したデータでは、フィーチャーフォンも含む携帯電話全体でシェア3位につけていた

 特に、同社の端末で人気があったのは、2021年末に投入した「arrows We」だ。同モデルは、2万円台前半のエントリーモデルで、プロセッサにはSnapdragon 480を採用。IPX5やIPX8/IP6Xの防水・防塵(じん)に対応しており、おサイフケータイなどの日本仕様も満たしていた。ソフトバンク版はeSIMに対応するなど、エントリーモデルとしてはスペックが充実していた端末だ。もともと、arrowsシリーズはドコモでの取り扱いが多かったが、3キャリアに販路を広げ、みんな(We)が売るarrowsになったことも販売好調の要因といえる。

FCNT
FCNT 販売が好調だったarrows We。2万円台前半と低価格ながら、日本仕様を完備していた。5Gにも対応しており、安くても普通に使えるスマートフォンとして人気を博していた

 実際、arrows Weの出荷台数は100万台を超え、2月に開催されたarrows Nの発表会では、目標を150万台に据えていることも明かされていた。同様に、らくらくスマートフォンも累計販売台数は770万台を超え、らくらくホンと合わせた「らくらくシリーズ」は3700万台を突破している。Appleやシャープには及んでいなかったものの、スマホに限れば、ソニーやサムスン電子の背中も見えていただけに、突然の経営破綻に衝撃が走った格好だ。

FCNT ドコモから発売されてきたらくらくスマートフォンは、累計販売台数で770万台を出荷している

 一方で、FCNTは、民事再生法の適用申請に至った理由として、売り上げが伸び悩みや、急激な円安の進行、世界的な物価高を挙げている。売り上げが低迷する中、コストだけが急騰した結果として、資金繰りが悪化してしまったというわけだ。確かに、arrows Weは販売こそ好調だったが、上記のように、1台あたりの販売価格は2万円強。キャリアへの納入価格は、それを下回る。出荷台数が100万台を超えたといっても、ミドルレンジモデルの50万台より売り上げは少なくなってしまう。

 エントリーモデルは、製造にかけられるコストにも限りがある。このような中、想定以上に円安や物価高が進めば、収益性が悪化してしまうことは避けられない。また、こうした端末は規模の経済がものをいう世界だ。グローバルで大量の端末を販売すれば、それだけ部材のコストは下がり、利益率を上げやすくなる。サムスン電子やXiaomi、OPPOといった海外メーカーが安価な端末を開発できるのも、そのためだ。同じ国内メーカーでも、シャープは親会社である鴻海(ホンハイ)グループの調達力を生かすことが可能。AQUOS senseシリーズやAQUOS wishシリーズに注力できている背景には、こうした事情もある。

FCNT シャープのAQUOS wishシリーズもターゲット層はarrows Weに近いが、生産背景などは大きく異なる。鴻海のスケールメリットを生かせる点で、シャープは有利だ

 翻ってFCNTの場合、端末を出荷しているのは日本市場のみ。シャープのように、親会社の調達力を生かす戦術も取れない。とはいえ、ミドルレンジモデルやハイエンドモデルを投入するのも容易ではない。フラグシップモデルの開発には、差別化が図れるメーカーの独自技術が必要な上に、培ってきたブランド力にもその成否が左右される。2020年にドコモから発売された「arrows 5G」以降、FCNTのフラグシップ後継機は途絶えていた。

FCNT フラグシップモデルは、ドコモの5Gサービス開始に合わせて投入したarrows 5G以降、登場していなかった
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