「大容量、中容量、小容量。操縦かんを握ってコントロールできている状況だ」――。8月1日に開催されたKDDIの2025年3月期第1四半期決算会見で、松田浩路社長CEOは料金競争について強気の姿勢を見せた。
ドコモが「ドコモMAX」、楽天モバイルが「Rakuten最強U-NEXT」といった動画配信サービスのセットプランで攻勢をかける中、なぜKDDIはこれほどまでに自信を持てるのか。決算会見での松田氏の発言と開示されたデータから、その戦略が見えてきた。
松田氏の自信を裏付ける要因の1つが、思い切った戦略転換だ。5月7日に発表されたUQ mobileの新料金プランでは、月額2365円(各種割引適用で1078円)の小容量プラン「ミニミニプラン」(4GB)の新規受付を6月2日で終了。後継プランは用意されなかった。
この廃止について、松田氏は決算会見で衝撃的なデータを明かした。
「ミニミニプランを振り返ると、50歳未満の方々は約半数が1年以内に解約されていた」
代わりに投入した「トクトクプラン2」は、データ容量を従来の15GBから30GBに倍増。月間データ利用量が5GB以下の場合は月額2948円、5GB超は月額4048円の2段階制料金だ。割引適用後でも最安1628円となり、ミニミニプラン(割引適用後1078円)より550円高い。松田氏は「しっかりここをトクトクプラン2で受け皿としてやっていく」と説明した。
【訂正:2025年8月3日17時25分 初出時、トクトクプラン2の説明に誤りがありました。おわびして訂正いたします。】
5月7日に発表した新料金プランとブランド戦略が期待通りの効果を発揮している。auでは6月3日から「auバリューリンクプラン」(月額8008円)を提供。au Starlink Direct、au 5G Fast Lane、au海外放題などの付加価値をセットにし、高品質・高付加価値路線を明確にした。
松田氏は「最近は短期で解約されるのではなく、お客さまに、より長期にわたってお使いいただくような工夫を各社が凝らしている」と業界全体のトレンドも指摘。ライフタイムバリューを意識した構造への変革を進めている。
6月3日に提供開始した「auバリューリンクプラン」では、通信の付加価値として提供する「au 5G Fast Lane」「au Starlink Direct」「au海外放題」が評価され、auバリューリンクプラン、auマネ活バリューリンクプラン、使い放題MAX+を選ぶ契約者が約8割に達した。8月1日には大沢たかおさんを起用したテレビCMも開始した。
auとUQ mobileの役割を明確に分けたことで、ブランド間の移行動向が大きく変わった。
UQ mobileからauへの移行は1.4倍に増加した。一方で、auからUQ mobileへの移行は減少。松田氏は「店頭で『海外に行かれますか』と声をかけ、au海外放題の利便性を説明することで、auに残っていただけている」と説明。上位プランにセットされる「au海外放題」が契約者の引き留めに効果を発揮していることを明かした。
解約率も改善している。auは引き続き低水準を維持し、UQ mobileも6月に大きく改善。7月も同様の傾向が続いているという。ブランド間移行の改善と解約率の低下により、各ブランドがそれぞれの価値を契約者に認められつつある。
競合他社の映像セットプランについて「特に影響は感じていない」と言い切った松田氏。各社が動画配信サービスをセットにしたプランで契約者獲得を図る中でも、KDDIは動じない。
「映像セットプランのメニューも持っているので対抗できる」として、松田氏は20%還元が受けられる「サブスクぷらすポイント」を挙げた。このサービスでは、Netflix、Apple Music、YouTube Premiumなどの対象サービスに加入すると、最大20%のPontaポイント還元を受けられる。新料金プランと組み合わせることで、契約者にとって魅力的な選択肢を提供できるという判断だ。
KDDIの自信を支えるもう1つの柱が、技術面での優位性だ。
5G SA(スタンドアロン)では、国内最多となるSub6基地局4.1万局全域で展開。7月31日に発表されたOpenSignalの5G SA通信体感分析では、全6部門全てで1位を獲得した。さらに2周波数同時対応の5G SA基地局を開発し、設置効率と通信速度をそれぞれ最大2倍に向上させた。
7月に開始した「au 5G Fast Lane」は、混雑した場所でも快適な通信を実現。山手線内での実測では通常の約1.9倍の通信速度を記録し、申し込みが必要にもかかわらず「非常に速いペースで利用が広がっている」(松田氏)という。
衛星通信サービス「au Starlink Direct」も着実に進化している。7月末からAndroid端末のメッセージアプリで動画や写真の送受信が可能になった。電波受信時間が4倍速くなり、サクサクとメッセージのやりとりができるようになった。対応機種は66機種900万台以上、ユニークユーザーは100万人に達している。
松田氏は「今年(2025年)の夏にはデータ通信を開始する」と明言。具体的には「頑張って8月末」を目標にしているという。ただし、当初は天気アプリや登山アプリなど、特定のアプリケーションに限定して展開する方針だ。
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