世界を変える5G

「ミリ波対応スマホ」の値引き規制緩和で感じた疑問 スマホ購入の決め手にはならず?(1/2 ページ)

» 2024年11月28日 17時23分 公開
[佐藤颯ITmedia]

 総務省は、5G通信の「ミリ波」に対応する端末の値引きを6万500円(税込み、以下同)まで緩和する方向を打ち出している。

 現状の回線契約における値引きの上限は、2023年12月の電気通信事業法改正以降は4万4000円に設定されている。しかしミリ波対応端末は、1万6500円上乗せした6万500円までの値引きを可能にすべく、電気通信事業法の施行規則を改正する方向で議論が進んでいる。今回は、このミリ波端末の値引き規制緩和が市場に与える影響を考えたい。

ミリ波 ミリ波に対応した折りたたみスマートフォン「Galaxy Z Fold6」。割引額アップはうれしいが、どこまで効果があるのか

ミリ波対応端末は市場にどれだけ存在しているのか

 ミリ波とは携帯電話の場合、28GHz帯の電波を用いて通信するもので、通信バンドはn257が日本では使われている。6GHz帯未満のSub6よりも高い周波数で通信するため、高速かつ低遅延、大容量の通信が行える。一方で、エリアが面ではなく点の状態のため、通信できるエリアが非常に限られている。

 そんな規制緩和の背景には「ミリ波対応端末の普及促進」がある。今後のトラフィック量の増加や6Gのことも踏まえると、ミリ波への対応は避けて通れないだろう。

 現時点のミリ波対応端末は通常の機種と比較してアンテナ設計が難しく、開発費もかかることから市場価格も高価になっている。これを理由に以前から通信キャリアやチップメーカーから「ミリ波対応端末」に対して値引き規制を緩和するといった内容の意見が出ており、これに総務省側が応える形となった。

 では、ミリ波対応端末はどの程度普及しているのだろうか。調査会社MM総研が2024年2月に発表した国内携帯電話端末の出荷台数調査(2023年通期)を確認すると、ミリ波対応端末は出荷台数ベースで5.2%と推計されている(関連リンク)。

 2023年はGalaxyのハイエンドモデルに加え、直販でもGoogle Pixel 8 Proが対応したことで、ミリ波に対応した機種が多かった。それでもこの数字ということを踏まえると、いかに消費者にミリ波対応端末が行き渡っていないかがうかがえる。

 ミリ波対応端末は日本で5Gサービスが開始した2020年から登場しているが、対応機種は少ない。毎年数多くの機種が販売される日本市場でも、価格が高価になることなどを理由にミリ波対応端末は年間でも片手で数えられる程度の機種しか出ていない。今まで販売された機種を合算しても20機種ほどしかない。

 これを踏まえて、2024年4月以降に発売されたミリ波対応端末は以下の通り。

サムスン電子

  • Galaxy S24 Ultra
  • Galaxy Z Fold6

ソニー

  • Xperia 1 VI(※Xperia 1 VIのソニーストア直販版はミリ波非対応)

Google

  • Pixel 9 Pro Fold

 記事執筆時点で、2024年度に発売されたミリ波対応端末は4機種にとどまっており、決して多いとはいえない。価格も20万円を上回る高価な機種が多い。消費者に多く手に取ってもらう端末は10万円前後の価格帯が多いことを踏まえると、普及には程遠いと感じてしまう。もちろん、高価な端末に対して値引き上限を緩和することで、以前よりも購入しやすくなる点はうれしい。

 端末数が少ない背景には、為替相場などを理由に、端末価格を考慮した結果、「ミリ波対応を見送った」とも考えられる。例えば、旧モデルのGalaxy S23やGoogle Pixel 8 Proがミリ波に対応していたのに対し、Galaxy S24、Google Pixel 9 Pro/Pro XLではミリ波に対応していない。

ミリ波 Galaxy S24はミリ波に非対応となった

 このため、ミリ波対応端末は継続的に販売されるものではなく、為替状況や端末コストなどを踏まえてメーカーはもちろん、通信キャリアの要望に合わせて対応可否が決まると考えたい。現に米国向けのiPhoneやPixelは現地キャリアの要望もあって、ミリ波対応のハードウェアで出荷されている。

値引き額の根拠が薄く、「キャリア税」の相殺程度にしかならない?

 さて、今回のミリ波対応端末に対し、1万6500円を値引き額上乗せする根拠とは何だろう。この数字は「ミリ波対応のキャリア向け」と「ミリ波非対応のオープン市場向け(SIMフリー)」の両方を販売する機種の差額の平均を根拠としている。

ミリ波 値引き根拠のスライド。端末は2023年のものだが、ソニーのXperia 1 VとXperia 1 IV、シャープのAQUOS R8 proが挙げられている(電気通信事業法施行規則の一部改正より引用)

 見過ごせない変化としては、規制緩和の基準となったオープン市場向けにもミリ波対応端末が登場したことだ。2023年度発売の機種では前述した4機種のうち、Xperia 1 VIを除いた機種はオープン市場向けモデルもミリ波に対応している。

 Galaxy S24 Ultraはミリ波に対応した仕様ながら、直販モデルは18万9700円(256GB)からに抑えた。一方、キャリア向けはドコモが21万8460円、auが19万8800円と価格差があり、ミリ波対応と非対応の価格差を規制緩和の根拠とする方向性は、早くも崩れようとしている。そもそも「ミリ波版」という区分の端末が存在していることが5G通信黎明(れいめい)期のような状態であり、このような区分けは世界的に見ても今後なくなってくると考える。

 仮にiPhoneが日本向けもミリ波に対応してきたとして、依然として直販版とキャリア向けでは価格が異なる可能性が高い。Galaxyの例を見ても、通信キャリア向けのみミリ波対応にはならないはずだ。

 正直なところ、今回の規制緩和は「ミリ波促進のための値引き増額」ではなく、さまざまな事象で高価になりがちな「キャリア版のための値引き増額」と捉えられてもおかしくない。そのため、1万6500円の緩和では「キャリア版で高価になった分の相殺にしかならない」「普及に際して大きな効果はないのでは?」という指摘も散見される。

ミリ波 見方を変えれば「キャリア版で高価になった分の相殺」と捉えることもできる。写真の「AQUOS R8 pro」は、ドコモ向けモデルがミリ波対応、ソフトバンク向けモデルがミリ波非対応となっている
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