なぜXperiaではない? ソニーに聞く「ポータブルデータトランスミッター」開発背景(1/2 ページ)

» 2024年03月22日 11時30分 公開
[石野純也ITmedia]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 ソニーのデジタルカメラ「α」や型番に「FX」がつくカムコーダーと接続し、高速・低遅延で映像を伝送する通信機器――それが、3月22日に発売された「ポータブルデータトランスミッター PDF-FP1」だ。正面から見るとスマホのような外観だが、音声通話には非対応。背面には本体を冷却するための大型のファンや、LAN端子、USB Type-C端子、HDMI端子などを備える。カメラと三脚を固定するネジ穴も備える。OSにはAndroidが採用され、この中で「Transfer & Tagging」や「Creators' App」を利用できる。

ポータブルデータトランスミッター
ポータブルデータトランスミッター ソニーのカメラと接続してデータを伝送できる「ポータブルデータトランスミッター」

 これらを使うと、αなどのカメラで撮影したデータをクラウドにアップロードしたり、YouTubeなどで動画配信したりすることが可能になる。その位置付けは、デジカメの通信機能を担うためのデバイスといったところ。通信に特化していることもあり、ミリ波の5Gや5G SA、eSIM、デュアルSIMにも対応。2つの回線を設定したしきい値に応じて、自動で切り替える機能も備える。

 一方で、ソニーはスマホとして、Xperiaシリーズをラインアップに持つ。かつては、デジカメのディスプレイや通信を担うための端末として、「Xperia PRO」も販売していた。また、上記のアプリはXperiaに限らず、既存のスマホにもインストールできる。では、こうした端末とポータブルデータトランスミッターは何が違うのか。同社で開発に携わった映像B2B事業室の加藤大知氏と、商品技術センターの高島宏一郎氏に、その経緯や製品の特長を聞いた。

映像と通信の掛け合わせというテーマで考えてAndroid端末に

ポータブルデータトランスミッター ソニー 映像B2B事業室の加藤大知氏

―― 最初に、どういった経緯でポータブルデータトランスミッターを開発することになったのかを教えてください。

加藤氏 これまでも、Xperiaなどを使い、弊社のαやカムコーダーで映像を伝送することはできました。ただ、もっと安定したデータ伝送ができないかとカムコーダーのチームが考え、Xperiaの技術を使って通信機器を作ることになりました。αのお客さまも、データをいかに送るかといったことや、映像配信にはご興味を持たれています。実際、他社の製品ですが「LiveU」という中継機器を活用している事例もありました。

―― 形状はスマホを応用したことが分かりますが、なぜこのような形になったのでしょう。

高島氏 映像と通信の掛け合わせというテーマで考えました。カムコーダーを含むビジネスのコンテンツ伝送を考えたとき、今、われわれが持っているアセットには、「Creators' Cloud」などのiOSやAndroidに対応したサービスがあります。そこに寄り添うために、Androidという選択をしました。イメージング部隊が持っている伝送サービスに寄り添うためのAndroidだったということです。こういった形で商品化したのはあくまで手段で、目的としては、撮ったものが無意識にクラウドに届いていることです。

加藤氏 安定性や有線でつなぐこと、アプリの操作性を考え、この形になりました。

―― 外部端子がこれでもかと搭載されていますね。これは、既存のスマホにはない魅力だと思いました。

加藤氏 HDMIはあくまで映像をポータブルデータトランスミッターに伝送するためのもので、USB Type-Cや有線LANは、ネット側にデータを転送するためのもので、役割が異なります。ここは、使っていただくアプリによって変わってきます。

高島氏 実は市場ごとに好まれる端子が違うんです。写真を送りたいだけなので有線LANだけあればいいという職種や、USB Type-CのUVCが必要といった職種などに分かれています。かつ、その先にトータルソリューションとして他社のサービスと協業することも踏まえた結果、ここまで端子がたくさんつくことになりました。

ポータブルデータトランスミッター 背面にLAN端子、USB Type-C端子、HDMI端子を備えている
ポータブルデータトランスミッター 三脚用ねじ穴やストラップホールも備えている

なぜ「Xperia PRO」ではない? スマホでは足りない要素

ポータブルデータトランスミッター ソニー 商品技術センターの高島宏一郎氏

―― 以前、ソニーはカメラと連携するスマホとしてXperia PROを出していました。スマホの形状では足りないことがあったのでしょうか。

高島氏 大きくは2つあります。ポータブルデータトランスミッターには冷却ファンと大型のヒートシンクが入っていますが、その体積が必要だったのが1つ。もう1つは、売りである無線特性です。ファン、ヒートシンク、各種端子を追加しながら、無線特性を通常のスマホと比べても上げていく必要がありました。また、この端末の場合、ケーブルをつなげたまま使うことも想定しています。それらをなるべく小型化した結果として、この形状になりました。

ポータブルデータトランスミッター 2021年に発売した「Xperia PRO」

―― 逆に、Xperia PROを開発したノウハウは生かされているのでしょうか。

加藤氏 まずは端子類ですね。Xperia PROにはMicro HDMIが搭載されていましたが、あれだと壊れてしまいそうで怖いという方が多かったですね。あとは、熱暴走の話もあります。長時間撮影していると、どうしても熱を持ってしまいまったので、こういったところは、ノウハウというより教訓として盛り込んでいます。

高島氏 HDMIの継承と進化に加えて、ネットワークビジュアライザーもXperia PROから受け継いでいます。もう1つ、Xperia PROもミリ波を訴求したモデルでしたが、そのアセットは引き継がれています。

―― 熱対策はかなり力を入れたようですが。

高島氏 設計部隊がこの商品を使ってセルラーの実網環境で検証ができるようになったのが秋で、少し涼しくなってしまっていました。ただ、それでも総合評価はしなければなりません。実網の熱的に厳しい環境で、かつエンコーディングをしながら、さらにカメラと連動して動くという3つを総合的に再現させながら評価をしていきました。そのためには、ちゃんと電波が届く、暑い環境が必要でした。そこで、密閉できる空間を用意し、セルラーが吹いているところまで持っていき、人口太陽と呼ばれる10万ルクスぐらい出る照明を入れ、熱で止まってしまわないかどうかをテストしています。実際、4時間以上配信をしましたが、それでも熱で止まることはなかったですね。

ポータブルデータトランスミッター
ポータブルデータトランスミッター 背面にヒートシンクと冷却ファンを搭載。冷却ファンでは冷却優先や静音優先などの設定も用意している

―― 「Xperia PRO II」のような位置付けにすることもできたと思いますが、なぜXperiaとしなかったのでしょうか。

加藤氏 まず、作っているチームが違います。また、これはあくまで“αのアクセサリー”として投入しています。Xperiaがダメなのかといった話ではなく、出どころが違う。形がスマホのようなので「Xperiaじゃないの?」と聞かれることはありますが、コンセプトが違います。

―― コンセプトというと、単体で使うことは考えていないようなところでしょうか。

加藤氏 そうです。ただ、プレスリリースを出した結果、多数の反響をいただき、「こう使える」「ああ使える」といった声はいただいています。(単体で使う)想定外の使われ方も、X(旧Twitter)に載っていたりしました(笑)。

―― そこはAndroidを採用したメリットですね。

高島氏 はい。広く構えることができたと思います。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2025年12月05日 更新
  1. 飲食店でのスマホ注文に物議、LINEの連携必須に批判も 「客のリソースにただ乗りしないでほしい」 (2025年12月04日)
  2. NHK受信料の“督促強化”に不満や疑問の声 「訪問時のマナーは担当者に指導」と広報 (2025年12月05日)
  3. 「楽天ポイント」と「楽天キャッシュ」は何が違う? 使い分けのポイントを解説 (2025年12月03日)
  4. 「スマホ新法」施行前にKDDIが“重要案内” 「Webブラウザ」と「検索」選択の具体手順を公開 (2025年12月04日)
  5. 三つ折りスマホ「Galaxy Z TriFold」の実機を触ってみた 開けば10型タブレット、価格は約38万円 (2025年12月04日)
  6. 楽天ペイと楽天ポイントのキャンペーンまとめ【12月3日最新版】 1万〜3万ポイント還元のお得な施策あり (2025年12月03日)
  7. 楽天の2年間データ使い放題「バラマキ端末」を入手――楽天モバイル、年内1000万契約達成は確実か (2025年11月30日)
  8. サイゼリヤの“注文アプリ”が賛否を呼ぶ理由──「使いやすい」「紙メニュー前提」など多様な意見 (2025年11月23日)
  9. Z世代で“友人のInstagramアカウント乗っ取り”が流行? いたずらで済まない不正アクセス禁止法違反 保護者が注意すべきこと (2025年12月04日)
  10. 鉛筆デザインのiPad用スタイラスペン「Nelna Pencil」発売 物理ボタンに9機能を設定可能 (2025年12月03日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー