こうして考えてみると、三種の神器がスマートフォンに必ずしも必須、とは言いづらい。最近では、三種の神器という言葉も耳にする機会が減ったが、現代のスマートフォンにおける三種の神器はあるだろうか。
強いて言えば複眼カメラ、防水、イヤフォンジャックだろうか。複眼カメラについては、中国Huaweiが“世界初”の3眼カメラ搭載スマートフォン「HUAWEI P20 Pro」を2018年に発売して以降、他のスマートフォンメーカーの端末にも当たり前のように複眼カメラが搭載された。
筆者はとあるスマートフォンメーカーの技術者に「1つのカメラだけでは望遠、超広角、広角の3要素全てをまかなうのは難しい」と聞いたことがある。1つで済めばその分だけコストを抑えられるだろうし、端末の重量もその分だけ軽くなるが、SNSで誰でも写真や動画を投稿できるようになった今、カメラの複眼化やカメラ機能の強化が欠かせなくなった。
防水については、日本の端末の特異性の現れでもあったが、これも今となっては“ほぼ”当たり前のようになった。日本で高いシェアを持つAppleが初めて防水(Appleでは耐水と表記)性能を有した「iPhone 7」を2016年に発売した当初、日本ではかなり脚光を浴びた。それもあってかグローバルモデルでも、水しぶき程度に耐えられる防滴、最長30分間の水没に耐えられる防水対応をうたう例が増えた。
スマートフォンユーザーは必ずしも晴天の日だけに外出してスマートフォンを使うわけではないし、台所などの水まわりにおいて、スマートフォンでレシピを見ながら料理をする人もいるだろう。iPhoneに限らず防滴、防水の性能は必須といえるはずだ。
イヤフォンジャックは、 iPhone 7以降で除外されたことが、市場や他の端末に大きく影響していると見ているが、実のところAppleが同じタイミングから「AirPods」などのワイヤレスイヤフォンの使用を促進したことで、イヤフォンジャック搭載端末が減った。日本でイヤフォンジャックを備えた端末を継続的に投入し続けているのはソニーの「Xperia」やシャープの「AQUOS」くらいだ。
Bluetoothのワイヤレスイヤフォンでも事足りると言えばそうなのだが、Bluetooth搭載のワイヤレスイヤフォンもバッテリーで駆動するデバイスがほとんどでバッテリーの持続時間を気にしながら使わなければならない他、Bluetoothと同じ2.4GHz帯の機器(無線LANルーターや、電子レンジなど)との干渉を考えると、イヤフォンジャックの方がよいと考える人もいるはずだ。
まとめると、スマートフォンの普及とともに、スマートフォンに対応するサービスや機能が増え、ガラパゴスとやゆされた日本のフィーチャーフォンの三種の神器は必須と言えなくなったわけだ。
複眼カメラ、防水、イヤフォンジャックも、人によっては「三種の神器と言えない」と考えるだろう。スマートフォンのハードが進化して、ネットワークが高度化したことで、そのような定義すら必要なくなった、ともいえる。もっとも5G時代においては、端末固有の機能に限らず、スマートフォン、ネットワーク、プラットフォームが、モバイル端末における三種の神器と捉えてもいいはずだ。
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