AIが、スマートフォンの競争軸の1つになりつつある。ユーザーの質問に答えてくれたり、操作を代行してくれたりするなど、平たくいうと、バーチャルアシスタントのような存在といえる。
このAI機能で先頭集団を走っているメーカーの1つが、サムスン電子だ。同社はGoogleと提携し、パーソナルアシスタント「Gemini」や、画面上の画像やテキストを囲ってGoogle検索ができる「かこって検索」をいち早く搭載する。
もちろん独自機能も用意している。天気予報やスケジュールなど、ユーザーに必要な1日の情報をまとめた「Now Brief」、通話の文字起こし、メッセージの返信内容を提案する機能、通話のリアルタイム通訳、写真の不要なものを消す「AI消しゴム」、動画で特定の音声を消す「オーディオ消しゴム」などが挙がる。
これらの機能を総称して「Galaxy AI」と呼んでおり、横並びになりがちな昨今のスマートフォンにおいて差別化要素となっている。では、サムスン電子はどのような戦略でAI機能を開発しているのか。同社の韓国本社にて、サムスン電子MX(Mobile eXperience)事業本部技術戦略チーム長・常務のソン・インガン(Inkang Song)氏に話を聞いた。
ソン氏によると、サムスン電子が考える「真のAIフォン」は、大きく3つ要素があるという。
1つが「マルチモーダルAIエージェント」。マルチモーダルとは、複数の手段を組み合わせること意味する。AIにおいては、「従来のテキスト中心の情報処理のみならず、画像や音声も同時に認識し、人が見る、聞く、答えるように理解でき、実行できるAIを実現する」(ソン氏)ことを示す。
2つ目が「統合型AIプラットフォーム」の採用で、これはOSレベルでAIを組み込むことを意味する。サムスンが2025年4月から提供している「One UI 7」では、多数のAI機能を導入している(関連リンク)。One UI 7では、アプリの利用中に先回りで操作を提案する「AIセレクト」、文章作成をサポートする「入力アシスト」、テキストと画像を組み合わせたアイデアを形にできる「スケッチアシスト」などが利用可能になった。
AIを開発するにはデータ収集や学習、モデル構築などに膨大な時間がかかり、メーカーが単独で実装するのはハードルが高い。サムスン電子は、Googleをはじめとするさまざまなパートナーと協業することで、統合型AIプラットフォームを提供できるようになると考える。
またソン氏は「最も重要なのは、現在ユーザーが使っているアプリがAIエージェントと連携すること」であり、その上で文字や音声など、「さまざまなユーザーインタフェースを通して実現する必要がある」と話す。Googleのかこって検索は、どのアプリを使っていてもナビゲーションバーの長押しで利用できることから、まさにその好例といえる。
3つ目が「進化したAI体験の提供」。これはAIに限ったことではないが、AIの利用シーンやユーザー層を拡大するために、進化は欠かせないという、ごく当たり前の考えだ。
多彩な手段と利用シーンをカバーするGalaxy AIだが、スマホのAIは、市場でどの程度受け入れられているのか。サムスン電子がグローバルで実施した調査によると、2024年7月から2025年1月にかけて、スマートフォンでAI機能を積極的に利用するユーザーが約2倍に増加しているという調査結果が出ている。
日本のユーザーにAI機能を使う理由について聞いたところ、38%が「生産性の向上」を、27%が「創造性の向上」を挙げた。これは他の国や地域と大差ないが、3つ目に多かったのが、他国では「コミュニケーション」だったところ、日本では「身体の健康」だった。
日本のユーザーは他国に比べて健康志向が高いことが分かったが、Galaxy AIでも健康に関する機能は取り入れている。「Galaxy Watch」とGalaxyスマートフォンをペアリングすると、睡眠や日々のアクティビティーに関して、自分に合ったアドバイスを受けられる。
進化著しいAI機能だが、ユーザーへの認知はまだこれからだ。サムスン電子の調査では、日本のユーザーでAIを「よく使う」と回答したのはわずか6%にとどまっており、海外のユーザーほどAI機能を積極的に使っていない。
その理由として挙がったトップ3が「AIが自分の人生にメリットがない」「AIは使いにくく存分に活用できない」「AIを使うことで個人情報保護に関するリスクが高まる」というものだ。サムスンはこうした課題と向き合い、どのようにAIを訴求していくのか。
1つ目のメリットについては、Galaxy AIでは「会話」「検索」「コミュニケーション」「生産性」「ビジュアル」という5つの面から、日常生活に役立つことを訴求していく。これらは2つ目の使いやすさにも関連する。
一例として、ソン氏はスポーツ観戦を挙げる。ひいきのチームの試合予定をWebサイトで検索し、カレンダーに登録した上で友人に共有するという工程を、Galaxy AIなら減らせる。例えば「○○の試合予定をカレンダーに登録して●●にメールで知らせて」とスマホに話しかければ済む。これは、Galaxy AIで複数のアプリ(一部のみ)を経由した命令ができるため。「Galaxy AIが目指すのは、インプットの過程を最低限に抑えること」とソン氏は言う。
2つ目の使いやすさについても注力しており、例えばGalaxy S25シリーズでは電源キーの長押しでGeminiを起動できる。もう1つの例として、ギャラリーアプリで目当ての写真を簡単に探せることもソン氏は挙げる。Galaxy S25シリーズでは、例えば「赤い傘を被っている子どもの写真を見つけて」と命令すると、該当する写真を表示できる。
マルチモーダルに対応したことで、例えば写真をもとに、製品名や操作法、植物や動物の種類などを検索することもできる。文字や音声も含め、検索の手段が拡張したことで、より「調べやすくなった」といえる。
3つ目のセキュリティに関しては、日本のみならず、海外でも懸念しているユーザーは多いという。まず、Galaxy AIで活用したデータは、クラウドではなくデバイス内に保存される。データは「Knox Vault」と呼ばれる隔離されたストレージ内に保存され、強固なセキュリティを実現している。またGalaxy AIでは、より高度な機能を利用するためにクラウドを利用するかどうかをユーザーが選べるようにしている。
AI機能の普及に向けてサムスン電子が尽力しているのが、各地域の言語をしっかり理解させること。サムスンは日本を含む世界各地で研究所を設立し、言語の処理能力を向上させる取り組みを進めている。もちろんその中には日本語も含まれている。言語理解を進めた上で「日常生活に役立つAI、安全なAI、有用なAIを実現すると、市場の反応も高くなると思う」とソン氏は期待を寄せる。
ソン氏は「AIの体験は、スマートフォンを中心に拡大していく」とみる。これは、「スマートフォンは24時間そばに置いてあるデバイスで、最もパーソナライズされた機器だから」。一方、サムスン電子はタブレットやPC、スマートウォッチやイヤフォンも手掛けており、こうした機器にもAI体験を拡充していく考えを示す。「新たな形態として、グラスなどもあるかもしれない」「1つの機器に偏らず、エコシステム全般を強化していくことが成長につながる」(ソン氏)
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