過半数のユーザーが料金据え置きになるにもかかわらず、なぜコストの増加を吸収できるのか。寺尾氏は「小さな積み上げ」だと話す。例えば、シンプル3のM/Lプランには、実際のデータ使用量が1GB以下だったときの割引がない。また、割引適用前の基本料金が上がっていることもあり、過半数に当てはまらないユーザーが移行したり、新規契約したりすれば、その分だけ収益的にはプラスになる。
割引の増額は、ユーザーがSoftBank光やPayPayカードを契約する契機になる。これは、解約抑止に直結する。寺尾氏によると、3つのサービスを使うだけで、解約率は半分以下になるという。離脱するユーザーが増えれば、純増の拡大に寄与する。解約率が1.5%だとすると、年間で18%のユーザーが抜けていることになるが、これを半分に抑えられれば、その分は丸々ソフトバンクの収入になる。
他社を見ると、特に低容量の料金プランは解約率が高い傾向がある。ドコモは、「irumo」の0.5GBプランを廃止した理由として、「MNPで契約した人の半数が1年以内に転出している」(ドコモ 代表取締役社長 前田義晃氏)としていた。UQ mobileの4GBプランである「ミニミニプラン」も、「50歳以下の方の約半分が1年以内に離脱している」(KDDI 代表取締役社長CEO 松田浩路氏)。
irumoの0.5GBは条件なしで550円に、UQ mobileのミニミニプランもauでんきとセットを組み、au PAYカードで支払うだけで990円になっていた。緩めの条件で、低容量な料金プランほど、サブ回線やMNPの“弾”として使われてしまい、解約が多くなるというわけだ。Y!mobileのSプランはこの2社と比べ、やや制約が多く、短期解約はしづらい構造になっていたが、「少しずつ上がっているのが実態」(同)だった。
とはいえ、低容量プランの廃止は競争力の低下に直結する。より価格の安い楽天モバイルが、契約者数を大きく伸ばしているからだ。Y!mobileのユーザーは、そのほとんどが「SプランかMプラン」(寺尾氏)を契約しており、割合は半々とのこと。売りになっている料金プランをなくしてしまうと、楽天モバイルにユーザーを奪われかねない。
コストの増加に対応した値上げはしたい一方で、追いかけられる立場でもあるソフトバンクは、UQ mobileのように小容量プランを廃止する大胆な料金改定もしづらい。こうした“板挟み”の競争環境にあるからこそ打ち出したのが、解約抑止を図るという戦術だった。同社の社長執行役員兼CEO 宮川潤一氏が値上げに対して慎重な姿勢を示していたのも、そのためだ。シンプル3には、その考えがダイレクトに反映されている。
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