KDDIは2024年に続き、スペイン・バルセロナにて3月3日から6日まで開催された「MWC Barcelona 2025」に出展した。「Life Transformation」をテーマに、コンビニエンスストアで活用されるサービスや技術「リテールテック」を中心に展示を行っていた。
Z世代をターゲットにした通信サービス「povo」の展示ブースでは、他社サービスに組み込む「povo SDK」の取り組みを紹介。povoを展開するKDDI Digital Life(KDL)の代表取締役社長である秋山敏郎氏が、日本の報道関係者によるインタビューに応じた。
―― この1年、povoではどんな進展がありましたか。
秋山氏 2024年、グローバルに展開すると言いましたが、この1年間、日本国内で世界に持っていける成功モデルを、パートナーさんと一緒に作ることに最もフォーカスしてきました。
進展したものがいくつかあります。まずは、「ABEMA」のデータ通信が使い放題になるオリジナルプラン。「DMM TV」のデータ通信が使い放題になるプランや、DMMポイントがセットになったプランを利用できる「DMMモバイル Plus」も提供しました。近日中には、これらと同じように「TikTok」にpovoを組み込むモデル開始予定です。
AbemaTVさん、DMM.comさんと始めて、直さなければいけないところが見えてきているので、それを直して、2回目のチャレンジをやっています。PDCAサイクルをすごく早く回して、どこでお客さんがドロップしているかなどを見極め、そこを改善してパフォーマンスが上がるようにしている最中です。
パートナーさんへの本業貢献という言い方をしているのですが、どれだけパートナーさん側にわれわれのコネクティッドが貢献できているのか、ということを大事にしています。初期段階の数字ですが、パートナーさんのアプリの利用データ量が5倍から6倍に増えています。
小さな成功ケースが見えたら、そこに注力してスケールさせるやり方をpovoもしてきたので、パートナーシップについても集中して、数字が伸びてくればいいなと思っているところです。
―― 満足度が上がっているという意味でしょうか。
秋山氏 そのはずだと思います。「サービスプロバイダーさんが、もし自分で自由に使えるコネクティビティがあったら、何をしたいだろう?」というのがわれわれの考え方。5G SAが広がったら優先的につないでほしいなどもあると思います。このような結果が出始めたのは、非常にポジティブだと受け止めています。
―― パートナーのユーザーの解約率が下がったというデータはありませんか。
秋山氏 そこまではまだ見られませんが、スケールしていくと解約率などにはたぶん効いてくるはずですし、MAU(1カ月あたりのアクティブユーザー数)やDAU(1日あたりのアクティブユーザー数)の上昇にもつながってくるはずです。
―― ブース展示の説明ではMetaもありました。
秋山氏 はい、Metaがあります。Metaさんとも近日中に始まります。Metaさんの場合はどちらかというとトラベラー系ですね。広告モデルに近いところがありますが、観光で来日されるときに、FacebookやInstagramにわれわれのオファーを出して、通信を使ってくださいっていうことですね。
―― 日本のMetaと組むのでしょうか。
秋山氏 もちろん日本にも窓口がありますが、意思決定はグローバル(APACなのでシンガポール)です。Metaさんについても、TikTokのByteDanceさんについても、話しているのは日本ローカルというよりはグローバルです。この辺が次のステップです。伸ばす知見ができてきて、その関係性をもとに、パートナーさんと培った仕組みがグローバルに通用するようにしていきます。
日本以外のプレイヤーさんから、「面白そうだ」という感じで、いくつかお声がけをいただいています。MetaさんやByteDanceさんの話をすると、「それってウチでもできるの?」という話になってくるので、1年遠回りをしている感じはありますが、まずは実例を日本ローカルでしっかりと作り、売れるようなユースケースを生み出すことに、この1年を費やしてきました。
―― 日本以外のプレイヤーというのはキャリアですか。
秋山氏 今はキャリアがメインです。これと同じぐらいというか、それ以上に受けているのがローソンさんとの取り組みです。「povo Data Oasis」はちょっとギミックっぽいところがあるんですが、これをそのまま完コピして自分の国でやりたいと言っていたCEOもいました。
―― それはKDDIにとってビジネスになる話ですか。
秋山氏 ちょっとはお金を落としてよって言いたいですね(笑)。デジタルテレコミュニケーション同士、知見を共有しながら、業界にとって新しい動きがグローバルで出てくると、すぐにお金にならないパターンもあるでしょう。でも日本が業界をリードするのはいいことなので、細かい話はしないようにしようと思っています。
―― povoそのものの仕組みはCircles.Lifeですが、povo Data OasisのアイデアはKDLが出しましたか。
秋山氏 これは僕たちKDLのアイデアだと思っています。ローソンさん向けに何か面白いことを明日までに考えなきゃいけないというようなシチュエーションだったので、集まってワイワイやって、じゃ、これで行こうと決まった。誰が言い出したか定かじゃないんです(笑)。新しいことをやろうとか、プラットフォームを理解したKDLのカルチャーの中で生まれてきたものです。
―― 「ウチもやりたい」という声がけがあって、すぐビジネスにならないとしても、どこかでお金を取らないと結局やり損になってしまうと思います。どうやってビジネスにしていきますか。
秋山氏 私が思っているのは2つあります。1つはCircles.Lifeとわれわれの間の話で、同じようなプラットフォームを使うところが増えてくるとなれば、われわれは営業でCircles.Lifeに貢献していることになるので、そこにフィーが発生してくるだろうなと思います。これが1つです。
もう1つは、さまざまなデジタルテレコミュニケーションが存在しますが、プラットフォームだけじゃないと思っています。従来型のキャリアがレガシーのシステムで「じゃあやろう」と言っても、そんなに簡単に成功しない。考え方や意思決定のやり方、データの見方が違う。KPIの設定や市場への出し方も、どちらかというとハイパースケーラーに近い。
われわれも最初はバタバタしていましたが、デジタルテレコの“車”をこのようにドライブするとスピードが出ることが、2年、3年たってようやく分かってきました。そういった運営のサポートやソリューションは、いろいろなキャリアに必要なのではと思うのです。
キャリアによってはバーンと人を雇えばいいかもしれませんが、テレコムサービスの譲ってはいけない信頼、安全という大事な部分は絶対守らなければならない。このようなプレイブブックやレシピみたいなところは、やらないと身につかない。2〜3年かかると身にしみて思います。
どこでお金をもらうかという質問に対して(の2つ目)ですが、外しちゃいけない大事な部分を理解をした上でのプレイブックのようなところでは、KDLに一日の長があると思います。その辺りがわれわれの持ち込めるアセットになるかなと思っています。
―― ローソンの展示で受けていたというのは、データ容量を配って集客するという仕組みですか。
秋山氏 そうですね。興味持っていただいている人たちは、ディストリビューションのコスト(流通コスト)を気にしている。リチャージ、トップアップするにしても、やっぱりそこが問題だったりする。単に販路としてだけじゃなくて、(キャリアと店舗)両者にメリットがあるような形を考えています。povo Data Oasisも、ローソンさん側へのメリットを、ちゃんと打ち出していくつもりでやっています。テレコム側は、コミッション(手数料)を払っているディストリビューターのところをセーブできるし、お店側は集客できて、みたいな感じ。その辺が1番関心を持たれた部分でした。
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