その間、市場環境は大きく変わった。特にインパクトが大きかったのは、2019年10月に改正された電気通信事業法による、端末購入補助の制限だ。この改正事業法によって、通信契約にひも付いた割引は2万2000円までとなり、ハイエンドモデルの販売に急ブレーキがかかった。FCNTの端末を最も多く採用しているドコモでもその傾向が顕著で、2019年には4割近くを占めていたハイエンドモデルが、2021年には2割弱まで比率が低下している。フラグシップモデルが定番化していることもあり、FCNTが端末を投入する余地が小さくなっていた。
2万円前半のarrows Weを投入した背景にも、この端末購入補助がある。もとの価格が2万円台の端末であれば、割引を最大までつけることで一括0円に近い価格で販売できる。キャリアにとっては、MNPを促す武器にしやすい。生き残りを懸けたスマートフォンメーカー各社が2万円台のエントリーモデルが続々と販売しているのは、そのためだ。こうした格安のスマートフォンが、端末はとにかく安い方がいいというユーザーの受け皿になっていたといえる。
ただ、先に述べたように、国内市場に販路が限定されている。レンジの異なる商品をミックスすることでリスクヘッジがしづらいFCNTのビジネスモデルは、とりわけエントリーモデルとの相性がよくない。同じ国内メーカーでも、ソニーやシャープは幅広い事業も手掛けているが、FCNTはスマートフォン専業。2025年にコンシューマー向けスマートフォンからの撤退を表明していた京セラのように、自ら退く道も残されていなかった。
「歴史にifはない」というが、仮に端末購入補助に制限がかかっていなかったり、制限がより緩やかだったりしたなら、FCNTの経営状況はここまで悪化していなかったかもしれない。総務省は現在、端末購入補助の規制を2万2000円から4万4000円に上げるのと同時に、端末そのものを大幅に値引く「白ロム割引」もこの内数に含めようとしているが、改正が遅きに失した感は否めない。
端末購入補助の上限を決める際に、ドコモはARPUと営業利益率に端末の平均利用期間をかけた数値として3万円3000円までの規制を主張していた。4万4000円に上限を上げる際にも、この算定式が援用されている。一方で、2019年の有識者会議では、特に強い根拠がなくこの金額が2万2000円に減額された経緯もある。こうした割引規制の是非やその結果がもたらした出来事は、改めて検証する必要がありそうだ。
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