ジョルダンに聞く「乗換案内」30年の歩み 「iPhoneが新しい地平を開いてくれた」(4/4 ページ)

» 2024年03月19日 06時00分 公開
[石井徹ITmedia]
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ほぼ全国のバス路線もカバー 正しく案内できるよう人の目で検証

―― 最近では、バスの運行情報の拡充も顕著ですね。

安田氏 乗換案内では最初のPC版から都営バスの運行情報に対応していました。その後大阪や京都などの大都市圏から対応を進めていきました。スマホ初期の2013年には大都市圏はほぼほぼカバーしています。その後の10年でさらに800路線を追加して、コミュニティーバスも含めた全国のほとんどのバス路線をカバーしています。

長岡氏 バスの運行情報は、鉄道とは違う難しさがあります。網の目のようにネットワークを組んでいて、運行形態は柔軟に変更されることがあります。運行形態も多種多様で、5分に1本発車する路線もあれば、1日に2〜3本しか運航しない便もあります。

乗換案内アプリのリアルタイム運行情報乗換案内アプリのリアルタイム運行情報乗換案内アプリのリアルタイム運行情報 一部のバス路線では、リアルタイム運行情報に対応する

―― バスの運行情報を正しく案内するのも大変そうですね。

長岡氏 そうですね。情報の正確性は弊社が自信を持っています。というのも、人の目でしっかりと検証しているんです。

 バスの運行情報は、バス会社さんが公開したデータを利用したり、資料を取り寄せて弊社で検索可能に起こしたりすることもあります。どちらの場合も、このデータは矛盾がないのかを逐一検証しています。

 時には、いただいたデータに矛盾や打ち間違いがあったり、ルートが複雑で資料からは運行系統が正確に把握できなかったりすることもあります。そうした場合には、必ず確認を1つ1つ取って、経路や位置が正確に出せるように案内しています。

ジョルダンの長岡豪氏 ジョルダンの長岡豪氏

―― Google マップがGTFSという情報規格を推進して、交通機関さんから直接データをアップロードすることを推奨しているのとは対照的ですね。

長岡氏 もちろん、私たちも事業者さんからGTFSフォーマットでいただければ、そこからの処理が早いので、なるべくその形式を活用しています。また、紙のダイヤ情報をGTFSデータに起こす作業を委託されることもあります。そういう縁の下の力持ち的な作業は、スマホ草創期から減っているどころか、むしろ増えている状況です。

MaaS事業への挑戦 チケットの予約や決済もサポート

―― 交通分野のデジタル化の動きとしてMaaS(Mobility as a Service)が注目されています。その一類型として、経路検索アプリから交通機関のチケットを予約する形態があります。乗換案内はどのように取り組んでいるのか、現在の状況と今後の展望をお聞かせください。

長岡氏 スマホ片手に、より自由な旅をしてもらいたい。ジョルダンはそんな思いから、2018年にMaaS事業を開始しました。

 乗換案内アプリでは、「モバイルチケット」として、全国各地の交通機関の乗り放題型乗車券を販売しています。また、JR東日本の「えきねっと」、JR東海の「エクスプレス予約」と連携して、経路検索の結果から予約ページに飛べるようにもなりました。

 MaaSプラットフォームでは今、JMaaSという子会社を通して子会社を運営しています。ライバルとなる経路検索事業者も含めて、事業者間の幅広い連携を進めていきます。

その1つのモデルケースとして、八重山諸島でフェリーとバスをシームレスにつないだ「石垣・西表周遊フリーパス」はいい例だと思います。沖縄の石垣島と西表島の間には、2つのフェリー会社があり、港でチケットの2社の販売窓口が並んでいます。初めて訪れる観光客には、どちらのチケットを買えば船に乗れるのか、分かりづらいという課題がありました。

乗換案内のデジタルチケット乗換案内のデジタルチケット 全国の交通機関のデジタルチケットを販売。アプリを見せるだけで交通機関を利用できる。

 「石垣・西表周遊フリーパス」ではこの2社のどちらでも使えるデジタルチケットを提供しました。このチケットの売り上げは、実際の利用状況に基づき、収益を2社間で適切に分配できるよう、JMaaSのシステムを活用しました。

 分からないというのが解消されるのが、すごく利用者さんからの安心感というか評価が高く、「来た船に乗れるようになりました」と高評価をいただいています。これもエリアMaaSのいい在り方の1つかなと思っています。

 分断されがちな交通サービスを一本化し、誰もが自由に移動を楽しめる世界を作る。それはジョルダンが30年来、変わらずに挑戦してきたことでもあります。MaaSを通じて、その理想に一歩ずつ近づいていければと思っています。

―― 本日はどうもありがとうございました。

取材を終えて:「泥臭さ」がジョルダンの強み

 「乗換案内」アプリが提供するきめこまやかな案内の裏には、地道な改善の積み重ねがあった。ユーザーが迷わないような地図の工夫もしかり、外部連携を着実に進めていることもしかりだ。その中でも印象的なのは「足で検証する」ことを重視する姿勢だ。

 現場へ赴き、足で検証する。その地道で“泥臭い”努力こそが、サービスへの信頼を培っている。取材を通して、改めてそのことを教えられた気がする。電子ブックから始まり、スマホの時代、そしてMaaSの時代にあっても一貫して変わらない、ジョルダンの信念であり続けるのだろう。

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