モデレーターの黒住氏から「生活を変えるプロダクトのアイデア」を問われた深澤氏は、斬新なアプローチを提案した。それは、テクノロジーを通じて人間の無意識的な認知プロセスをより深く理解し、活用するというものだ。
「無意識の状態と、自分の全てのセンサーを通じて物事を認知しているということを、人間は忘れている」と深澤氏は指摘する。人間は日常的に、意識せずに膨大な情報を処理しているが、それらの多くは意識の表面に上らない。
深澤氏は、この無意識の認知プロセスこそが、より直感的で自然なインタフェースやデザインを生み出す鍵になると考えている。「意識がむしろ間違いを起こすという状態もある」と述べ、過度に意識的な思考に頼ることの限界も示唆した。
深澤氏の洞察を発展させると、AIが人間の無意識の領域から価値ある情報をくみ上げる「センサー」として機能する未来が見えてくる。
深澤氏が示唆的な例として挙げたのは、古い陶器の破片から全体の美しさを想像できるという経験だ。深澤氏が館長を務める日本民藝館の展示から得たインスピレーションをこう表現する。
深澤氏 昔の朝鮮時代の陶器の破片、取り出した破片を展示するものなんですよ。びっくりしたのは、その破片なのに、この壊れた陶器の破片だけを見ても、その全体がかっこよかったんだろうなと分かること。これは自分にとって初めての経験でした。
人間の無意識的な認知プロセスが、限られた情報から全体を想像し、美的判断を下す能力を持っていることを示している。深澤氏は、この能力とテクノロジーを結び付けることで、新たな可能性が開けると考えている。
深澤氏 特に美学とか文化とかに、まだテクノロジーは出てこないので、そこがこれからもっと面白いところになるんじゃないかと。
対談の終盤、深澤氏は将来のプロダクトデザインに関わる2つの“ヒント”を示した。
1つは、GUIの開発プロセスから学ぶことだ。
深澤氏 私がシリコンバレーで働いていたときにGUIをどうやって開発したか。最初は、紙芝居だった。プルダウンメニューが降りてきて、押すと、ジェスチャーでどう動くかというシナリオを紙芝居に書いていた。紙ですよ。紙。すごいスローなシナリオを書く時代がこの20年前まであった。
この発言は、テクノロジーの進化と社会への浸透の速さを示唆している。わずか20年前、現在では当たり前となっているGUIの概念が、紙芝居のような原始的な方法で設計されていたことを振り返っていた。その時代の流れの速さを比喩的に表現したものだろう。
2つ目のヒントは、未来のAIに“日本流”を取り入れるというアイデアだ。
深澤氏 日本では、システムがうまく機能しないときでも、人々は「すみません」と言います。これは単なる謝罪ではなく、不具合に対する不満や怒りを和らげる巧妙な方法です。「すみません」という言葉は、問題を自分の責任として受け止めつつ、同時に状況に対する不満をえん曲的に表現してフワッと場に調和させる機能がある。これは日本独特の興味深いインタフェースだ。もしAIがこの「すみません」の使い方を学んだらと、非常に興味深い。
深澤直人氏とカール・ペイ氏との対談は、AIがスマートフォン、ひいてはプロダクトデザインにどのような変化をもたらすのかについて示唆的な対談となった。
注目したいのは、この対談に先立ち、カール・ペイ氏と深澤氏が3時間に及ぶ打ち合わせを2回も実施したという事実だ。深澤氏は「まだ彼と仕事するかどうか決まっていない」と明言しているものの、この対談を通じて両氏の思想や価値観の共通点が垣間見えた。2人の卓越したデザイナーの協働により、携帯電話のプロダクトデザイン史に新しい1ページが刻まれることを期待したい。
Nothingのスペシャルイベントは東京・原宿のクレインズ6142で明日6日まで開催中だ。
注目は「Phone (2a) Special Edition」を100台限定で先行販売していることだ。日本では7月8日10時からオンライン販売を開始する予定の新作スマートフォンを、一足早く手に入れることができる。
また、会場ではNothing製品を各種展示しており、イヤフォンやワークウェアなどのNothingプロダクトも間近でチェックできる。来場特典として、うちわやステッカーも配布している。
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