ソニーのデジタルカメラ「α」や型番に「FX」がつくカムコーダーと接続し、高速・低遅延で映像を伝送する通信機器――それが、3月22日に発売された「ポータブルデータトランスミッター PDF-FP1」だ。正面から見るとスマホのような外観だが、音声通話には非対応。背面には本体を冷却するための大型のファンや、LAN端子、USB Type-C端子、HDMI端子などを備える。カメラと三脚を固定するネジ穴も備える。OSにはAndroidが採用され、この中で「Transfer & Tagging」や「Creators' App」を利用できる。
これらを使うと、αなどのカメラで撮影したデータをクラウドにアップロードしたり、YouTubeなどで動画配信したりすることが可能になる。その位置付けは、デジカメの通信機能を担うためのデバイスといったところ。通信に特化していることもあり、ミリ波の5Gや5G SA、eSIM、デュアルSIMにも対応。2つの回線を設定したしきい値に応じて、自動で切り替える機能も備える。
一方で、ソニーはスマホとして、Xperiaシリーズをラインアップに持つ。かつては、デジカメのディスプレイや通信を担うための端末として、「Xperia PRO」も販売していた。また、上記のアプリはXperiaに限らず、既存のスマホにもインストールできる。では、こうした端末とポータブルデータトランスミッターは何が違うのか。同社で開発に携わった映像B2B事業室の加藤大知氏と、商品技術センターの高島宏一郎氏に、その経緯や製品の特長を聞いた。
―― 最初に、どういった経緯でポータブルデータトランスミッターを開発することになったのかを教えてください。
加藤氏 これまでも、Xperiaなどを使い、弊社のαやカムコーダーで映像を伝送することはできました。ただ、もっと安定したデータ伝送ができないかとカムコーダーのチームが考え、Xperiaの技術を使って通信機器を作ることになりました。αのお客さまも、データをいかに送るかといったことや、映像配信にはご興味を持たれています。実際、他社の製品ですが「LiveU」という中継機器を活用している事例もありました。
―― 形状はスマホを応用したことが分かりますが、なぜこのような形になったのでしょう。
高島氏 映像と通信の掛け合わせというテーマで考えました。カムコーダーを含むビジネスのコンテンツ伝送を考えたとき、今、われわれが持っているアセットには、「Creators' Cloud」などのiOSやAndroidに対応したサービスがあります。そこに寄り添うために、Androidという選択をしました。イメージング部隊が持っている伝送サービスに寄り添うためのAndroidだったということです。こういった形で商品化したのはあくまで手段で、目的としては、撮ったものが無意識にクラウドに届いていることです。
加藤氏 安定性や有線でつなぐこと、アプリの操作性を考え、この形になりました。
―― 外部端子がこれでもかと搭載されていますね。これは、既存のスマホにはない魅力だと思いました。
加藤氏 HDMIはあくまで映像をポータブルデータトランスミッターに伝送するためのもので、USB Type-Cや有線LANは、ネット側にデータを転送するためのもので、役割が異なります。ここは、使っていただくアプリによって変わってきます。
高島氏 実は市場ごとに好まれる端子が違うんです。写真を送りたいだけなので有線LANだけあればいいという職種や、USB Type-CのUVCが必要といった職種などに分かれています。かつ、その先にトータルソリューションとして他社のサービスと協業することも踏まえた結果、ここまで端子がたくさんつくことになりました。
―― 以前、ソニーはカメラと連携するスマホとしてXperia PROを出していました。スマホの形状では足りないことがあったのでしょうか。
高島氏 大きくは2つあります。ポータブルデータトランスミッターには冷却ファンと大型のヒートシンクが入っていますが、その体積が必要だったのが1つ。もう1つは、売りである無線特性です。ファン、ヒートシンク、各種端子を追加しながら、無線特性を通常のスマホと比べても上げていく必要がありました。また、この端末の場合、ケーブルをつなげたまま使うことも想定しています。それらをなるべく小型化した結果として、この形状になりました。
―― 逆に、Xperia PROを開発したノウハウは生かされているのでしょうか。
加藤氏 まずは端子類ですね。Xperia PROにはMicro HDMIが搭載されていましたが、あれだと壊れてしまいそうで怖いという方が多かったですね。あとは、熱暴走の話もあります。長時間撮影していると、どうしても熱を持ってしまいまったので、こういったところは、ノウハウというより教訓として盛り込んでいます。
高島氏 HDMIの継承と進化に加えて、ネットワークビジュアライザーもXperia PROから受け継いでいます。もう1つ、Xperia PROもミリ波を訴求したモデルでしたが、そのアセットは引き継がれています。
―― 熱対策はかなり力を入れたようですが。
高島氏 設計部隊がこの商品を使ってセルラーの実網環境で検証ができるようになったのが秋で、少し涼しくなってしまっていました。ただ、それでも総合評価はしなければなりません。実網の熱的に厳しい環境で、かつエンコーディングをしながら、さらにカメラと連動して動くという3つを総合的に再現させながら評価をしていきました。そのためには、ちゃんと電波が届く、暑い環境が必要でした。そこで、密閉できる空間を用意し、セルラーが吹いているところまで持っていき、人口太陽と呼ばれる10万ルクスぐらい出る照明を入れ、熱で止まってしまわないかどうかをテストしています。実際、4時間以上配信をしましたが、それでも熱で止まることはなかったですね。
―― 「Xperia PRO II」のような位置付けにすることもできたと思いますが、なぜXperiaとしなかったのでしょうか。
加藤氏 まず、作っているチームが違います。また、これはあくまで“αのアクセサリー”として投入しています。Xperiaがダメなのかといった話ではなく、出どころが違う。形がスマホのようなので「Xperiaじゃないの?」と聞かれることはありますが、コンセプトが違います。
―― コンセプトというと、単体で使うことは考えていないようなところでしょうか。
加藤氏 そうです。ただ、プレスリリースを出した結果、多数の反響をいただき、「こう使える」「ああ使える」といった声はいただいています。(単体で使う)想定外の使われ方も、X(旧Twitter)に載っていたりしました(笑)。
―― そこはAndroidを採用したメリットですね。
高島氏 はい。広く構えることができたと思います。
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