連載
» 2007年03月05日 09時00分 公開

山谷剛史のアジアン・アイティー:Vista登場で中華PCのOS事情は変わるのか

中華PCというと「OSなし」「DOS入り」「Linux入り」という印象が強い。政府の「正規OS入れなさい」宣言から初めてとなる新Windowsの出荷でメーカーの対応やいかに。

[山谷剛史,ITmedia]

Windows Vista搭載モデルがそこそこ登場

 中国では、Windows VistaをプリインストールしたPCが「Microsoftの正式出荷開始日」の前日となる1月29日に、中国で展開するPCメーカー各社から発表された。そのラインアップはMicrosoft中国法人の特設Webサイトで見ることができる。そこで表示されているPCメーカーのロゴをクリックすると、そのメーカーが発表したWindows Vistaプリインストールモデルが確認できる。ただし、そこからアクセスできる特設ページ以外では、Windows Vistaモデルの姿はなく、Windows XPモデルだけを紹介しているメーカーが多々あるのは興味深いところだ。

 一部のメーカーを除いて、デスクトップPCはタワー型、ノートPCは汎用パーツで構成された大判の製品がラインアップされている。Windows XPモデルのOSをWinodws Vistaに変更しただけの製品が多い。日本のメーカー製PCのように、TV録画機能を実装してWindows VistaのWindows Media Center機能とメーカー独自機能を組み合わせて利用するような「TVサイドPC」というものはなく、Windows Vistaならでは機能を生かすようなユーティリティを独自に用意したモデルもない。中国で展開している日本のPCメーカー、例えばソニーがボードPCこと「VAIO type L」や、超小型PC「VAIO type U」を、富士通が「LOOX」シリーズを中国市場で投入しているのとは対照的だ。

 Microsoft中国法人のWebページで紹介された製品以外にも、最新の正規版Windows XPをプリインストールしたモデルであれば、Windows Vistaに無料でアップデートする中国PCメーカーもいくつかある。例えば、Lenovo(聯想)、Founder(方正)に続く、中国第3の中国PCメーカー「清華同方」は一部の正規版Windows XP Media Center Editionプリインストールモデルを正規版Windows Vista Home Premiumに無料でアップデートすることを発表している。

 しかし、中国ならではのカテゴリ「ネットカフェ専用PC」では、どこのPCメーカーもWindows Vistaをプリインストールした製品をリリースしていない。このカテゴリではWindows XPのころから変わらず「OSなしモデル」が全盛だ。また、この連載でも紹介した中国の西南地方、三国志で言えば南蛮の地域限定で展開する「金利電脳」は、相変わらずWindows Vistaどころか、正規版Windows XPすらプリインストールされていないPCだけが販売されている。

 Windows VistaがプリインストールされていないPCのOSは、メインストリームモデルならWindows XPが主流で、エントリーモデルではLinux、もしくはDOSがプリインストールされている。もちろん「OSなし」モデルも多数。ちなみに、正規版の「2007 Microsoft Office」をプリインストールした製品も今のところないようだ。

「メモリが512MバイトでもHome Premium」なWindows VistaプリインストールPC

 IBMのPC部門を買収する前から中国で最大のシェアを持つLenovoが最もWindows Vistaに力を入れている中国PCメーカーであることは、同社の発表からも実際に電脳街のLenovoショップを見ても感じられる。デスクトップPC、ノートPCともに多数の正規版Windows Vistaプリインストールモデルをラインアップしたほか、電脳街のLenovoショップの店頭では「Windows Vista PC販売中!」といったポスターが掲げられている(ほかのPCのメーカーはソニーを除いて、まったくといっていいほどメーカー直営店でWindows Vistaをアピールしていない)。

 LenovoはハイエンドモデルからメインストリームモデルにWindows Vistaをプリインストールしているが、そのすべてがWindows Aeroの使えるWindows Vista Home Premiumとなっている。中国のIT系Webメディアの「中関村在線」や、「PCPOP」「太平洋電脳網」がそれぞれ実施した「Windows Vistaで一番魅力的な機能は?」という読者アンケートで、各誌とも「Windows Aero」という回答がトップになっている。こういう結果からも分かるように、中国のPCユーザーにはWindows Vista Home Basicでは力不足。それゆえにWindows Vista Home Premiumを全モデルにインストールしたのだろうが、メモリ容量が512MバイトのモデルにすらWindows Vista Home Premiumをプリインストールするのはやや無茶があるのではないかと思う。Lenovoもそう考えているらしく、購入金額に1元プラスするだけで1Gバイトの「USBメモリ」を購入できるサービスを現在提供している。512Mバイトというメインメモリの少なさの対策として、デスクトップPCにWindows Ready Boost頼みのUSBメモリをつける姿勢には「それでいいのか」とツッコミをいれたくなる。

 Lenovo以外のメーカーでもメインメモリ容量512MバイトのモデルにWindows Vista Home PremiumをプリインストールしたPCが見られるが、一方で日本のメーカーのように「メモリが1Gバイト以上ならWindows Vista Home Premium、512MバイトならWindows Vista Home Basic」という分相応なOSをプリインストールしたモデルをリリースするメーカーもある。その割合は半々だ。

 結果的にWindows Vista Home Premiumプリインストールモデルが先代のWindows XP Media Center Editionプリインストールモデルよりもだいぶ多くなり、また主にメーカー各社のハイエンドモデルに限られるものの、TVチューナーとキャプチャボードを搭載したモデルがWindows Vistaの登場以後に多く登場している。これを期にTV番組をPCで録画する文化が中国でも浸透するかもしれない。

 中国の電脳街では正規版Windows VistaプリインストールPCが販売されているのがよく見られるようになった。当然、デモ機も展示されているが、Windows VistaプリインストールPCでないのにWindows Vistaが動いているデモPCがあったりするのはナゾである。ただ、各ショップでも、まだまだWindows VistaよりもWindows XPのデモ機が多い。客もWindows Vistaに興味がないのか、Windows XPのデモ機と同程度にしか見ていないようだ。筆者の周辺にいる「PCを使うけどそれほど興味ない」ユーザーに「Windows Vistaってどう思う?」と聞いてみると、ほとんどが「なにそれ?」と返答した。存在すら知らないのである。TVやIT系メディアでWindows Vistaのプロモーションがほとんど行われていない中国の現状では、PCを「使えればいい」と思っている人々がWindows Vistaを知る機会はないわけで、こういう答えが返ってくるのも「なるほど」うなづける。

 中国PCメーカーが行う旧機種のVistaへのアップグレードのサポートはどうだろうか。中国のメーカー製PCのほとんどは、日本でいうところのショップブランドPCのような、「パーツを組み立てて動作を保証する」といったもので、日本のメーカー製PCのように「あるモデルでしかできない機能」やメーカー独自の対応アプリケーション待ちということもない。搭載しているパーツのWindows Vista版ドライバがパーツベンダーからリリースされたらそれを導入するだけでOKだ。

 ただし、中国PCメーカーのWebサイトの多くは更新が遅く、現時点においてもPCメーカーサイトにはWindows Vista対応ドライバがほとんどあがっていない。もっとも、PCメーカーのサイトが当てにならないので、中国のPCユーザーはパーツメーカーのWebサイトから自分でドライバをダウンロードするのが習慣となっている。そういう「ユーザーが期待していない」という中国では「PCメーカーによるWindows Vistaへのアップグレードサポート」というのはさほど重要な意味を持っていないということがいえるだろう。

 市街地に住む一般的な市民の月給が2万円程度である中国において、低価格機種がさぞかし売れているのだろうと思いきや意外とそうでもない。中国のリサーチ会社の易観国際が2月に発表した2006年第4四半期のメーカーPC出荷実績によると、最廉価モデル(3000元=約4万7000円以下のデスクトップPCと5000元=約7万8000円以下のノートPC)の出荷シェアは、デスクトップPCが3.9%、ノートPCが2.9%程度でしかなかった。一番売れているのはデスクトップPCで3000元〜6000元(約9万5000円)、ノートPCで5000元〜12000元(19万円弱)といったメインストリームの価格帯で、それらが7割以上のシェアを占める。この価格帯のモデルにはWindows Vistaを搭載したPCが多数用意されているのだ。

 易観国際によると、「コストを切り詰める必要のない」政府や金融機関、電信業務などがこういったメーカー製PCの主要顧客であるとされている。Windows VistaをプリインストールしたメインストリームPCはこういった官公庁と優良企業でのみ、その勢力を拡大していく、という構図がこの調査から見えてくるのではないだろうか。

中国の電脳街で数少ない「Windows Vistaのロゴ」を確認できる数少ない販売店であるLenovoとソニーの専門販売店。これ以外の店でWindows Vistaの存在をアピールするPOPはほとんど見ることがない。しかし、Windows Vista搭載PCのデモ展示は数多くのショップで行われている

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