軌道系射角の追加による接続の安定化は、データ通信の提供を開始するための布石と捉えることができそうだ。KDDIの技術企画部 通信プラットフォームグループリーダーの志田裕紀氏によると、データ通信は600基に増えた状態で開始し、現在、そのための検証を行っているところだという。KDDIは2025年夏のサービス開始を表明していたが、遠くない時期に対応が始まりそうだ。
今は便宜的にメッセージサービスとデータ通信が区分けされてはいるが、SMSやiMessage、RCSもデータ通信網を通るアプリケーションの1つ。あとはそれをどう他のアプリケーションに開放していくかが焦点になる。SMSの送信に数秒かかることもあるため、そこまで高速にはならないとみられるが、テキスト中心のWebサイトやSNSを表示できれば、au Starlink Directの価値がさらに上がることは間違いない。
一方で、地上のネットワークと同じように通信できるかというと、そうはいかないだろう。その意味では、au Starlink Directのネットワークスペックに合わせたサービスを開発していく必要もありそうだ。例えば、今回合わせて発表されたヤマレコの「緊急SOS」は、そのようなサービスの1つといえる。現状では、アプリの指示に従って自らの状況を入力していき、それをau Starlink Direct経由でSMSなどを介して送るという仕掛けだ。
送信されたSMSは、いったんヤマレコが受信。それを家族に知らせて、警察や消防に情報提供される仕組みになっている。スマホ内で情報を処理して、最後はSMSとして送信する点では、現状の制約を踏まえた設計になっているといえそうだ。データ通信が始まった際にも、地上のネットワークほどは速くならないであろう回線をどう生かしていくかがポイントになるかもしれない。
また、SMSやデータ通信以上によりリアルタイム性が求められる音声通話は、現状では提供が難しいことも示唆された。志田氏によると、「もう一段、接続率の改善が必要」になるという。KDDIおよびスペースXも、音声通話の提供は予定しているものの、データ通信とは異なり、時期は明示されていない。より衛星を密にするといった対応が必要になると、開始にはまだ時間がかかる。
とはいえ、既にユーザーを巻き込んで事例を積み重ねているのは、KDDIの優位性だ。ドコモは2026年夏、ソフトバンクは2026年、楽天モバイルは2026年第4四半期に衛星とのダイレクト通信を提供する予定だが、競合他社のサービスインまで少なくとも1年以上のリードがある。開始から3カ月でユニークユーザー数が100万人を突破したことも、そのポテンシャルの高さを示しているといえそうだ。
(取材協力:KDDI)
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