7月6日と7日、NTTドコモも主催(※)として参加した、能登の復興支援ライブを中心としたイベント「PEACEFUL PARK 2024 for 能登 -supported by NTT docomo-」を石川県金沢市の産業展示館で開催した。
現地でボランティア活動を実施していたMISIAさんをはじめ、藤井フミヤさん、久保田利伸さんなど著名アーティストが多数参加した音楽ライブに加えて、被災しつつも食事支援に協力している石川県を中心とした料理人によるPEACEFUL TABLEや、被災した地元企業による特産品のマルシェ、d払い募金などを実施したイベントだ。
この会場で、NTTドコモの臨時局としては初となる「5G Sub-6帯のMassive MIMO(MU-MIMO)を用いた移動基地局」を展開し、屋外と屋内の混雑に対するネットワーク対策を実施した。
Massive MIMOを用いた基地局は、5G通信のさらなる大容量化に向けて採用が進んでいる技術だ(4Gでも一部先取りして導入されている)。一般的な基地局のアンテナと違い、数十から100以上ものアンテナ素子を並べた設備を用いてビームフォーミングやMU-MIMOといった技術を利用することでスマホとの通信を効率化し、同じエリア内でより多くの通信を処理できる。都市部などの人が密集し通信が混雑するエリアへの効果が期待されることから、「パケ詰まり」対策になることが期待される。
また、2024年に入ってドコモの他、KDDIや楽天モバイルなどもあらためて「5G Sub-6帯でのMassive MIMO」の本格的な運用や導入について発表を増やしている。この記事ではドコモのイベントでの取り組みをもとに、ここ最近のMassive MIMOに関する話題についても紹介していこう。
今回対策を行ったNTTドコモ 北陸支社によると、Massive MIMO搭載の5G基地局による通信性能の向上効果は2倍以上だという。
北陸ではMassive MIMO搭載の5G基地局を、2024年2月に開場したサッカー専用施設「金沢スタジアム」周辺に整備済み。3月のJ3リーグ開幕戦では混雑するスタジアムのほぼ全体でダウンロード300Mbps以上、アップロード40Mbps以上の環境を提供できたという。
今回取材したPEACEFUL PARK 2024 for 能登では1日あたり約7000人の来場が想定される上に、レストランやマルシェの物販といった店舗でもd払いなどのネット決済の利用も増えることから、ドコモでは初となる基地局車によるMassive MIMO搭載5G基地局の臨時局を展開したという。
具体的には、ライブ前にチャリティキッチンや待機列などで人が密集する産業展示館4号館の前と、ライブ開場の中に対して5G Sub-6帯 3.7GHz帯によるMassive MIMO搭載の基地局を展開した。
この他、他社の携帯電話回線でdアカウントのd払いなどを利用するユーザーを想定して、屋外にはStarlinkをバックボーンに用いたd Wi-Fiを提供している。
実際のドコモの5G速度を簡単にチェックしていこう。開場直後の13時台は通り雨もあってまだ人も見た限り数百人程度だった。この状況下で複数回テストしたところ、ダウンロード900〜800Mbps、アップロード80〜50Mbpsを確認できた。他の場所でも、高速な5G Sub-6基地局周辺かつ、利用者が少ない状況で確認できる速度だ。
音楽ライブ開場前の16時ごろは、屋外に7000人近い人が集まり行列や飲食、買い物の利用、記念撮影やSNSへのアップなど、人が密集しつつそれぞれが思い思いに楽しんでいる時間帯だ。この状況下でスピードテストを複数回実施したところ、ダウンロード800〜500Mbps、アップロード70〜40Mbpsの結果を確認できた。ここまで混雑した環境で、空いている状況の5G Sub-6帯に近い速度で利用できるのは驚きだ。
簡易的なテストだが、周辺の人数が数百人から7000人にまで増えたにもかかわらず5Gの高速通信を提供できたとなると、Massive MIMOにより5G Sub-6帯の通信をより効率よく運用し、混雑した環境下でも高速通信を提供できたとみていいだろう。
NTT北陸支社では、今回のMassive MIMO搭載基地局を含めたネットワーク対策を、夏から秋に向けて開催される9つのイベントで実施するという。
この際の工夫として、ビル上など既設の4G基地局に対して5Gの臨時局を加える方法も活用していくという。これにより、イベント会場に臨時局を展開するスペースがない場合や、見通しのいい場所から臨時局のエリアをより広く展開できるとのこと。新たに5G局を展開する場合は1年程度かかるが、この方法なら3カ月程度で整備できる。
今回の移動基地局車も4G対応のものの装備を活用しつつ、外付けで5G Massive MIMO搭載基地局を加えている。移動基地局車自体も新たに整備するには時間がかかることから、この方法は有用だという。
冒頭で触れたように、2024年からドコモ以外も5G Sub-6帯のMassive MIMOの活用について説明する機会が増えている。これらの動きについて簡単に説明していこう。
Massive MIMOを簡単に説明すると、数十から100以上のアンテナ素子を並べたユニットを用いて空間上での電波の指向性を制御する「ビームフォーミング」や、応用して複数のスマホに個別の電波リソースを割り当てて同時通信を可能にし、一般的な基地局よりも通信効率をより向上させる「MU-MIMO」を利用できる技術や設備を指す。
これにより、通信が混雑しがちな場所でも処理できる通信量が増え、快適な通信が可能になる。前述したように、今回取材したNTTドコモ 北陸支社の取り組みでも、5G Sub-6 100MHz幅にMassive MIMOを用いることで2倍以上の通信効率を実現できるとしている。
ただ、どの周波数帯でも活用されているわけではなく、アンテナ素子のサイズや効率から全体的には5GのSub-6やミリ波、ソフトバンクなどが先取りして4Gでも導入した2.5GHz帯や3.5GHz帯などで用いられることが多い。
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