―― 頑丈という意味でいえば、背面からフレームまでをアルミで一体化したバスタブ構造は継承しています。この理由を教えてください。
中江氏 優先順位としてパフォーマンスとカメラに投資をすると決め、さらに提供価格を一緒にしようとすると、バスタブ構造は外せません。これに関してはAQUOS sense7でも好評だったので、その資産をそのまま使い、進化すべきところに注力して原資を割り振る戦略にしました。こういった中で、バスタブ構造を踏襲しています。実際、この構造は完成度が高く、特に頑丈というのがいいですね。
―― コスト面も考慮してというのが意外でした。
中江氏 はい。コストは抑えられます。過去モデルの資産を流用することが、(コストカットに)有利に働くからです。負の遺産を継承してしまうと悪い結果が変わらないことになってしまいますが、評価を得た部分を踏襲するのはいいことだと思います。
―― やはり強度も出しやすいんですね。
中江氏 出しやすいですね。剛性感というか、持ったときの安心感が違います。持った瞬間、ガッツリ安心して使えると思えるようなものがいい。それもあって、この形を使っています。制作過程をYouTubeにアップしていますが、地味な動画ながら再生数は伸びています(笑)。
―― 重さもあまりないですね。ガラスを採用するより有利になるのでしょうか。
中江氏 重さは持ってギリギリ感じないレベルですが、フラグシップが重すぎるというのはあると思います(笑)。作り方にもよりますが、ガラスの方が金属よりは少し重たくなりますね。
―― デザイン面では、センターカメラを踏襲しています。
中江氏 23年度はセンターカメラデザインしています。ただし、デザインも進化していくので、今後もこれなのかというと、違う形になる可能性はあります。センターカメラにしたことでAQUOSとしての差別化はできましたが、ここはもう一歩進めていきたいと思っています。ただし、年間を通して(AQUOS Rシリーズとの)一貫性は持たせたいですね。
―― 使ってみて一点残念だったのが、バイブのフィードバックが大味だったところです。ハイエンドモデルのように、細かな反応を返すような部材にするのは難しいのでしょうか。
中江氏 残念ながら、今回の進化ポイントの中には入っていません。ただ、バイスも含めてユーザーインタフェース(UI)なので、少しずついいものにはしていきたいと考えています。
―― ハイエンドのようなバイブはコスト的に厳しいのでしょうか。
中江氏 部品そのものが高いというより、構造も含めて変えなければいけなくなるからです。限られたスペースに配置する中で、部品を変えるのはそれなりにコストがかかります。特にAQUOS senseシリーズはギリギリのところで設計している部分があり、バイブ1つ変えると芋づる式に他に波及してしまう。このサイズの中に、1/1.55型のセンサーを入れている時点で、けっこうギリギリになっているんです。
―― なるほど。部品そのものではなく、設計のやり直しが必要になってしまうんですね。同じ設計に関わる部分だと、今回、指紋センサーが電源キーと一体になり、操作がしやすくなりました。
中江氏 やはり、こちらの方が自然ですよね。UI、UX(ユーザー体験)は自然であることが一番です。自然にすべきだということで、この仕様にしました。位置はこの辺と決めていましたが、人間工学的なアプローチも取りながら配置しています。
―― AQUOS sense8は、電源キーの下に指紋センサーがあったので、どちらに指を当てたらいいのか迷ってしまいました。
中江氏 どちらも電源キーっぽく見えてしまったのは反省点です。
―― 一体化させるのは難しかったのでしょうか。
中江氏 防水も含め、技術的に課題があった部分を解決しています。押し込めて、かつセンサーになっていると難易度が上がります。品質面での課題もありました。使っているうちに指紋に反応しづらくなる。単純な電源キーなら押し込んだことを検知する配線だけでいいのですが、指紋センサーを兼ねるとそれが増えてしまう。その中で防水パッキンの処理もしなければなりません。
―― 画面内指紋センサーという手もあったと思いますが、そうしなかった理由はありますか。
中江氏 画面内という話も検討の中ではありましたが、AQUOS senseシリーズを使う人とっての手軽さはやはりキータイプです。また、画面内指紋センサーだとどうしても厚みが出てしまうこともあって、キーを選択しました。
―― 端末本体の話ではありませんが、今回は純正ケースも出しています。今までになかった取り組みだと思いますが、その理由も教えてください。
中江氏 アクセサリーも含めてブランド力を高めていきたいという考えがありました。AQUOSのブランドを高めようとすると、純正ケースを持っていないのはやはり訴求として弱い。今回は、メーカーだからこそできるクオリティーでケースを作っています。われわれは(端末に着色する実際の)色を持っているので、それに合わせて作り込んでいます。今後も、これはやっていきます。AQUOS senseだけでなく、全ての機種でです。
AQUOSとして純正ケースが必要となったのは、やはり海外展開の影響が大きかったですね。多くのメーカーは純正ケースを持ち、ブランドとして訴求しています。サードパーティーだけだと、ここが弱い。特に海外だと、日本よりもスマホのケースがズラッと店頭に並ぶので、ケースがないと売り場での訴求が弱くなってしまいます。おかげさまで好評で、ご購入もいただけています。
―― 話は変わって、ガイドライン改正で端末の価格設定が変わりました。AQUOS sense8は、何か影響はありましたか。
中江氏 あまり影響は受けていません。実は売り方もまだ大きくは変わっていない。ありがたいことに、値引きとは関係なく買われています。今後の影響はまだ分かりませんが、少なくともAQUOS senseにおいてはありません。
―― なるほど。もともと価格が安いので、実質価格も変わってないですしね。今回、その中でOSのアップデート回数を増やしています。この狙いを教えてください。
中江氏 スマホが高額になる中で、使い方が変わり、買い替えのサイクルが延びています。長く使えるのに、サポートが切れたので買い替えてくださいというのは、やはりメーカーの姿勢としておかしい。これだけ使えるものを作れているのであればと考え、5年間というサポートを打ち出しました。中には7年というメーカーもありますが、それも含めてコストに効いてしまうので、お客さまの購入するときの対価と長く使うための対価のバランスを取った中で5年とさせていただきました。
―― 長期サポートをするとリセールバリューが上がり、結果として実質価格が安くなる……というような狙いもあったのでしょうか。
中江氏 (笑)。それは、結果としてですね(笑)。これをやるには、かなり早い段階から仕込む必要があります。5年サポートができるハードウェアが必要で、これも設計段階で盛り込む必要がある。そういう効果もあればいいなとは思っています。
変えるべきとところと、残すべきところを上手に見極めつつ、手に届きやすい価格を実現するというのがAQUOS senseシリーズの真骨頂だ。インタビューしていると、そのバランスの取り方がAQUOS sense8で、さらにうまくなった印象を受けた。特にカメラに関しては、必要十分なハードウェアのスペックをしっかり吟味できるようになっている。AQUOS Rシリーズでライカと協業した成果が、間接的にAQUOS senseの完成度向上に一役買っているというわけだ。
海外展開が徐々に拡大し、そのニーズが端末の開発に反映されているというエピソードも興味深かった。スクロールした際の動き方といった感覚的な部分にまで、それが徹底されていることがうかがえた。このような“ちょうどいい”を徹底して考え抜いているところに、AQUOS senseがヒットしている理由がある。サポート期間も延び、ますますユーザーに受け入れられやすい端末になったといえそうだ。
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