2019年10月の電気通信事業法改正によって端末購入補助が2万2000円までに制限されて以降、ハイエンドモデルの販売には急ブレーキがかかった。その一方で、物価高や円安が急激に進行した結果、スマートフォン全体の価格も年々上昇している。特にハイエンドモデルはその傾向が顕著で、今では20万円を超えるモデルも珍しくなくなってきた。割賦を組むなど負担感を抑える施策は導入されているものの、ユーザーが購入をためらう状況は変わっていない。
ドコモの「いつでもカエドキプログラム+」は、そんな停滞感を打破するために導入された。既存のいつでもカエドキプログラムとの差分は、13回目から23回目までの残債免除にある。これによって、ユーザーはスマホのモデルチェンジに合わせた1年ごとの機種変更がしやすくなる。一方で、ドコモにとっては事実上の下取り価格が高くなりすぎるきらいもある。いつでもカエドキプログラムがどのようなビジネスモデルで成り立っているのか、疑問を覚えた向きもあるはずだ。こうした疑問をドコモにぶつけつつ、プログラム導入の狙いを読み解いていく。
いつでもカエドキプログラム+が既存のプログラムと大きく異なる点は、1年目の機種変更にある。この手のアップグレードプログラムは、他社も含め、たいてい2年間の利用が大前提。24回目に設定された残価や、48回中24回分の支払いを免除することで、下取り込みの実質価格を本体価格の半額程度に抑えている。これに対し、ドコモはいつでもカエドキプログラム+に24回目の残価だけでなく、13回目から23回目の残債免除も加えた。逆に言えば、ユーザーは12回分の料金を払えば済むということだ。
残価は端末価格の半額前後に設定されていることが多いため、12回分が免除されれば、大ざっぱに見ても実質価格は3分の1程度まで下がる可能性がある。例えば、9月1日に発売された「Galaxy Z Fold5」の場合、本体価格が約26万円なのに対し、12カ月目に早期利用すると実質価格は8万円弱に。早期利用料である1万2100円を加味しても、9万円を下回っており、横折りのフォルダブルスマホとしては異例の安さだ。Galaxy Zシリーズのモデルチェンジの周期は約1年。この仕組みを使えば、残債が2機種分重なることも減り、毎月支払う料金の負担も軽減される。
では、なぜドコモはいつでもカエドキプログラム+を導入したのか。同社でこの仕組みの導入をリードした営業本部 営業戦略部 営業戦略担当課長の那須翔氏は、「背景として、常に最新機種を使っていたいというお客さまが非常に(多く)いた」と語る。1年という短期に設定したのは、「モデルチェンジのサイクルで、そのサイクルに合わせたプログラムを導入できないかを検討した」(同)からだ。こうしたコメントからは、後継機が発売されるたびに乗り換えるというユーザーを想定していることがうかがえる。
「+」がつかないこれまでの「いつでもカエドキプログラム」にも、「早期利用特典」があり、23回目までの利用で毎月の残債が減額されていたが、「その利用は一定程度にとどまっていた」(同)という。「お客さまのニーズに鑑みるとやや低い状況が見えていたので、早期利用料を一部いただく形にはなるが、1年ごとに取り換えやすい仕組みを入れた」(同)ことが、導入の背景だ。
ただ、端末の買い替えサイクルは年々伸び、今では平均で3年以上が当たり前。調査によって数値にはバラつきがある点には留意が必要だが、5年に迫る結果が出ていることもある。本当に、モデルチェンジごとに1年で買い替えたいユーザーは多いのか。那須氏によると、「実際に1年で買い替えている方と、新しいモデルを使いたいがインフレや半導体不足で端末代が高騰している中で我慢している方がいる」(同)という。後者は、実際には機種変更していないため、データ上は平均利用期間を長くしている。ドコモでは、ここにニーズがあると判断した。
現状では、先に挙げたGalaxy Z Fold5に加え、フリップ型の「Galaxy Z Flip5」が対象になっているが、どちらもいわゆるハイエンドモデル。ベースとなったいつでもカエドキプログラムも、「ハイエンド端末ほど加入率が高い」(同)ため、提供開始が可能なタイミングと合った2モデルでサービスをスタートした。
那須氏が「裏返すと、廉価端末の加入率はハイエンドに比べるとかなり劣っている」と語っていたことからも分かる通り、全機種に拡大するのは難しいようだが、「ハイエンドモデルを中心にしながら、基本は拡大していく」方針。来週(9月13日)発表されるとみられるiPhone 15シリーズも、いつでもカエドキプログラム+に対応する可能性は高そうだ。
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