「スマホのバッテリー交換」を容易にする動きが進む それでもデメリットが消えない理由(1/2 ページ)

» 2023年11月12日 11時51分 公開
[はやぽんITmedia]

 EUにてスマートフォンのバッテリー交換規制が強化され、2027年にはバッテリーを容易に交換できる機種でないと、同地域では販売できなくなる見込みだ。これについてメーカー各社も既に手を打ち始めている。今回は最新の動向について追ってみよう。

現状の機種でも、交換用の工具を付属させれば規制はクリアできる

 現在報道されるEUのバッテリー交換規制は、従来の携帯電話のように「工具なしで交換」できる状態を強制するわけではない。工具なしでの交換方法以外に、市販の工具を用いて容易に交換できる構造にすること、市販の工具で修理できない場合は、専用の工具などの修理に必要な道具を部品とともに無償で提供することで規制をクリアできるとしている。

 例えば、バックパネルがプラスねじで固定されている構成の機種はもちろん、従来のiPhoneでもねじを外すための専用ドライバー、画面やバッテリーを固定する接着剤を溶かす薬品などを交換部品と一緒に付属する場合は、この規制をクリアできることとなる。

バッテリー iPhone用の修理工具はネット通販でも販売されているが、このような工具をリペアキットとして修理部品に付属させれば規制を回避できる

 もう1つがバッテリーを容易に交換可能とするため、その手順を容易にすることも規制に含まれている。どちらかといえば、メーカーとしてのハードウェア設計が問われるのはこちらだ。

 現状のスマートフォンのバッテリーを交換するにあたって難関なのが、バッテリーの交換時に取り外す「フレキシブルフラットケーブル(以下、FFC)」と呼ばれる細い配線や、粘着テープなどで強固に固定されたバッテリーだ。

 FFCは、各種センサーや本体下部の基板とメインボードを接続するのに利用されているケーブルのこと。これを分解するときに不用意に引っ掛けたり、無理やり外したりすると、断線やコネクターの破損によって故障の原因になる。バッテリーも事故防止のため、専用の粘着テープなどで強固に固定されており、これも無理に外そうとするとバッテリーが変形して思わぬ事故の原因になる。また、これらを処理する作業手順も増えることから、容易に交換する妨げとなっているのだ。

バッテリー 下部基板とメイン基板をつなぐFFCは、バッテリーの上にあることが多い。これを修理経験のない個人が適切に外すことは難しい。画像はXperia 1 Vを分解したもの

比較的修理しやすいiPhone、サムスンはGalaxy S23から新タイプのバッテリーを搭載

 EUの規制を見越してか、修理の難度には変化が生まれつつある。iFixitが公開しているiPhone 14のバッテリー交換手順を見ると、バックパネルを開けるとすぐバッテリーにアクセスできるようになっている。バッテリーの上にはFFCといったものは存在せず、ユーザーは比較的容易にバッテリーを交換できる。

 また、スマートフォンでは本体設計の関係で、画面側から分解してバッテリー交換を行う機種も多く、これらの環境では画面を外そうとした際に、画面側のケーブルやコネクターを破損させてしまう可能性が高い。そのような意味でも、バックパネル側からバッテリーの交換ができるiPhoneは「修理しやすい」機種といえる。

 Android端末ではサムスンのGalaxyが既に対応を進めている。2023年発売のGalaxy S23シリーズから新しいタイプのバッテリーが搭載されており、そのバッテリーにはタブのようなものがついている。このタブを引っ張ると容易にバッテリーが外せる仕組みだ。

 上記の通り、強固に固定されたバッテリーを無理に外そうとすると、変形して発火などの思わぬ事故の要因となっていた。これを簡単に外せる仕様にしたのは、欧州のバッテリー交換に対する取り組みに配慮した結果と考えることができる。

バッテリー Galaxy Z Fold 5(右側)の分解モデルでもバッテリーには青い耳のような「タブ」が見られる。折りたたみのスマートフォンでも、将来的にはバッテリー交換が容易にできる方向だと感じ取れた

 これらのバッテリー交換を容易にする取り組みはEUにて2027年以降に販売されるスマートフォンでは必須となり、これらの地域で大きなシェアをもつAppleやサムスンは早くも上記のような形で対応してきている。

 もちろん、これはEUで発売されるスマートフォン全てに該当するので、この他のメーカーも容易にバッテリー交換を可能にするための対応が必要になってくる。今回は同地域向けにスマートフォンを展開するモトローラに、今後展開するスマートフォンは「バッテリー交換を簡単にする方針なのか」と確認をとってみたところ、以下のような回答を得ることができた。

 「バッテリーのユーザー交換を可能にすることの義務化や、その他のEUにおける義務化の動きに関しては承知しており、社内で検討は続けています。しかし現時点ではいつからどのように製品に反映し品質を確保するかについては決定事項はございません」

 同社はEUの規制や市場動向について把握しており、社内ではAppleやサムスンのような対応について「検討している」段階であるとした。この規制については2027年までの猶予期間が設けられているので、それまでは今現在販売されているような機種と同様の対策でも問題はない。

 その一方で、既にEUでは「修理のしやすさ」が市場でスマートフォンを選択する上での差別化要素になっており、欧州方面にスマートフォンを展開する各社は既に対応を進めたり、対策を検討する段階となっている。Appleやサムスンが先手を打つのも、規制が適用された後の製品展開やアフターサービスを見越しての先行投資と考えることができる。

バッテリー モトローラではrazr 40 ultraをはじめとした折りたたみスマホもグローバル展開している。このようなスマートフォンでも将来的には、ある程度容易にバッテリー交換ができるように設計しなければならなくなる
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