KDDI、ARPU反転で増収増益 楽天ローミング終了見据え「LTV重視」の価値競争へシフト鮮明に(1/2 ページ)

» 2026年05月12日 21時46分 公開
[石井徹ITmedia]

 KDDIは5月12日、2026年度からの3年間を対象とする新中期経営戦略「Power-to-Connect 2028」を発表した。「AI前提社会」への対応を主題に、事業セグメントを通信中核の「テレコムコア」と、成長分野の「パーソナルグロース」「ビジネスグロース」の3つに再編する。3年間で連結営業利益を年率5%成長させる計画だ。

KDDI決算説明会 松田浩路社長CEOが決算と新中期経営戦略を発表した

通信で稼ぎ、成長領域に投資する3セグメント体制

 新中計では事業セグメントを「テレコムコア」「パーソナルグロース」「ビジネスグロース」の3区分に再編する。これまでの「パーソナル」「ビジネス」の2区分から組み替えた。安定成長を担う通信中核領域と、年率2桁成長を目指す両グロース領域の役割を分け、通信で稼いだ利益を金融やデータセンターなどの成長分野に投資する流れを明確にする狙いだ。

 テレコムコアセグメントは、auやUQ mobile、povoのマルチブランドで提供するモバイル通信、固定通信、端末販売を担う。価格競争から距離を置き、付加価値で単価を上げる路線を続ける。グループ全体の稼ぎ頭となる位置付けだ。

 パーソナルグロースセグメントは、コンシューマー向け事業のうち通信以外の領域を集約する。具体的には金融、エネルギー、端末修理・補償、Pontaパス、ローソン、海外事業(モンゴル事業など)が含まれる。

 ビジネスグロースセグメントは法人向けで、AIインテグレーション、サイバーセキュリティ、データセンターなどで構成する。データセンター事業は2026年1月に稼働を始めた「大阪堺データセンター」を中核に置き、GoogleのGemini活用や高性能GPU貸し出しで企業のAI開発・運用を支援する。

3セグメント体制 新中計ではセグメントを3つに再編した

 人口減少局面に入った国内モバイル市場では、通信事業の成長余地が狭まっている。NTTは5月8日発表の新中期経営戦略で、ドコモのコンシューマー通信を含む既存通信分野(コネクティビティ分野)について「安定的な利益確保によりキャッシュ創出力を保持」する方針を打ち出し、2030年度の成長はAI・データセンター・金融などの分野でけん引する構図を示した。

 これに対しKDDIは、通信領域でも成長を続ける方針を打ち出す。松田浩路社長CEOは「テレコムコアはしっかりと成長していく。グロース領域は2桁成長させ、トータルで5%成長を目指す」と述べた。グロース領域(パーソナル+ビジネス)の構成比は3分の1規模に拡大する計画だ。通信は「母体が大きい」とし、付帯サービスや生活領域の価値拡張でARPUを高めていく構想を示した。データセンターには国内外で3年3000億円、デジタルベルト構想には1.2兆円を投じる。

パーソナルグロースの軸はAI生活力

 パーソナルグロースの5領域は金融、エネルギー、デバイス、ローソン、Pontaパスで構成する。松田氏はこれらを通じて「AI生活力」を生み出すと説明した。AI生活力は、暮らしや体験をAIで変革する取り組みを指すKDDI独自の概念だ。法人向けの「AI労働力」と対をなす。

パーソナルグロース5領域 パーソナルグロースは5領域でCAGR二桁成長を目指す

 中でも金融分野では、同日発表したコインチェックグループとの資本提携が目玉となる。コインチェックは国内大手の暗号資産取引所で、親会社のCoincheck Groupは2024年12月に米Nasdaqに上場している。KDDI、コインチェック、auフィナンシャルホールディングスの3社で合弁会社「au Coincheck Digital Assets」を設立し、2026年夏に暗号資産ウォレットの提供を始める。出資比率はKDDIが50.1%、コインチェックが40.0%、auフィナンシャルホールディングスが9.9%となる。松田氏は「既存の金融を先駆けてやってきた。Web3も先手必勝の思いだ」と述べ、ブロックチェーン基盤の次世代金融への参入を急ぐ姿勢を強調した。

 デバイス領域は、スマートフォンに代わる次の機器を新たな商機と捉える。全てのデバイスにAIエージェントが搭載される時代を見据え、利用者の手元のデバイスがKDDIの「デジタルベルト」(全国に展開するAI計算基盤)と低遅延で連携する構図を狙う。松田氏は「これからのデバイスは面白くなる。大きな機会としてチャレンジしたい」と意欲を見せた。

 ローソンは、KDDIが2024年に三菱商事と共同経営に乗り出したコンビニチェーンだ。全国約1万5000店舗のリアル接点を、デジタルサービスの拡張に活用する。povoのギガチャージカードはローソン店頭で販売されており、前年比9倍に伸びる成功事例となっている。

パーソナルグロース新ビジネスモデル パーソナルグロースでは金融・ローソン・デバイスの3領域でパートナー連携による新ビジネスモデルを打ち出した

auフィナンシャルHDの上場を検討

 KDDIは同日、auフィナンシャルホールディングス(auFH)の株式上場に向けた検討を開始したことも発表した。auFHは、auじぶん銀行(ネット銀行)、au PAY(決済)、au PAYカード、au損保(損害保険)、auアセットマネジメント(資産運用)など、KDDIグループの金融事業を束ねる中間持株会社。総資産は9.3兆円規模に拡大しており、独立した上場企業として情報開示やガバナンスの責任を負う体制への移行を視野に入れる。

auフィナンシャルホールディングス上場検討 auフィナンシャルホールディングスは株式上場に向けた検討を開始した

コンシューマー向けAIエージェントは6月発表へ

 コンシューマー向けAIエージェントについて、松田氏は「来月(6月)あたりに発表したい」と明かした。KDDIは2025年4月の社長就任会見で「AIマーケット」構想を発表したものの、その後具体的な動きは見えなかった。同年10月の「KDDI SUMMIT 2025」で松田氏が、良質なコンテンツを持つメディアパートナーと組んで提供する新方針を打ち出した経緯がある。GoogleのGeminiを活用し、利用者の関心分野を深掘りして信頼できる情報を届けるコンセプトだ。NTTドコモは3月にパーソナルAIエージェント「SyncMe」のパイロット版モニター募集を始め、夏に本格提供する予定。キャリア各社が個人向けAIエージェントを競う中、KDDIも6月の発表で具体的なサービス像を明らかにする見通しだ。

2026年3月期は4%増収、モバイル収入も既存ユーザー重視で反転

 KDDIは同日、2026年3月期決算も発表した。連結売上高は6兆719億円(前期比4.1%増)、営業利益は1兆991億円(同1.1%増)となった。2019年3月期比でEPSを1.5倍(194.38円)とする中期目標について、実際のEPSは183.59円で未達となった。同社はビッグローブ子会社で発覚した架空循環取引による外部流出171億円と、契約コストの減損482億円を除いた「実力値」ベースで試算すると目標水準を上回ると説明している。

連結業績ハイライト 2026年3月期の連結業績は売上高6兆719億円で前期比4.1%増だった

 本業のモバイル事業は、増収基調に戻った。KDDIは前年度、新規獲得時の販促費競争から距離を置き、契約者に長く使ってもらって生涯にわたる収益を高める「LTV(ライフタイムバリュー=顧客生涯価値)」重視へ戦略を切り替えた。auからUQ mobileへの乗り換えを既存顧客に促す施策などが代表例だ。松田氏は会見で「価値競争の土俵に切り替えた。LTVでの戦いが正しいと実感できた」と振り返った。

 2026年3月期決算は旧セグメント(パーソナル/ビジネス)ベースで報告されており、個人向けの「パーソナルセグメント」におけるモバイル収入は2兆54億円で、前期比326億円増となった。ただし他社の通信事業者にKDDI網を使わせる相互精算「アクセスチャージ(接続料)」の収入が前期から減少しており、その減少分を除いた自社契約者向けの実質的なモバイル収入は約500億円の増収となる。アクセスチャージ収入は、楽天モバイルへのローミング提供などが含まれる。

 モバイルARPUは4440円で前期比100円増。スマートフォン稼働数は3323万契約で、36万契約増を確保した。ARPU増と契約増を両立した点が際立つ。

 押し上げたのは2025年8月1日に実施した既存プランの料金改定だ。「使い放題MAX+ 5G/4G」「auマネ活プラン+」など主力プランで月額330円の値上げを実施した。同時に6月3日には新フラグシッププラン「auバリューリンクプラン」(月額8008円)を投入。データ使い放題に衛星通信「au Starlink Direct」、優先制御の「au 5G Fast Lane」、海外データ通信「au海外放題」や「Pontaパス」などを組み合わせた構成とした。

 ARPUの四半期推移を見ると、値上げ反映後の2026年3月期第3四半期で4460円、第4四半期で4550円と急上昇した。松田氏は「ARPUの100円増は通信もそうだが、付加価値もそれぞれが伸びて積み上がっている」と説明する。再値上げの可能性については「値上げありきではなく、価値づくりありきだ」と述べ、5G Fast Laneの次にあるスライシング技術の活用などを通じた価値拡張を進める考えを示した。

 au Starlink Directは1周年を迎え、累計接続数400万人を突破した。Opensignalの「つながる体感No.1」で日本史上初の4連覇も達成し、通信品質での差別化を打ち出している。

KDDIスマートモビリティが7月発足、自動運転に参入

 KDDIは、ウィラーとの合弁会社「Community Mobility」を完全子会社化し、2026年7月1日に「KDDIスマートモビリティ」へ商号変更する。Community Mobilityが運営してきたAIオンデマンド交通「mobi」の事業に、新たに自動運転サービスを加える。auショップやローソンを乗降・EV充電スポットとして活用しながら、地域交通の社会実装を進める方針だ。政府が2030年度までにバス・タクシーの自動運転車両を全国1万台導入する目標を掲げる中、新規事業の柱に育てる。

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