エレコムは2025年3月中旬に、ナトリウムイオン電池を使ったモバイルバッテリーを発売する。ナトリウムイオン電池はリチウムやコバルトなどの希少金属を必要としないため、資源枯渇や児童労働問題への懸念が比較的小さく、安全面でも高い評価を受けている。エレコムによると、モバイルバッテリーへの搭載は世界初(※)としている。
価格は9980円(税込み、以下同)。エレコムダイレクトショップでは、3月13日より100台限定で10%オフの8980円で予約販売を行う。
最も注目すべき要素は、熱暴走による発火リスクの低さだ。リチウムイオン電池では課題とされる高温時の不安定さに対して、ナトリウムイオン電池は比較的安定している。エレコムのくぎ刺しテストでも発火が確認されなかったという。
充放電サイクルは約5000回と、リチウムイオン電池の10倍に匹敵する。理論上は毎日使っても13年以上持つ計算になるが、保証期間自体は従来製品と同じく1年間としている。
作動温度はマイナス35度から50度という広さを確保。例えばスキーなどのアウトドアでの利用や、非常時にも役立つ可能性がある。災害対策やレジャー用途を視野に入れた設計といえる。
また、ナトリウムイオン電池は環境にも優しい。ナトリウムは地球上に広く存在しており、採掘時の環境破壊や社会問題が起こりにくい。リチウムやコバルトのような希少金属を使わないことで、原料面からサステナビリティを志向している点が評価できる。筐体のプラスチックについても、リサイクルされた素材を採用。パッケージも100%紙素材のみで構成されている。
ナトリウムイオン電池はエネルギー密度が低いため、同じ容量を実現するには物理的に大型化しがちだ。今回のモデルは大きさが87×31×106mm、重量約350g。9000mAhのバッテリーとしては、大きく重い部類になる。実際に製品を手にしたきも、iPhone 16が約2台分の重さということがあり、確かな重みを感じた。
製品の安全基準については「PSEマーク」があるが、ナトリウムイオン電池については対象外となる。そのため、今回の製品ではPSEマークなしで出荷されることになる。ただしエレコムではPSE相当の試験を実施している他、社内で2カ所の開発拠点で設計の評価を行うなど安全対策を取っているという。また、航空機の機内持ち込みの規格である輸送試験UN38.3については合格している。
また、製品の廃棄時にも注意が必要だ。現状、ナトリウムイオン電池は一般社団法人電池工業会(JBRC)が実施している「小型充電式電池のリサイクル」の回収対象外となっている。エレコムでは各自治体への問い合わせを推奨している他、自社サポートセンターへの送付や、エレコムデザインショップへの持ち込みを案内している。しかし、これから普及が進むにあたっては広域回収の仕組みが整備される必要があるだろう。
また、今回の価格は9980円と、同容量帯のリチウムイオンモバイルバッテリーと比べると割高感は否めない。大規模生産がまだ始まっていないためコストが高めに設定されているが、将来的には量産化で下がる可能性もある。
二次電池の需要は電気自動車(EV)が先導しており、リン酸鉄リチウムイオン電池などより安全な電池素材への移行が進んでいる。ナトリウムイオン電池もその代替素材の1つとして、中国の自動車メーカーを中心に電気自動車(EV)での採用が進んでいる。EVの大量生産が本格化すれば、部材の安定供給や製造プロセスの効率化によってコストやサイズの面で改善が期待できるだろう。
エレコムはリン酸鉄リチウムイオン電池を使ったモバイルバッテリーを2023年に発売したが、リン酸鉄リチウムイオン電池や今回のナトリウムイオン電池、さらにその他の代替素材を使った新製品を検討中とのことで、リチウムイオン電池以外のラインアップの拡充を図る方針だ。
さらに遠い将来には、業界全体として全固体電池への移行が視野に入っている。リチウムイオン電池の課題を解決する1つの道筋として、ナトリウムイオン電池やリン酸鉄リチウムイオン電池の需要は暫定的にも高まっていく可能性が高い。短期的には、防災やアウトドアなど「安全性や環境配慮を優先する用途」での需要が先行するとみられる。
ナトリウムイオン電池は、希少金属の利用を抑えつつ発火リスクも低いとされる一方で、サイズや重量、価格といった面で改良の余地がある。エレコムとしては、EVの本格量産がナトリウムイオン電池のコストダウンや技術革新に拍車を掛けると見込み、環境配慮への意識の高い消費者や防災用途など安全性を重視する市場から着実に需要を獲得していきたい考えだ。将来的には全固体電池への移行が業界の大きな目標となるが、その過程でナトリウムイオン電池が一定の役割を果たす可能性は期待できるだろう。
主な機能として、接続された機器を自動判別して最適な電流を供給する「おまかせ充電機能」、バッテリー本体と機器を同時に充電する「まとめて充電機能」、異常な発熱を検知して給電をストップする「サーマルプロテクション機能」など、安全性と利便性を両立する仕組みを搭載している。
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