シャープに聞く「AQUOS sense8」ヒットの理由 ブレない“ちょうどいい”のコンセプト(1/3 ページ)

» 2024年02月27日 11時42分 公開
[石野純也ITmedia]

 “ど真ん中”のミッドレンジモデルとして、高い人気を誇るシャープのAQUOS senseシリーズ。その現行モデルが、2023年10月に発売された「AQUOS sense8」だ。同機は高い完成度が評価され、取り扱うキャリアのオンラインショップでも売れ筋になっている。オープンマーケット版はMVNO各社が取り扱っているが、中には入荷後、すぐに完売してしまう事業者もあるほどだ。海外での展開も始まっており、台湾やインドネシア市場で発売した。

 前モデルからプロセッサを刷新し、処理能力が大きく向上したことに加え、カメラ、特に暗所時の表現力が高まっているのが同機の特徴。AQUOS senseシリーズとして、初めて90Hz駆動のIGZO OLEDを採用しており、ハイエンドモデルでおなじみの黒いフレームを挟んで残像感を減らす機能にも対応する。ミッドレンジモデルとしては珍しく、3回のOSバージョンアップを保証したことも話題を集めた。

 そんなAQUOS sense8は、どのような経緯で企画、開発されたのか。海外メーカーも含め、ミッドレンジモデルの市場が激戦区になっている中、シャープはなぜこの分野で勝ち残れているのか。通信事業本部 パーソナル通信事業部 事業部長の中江優晃氏に、AQUOS sense8の狙いや、その勝ち筋を聞いた。

AQUOS sense8
AQUOS sense8 2023年10月の発売からヒットをキープしているシャープの「AQUOS sense8」

「気軽にガッツリ」がコンセプト カメラはソフトウェアを改善

―― 最初に、AQUOS sense8のコンセプトを教えてください。

中江氏 気軽にガッツリ、まさしくこれがコンセプトです。スマホのミドルレンジに求められるのは気軽に使えること。ガッツリは電池容量のところですが、バッテリーを気にせず、なおかつパフォーマンスやカメラも「必要十分」であることが必要です。どのようなものを必要十分と捉えるかは人それぞれですが、よくあるミッドレンジモデルのチップセットだと、気軽にというところに対して少しパフォーマンスが足りません。これを上げようとするとコストの調整が必要になりますが、われわれの思う気軽にガッツリを実現するために頑張りました。さらに、ハードウェアの丈夫さも盛り込んでいます。

 こういったところが、お客さまに対して響いています。X(旧Twitter)を見ていると、「この価格でこのパフォーマンス」といった意見や、「これでいいんだ」という意見があります。われわれがプロモーションで言っている言葉そのままで、まさに(狙い通り)とうれしくなります。

AQUOS sense8 シャープ 通信事業本部 パーソナル通信事業部 事業部長の中江優晃氏

―― カメラに関しては、センサーサイズなどはそのままだと思います。ここにはどのような違いがあるのでしょうか。

中江氏 カメラは、センサーだけで決まらない部分があります。その後段のソフトウェアやISPの性能で、仕上がりはだいぶ変わります。センサーは、前回の「AQUOS sense7」から1/1.55型にしていたので、これはそのまま使っています。その上で、チップセットを「Snapdragon 6 Gen 1」にすることで、ISP側が進化しました。これならこのセンサーをもっと使いこなせるということで、センサーは変えずに、ソフトウェア側で進化を見せていくようにしました。ただし、ハードウェアとしてはOIS(光学式手ブレ補正)には対応しています。

AQUOS sense8 カメラのセンサーはAQUOS sense7と同じ1/1.55型だが、ソフトウェアを改善したという

―― ISP部分はかなり変わったのでしょうか。

中江氏 ノイズリダクションが大きく変わりました。今までは、写真の全面に同じ処理しかかけられませんでしたが、Snapdragon 6 Gen 1のISPは、部分ごとに処理を変えるだけの性能があります。ノイズリダクションでディテールを損なわず雰囲気を出すための調整はかなり難しいのですが、ここで表現をつけられたのがかなり大きいですね。

―― 画像を分析した上でパーツごとに処理をかけるセマンティック・セグメンテーションを適用したということでしょうか。

中江氏 まさにそうです。あとは、RAWでのHDRに対応しました。カメラのISPにはかなり工夫をしているので、同じセンサーではありますが、AQUOS sense7と比較してもかなり進化しているところが多いですね。これは、(写真を)見て分かるぐらい違います。

―― 確かに、夜景を撮ってみたらHDRがしっかり効いていて、街灯のような強い光源も白飛びせずに映っていました。レンズのゴーストなどもなく、仕上がりの完成度は高いと思いました。

中江氏 夜景はチューニングの方法にもすごくこだわりました。単純にHDRをかけるだけだと、空が明るくなりすぎてしまいます。夜景は黒をしっかり締めて、明るいところと暗いところの幅を見せるようにしました。全部が持ち上がると、ディテールとして面白くない写真になるだけでなく、ノイズまで持ち上がってしまう。そうならないよう、フィールド試験もかなりやりました。

ライカが直接関わっていなくても、画質の「正解」は分かる

―― AQUOS sense8はライカブランドがありませんが、AQUOS Rシリーズで培ったノウハウも生きているのでしょうか。

中江氏 ライカが直接関わっていないモデルでも、一緒に技術開発したメンバーが財産になっています。やはり、正解を知っているのが強いですね。画質調整は調整というぐらいなので、正解があって、そこにどう近づけるかです。正解が分かっていないのと、正解があってそこに近づけるのとでは、効率がまったく違う。協業でライカと画質を語るメンバーが増えてきましたが、これが大きいですね。何がよくて何が悪いか、これまではいろいろな人に聞いて多数決になっていたところがありましたが、「これがいい」と語れるようになりました。いろいろな意見がある中で、これがなぜいいのかを説明できる。その意味では、われわれのリテラシーも高くなっています。そういう価値観が生まれたのは相当大きいですね。

―― ただ、それをユーザーに伝えるのはなかなか難しそうですね。

中江氏 はい。画素数やセンサーサイズはうたいやすいので、どうしてもそちらに行きたくなってしまう。ただ、やりたい画質はこれなので、これ(ハードウェア)で十分達成できるというのは、理論的に見えるようになってきました。

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