PCの水冷システムに求められるのは、空冷よりも高い冷却性能と静音性だろう。両者を両立するには、大きな表面積を持つラジエータや高性能なポンプが必要になる。自作PC市場においては、ザルマンの「RESERATOR 1/同1 plus」やサーマルティクの「Symphony」などが、これらの条件を満たして人気を集めた。しかし、巨大な外付けラジエータが必要なため、設置場所を確保できない人は、PCケースに内蔵できる小型タイプを選ばざるをえない。すると今度は小さなラジエータやポンプ、少ない冷却液で稼働しなければならず、静音性か冷却性のどちらかをスポイルしなければならない場合が多かった。
このPC冷却システムの常識は、NECの液晶一体型PC「VALUESTAR W」シリーズに搭載された“第4世代水冷ユニット”にも当てはまるのだろうか。テレパソとして同製品を使い込み、静音性と冷却性をチェックしてみた。なお、PCの性能や水冷システム自体の詳細なレビューについては下の囲み内にある関連記事を参照してほしい。
ちなみに、今回試用したのは店頭で販売される最上位モデルの「VALUESTAR W VW790/KG」で、地上デジタル/地上アナログTVチューナーやHD DVDの再生が可能なBlu-ray Discドライブを内蔵し、1680×1050ドット表示の22インチワイド液晶ディスプレイを備えたAV用途に向いた製品だ。直販のNEC Directでは、CPUをはじめメモリやHDD容量、液晶ディスプレイのパネルサイズおよび解像度、さらにはOSのエディションをカスタマイズできる「VALUESTAR G タイプW」が用意されている。定期的に実施されているお得なキャンペーンを活用すれば、より手ごろな価格で製品を入手できるのもダイレクト販売ならではのメリットといえる。
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第4世代水冷ユニットは、日立製作所とNECが共同で開発を行い、長時間の使用に耐えるように設計しているという。「ウォーターサイレンス」と呼ばれる冷却ユニットは、液晶一体型PCの限られたスペースに内蔵され、HDD全体を防振材と吸音材で覆う「HDD遮音Box」でHDDを冷やし、CPUブロックも巡回しながら、ラジエータに装着した12センチ角ファンのみで放熱する。遮音BoxでHDDからの騒音を抑えるとともに、1000rpmという緩やかな速度でファンを回して風切り音を極力減らし、稼働音を抑えたポンプを採用したことで、システムがフルに動作しても平均25デシベル以下という静音性を実現している。
実際、エアコンやほかのPCなどが稼働している室内で本機の電源を入れても、LEDランプを見なければ起動していることすら気づかないほど静かだった。机上に置いてキーボード操作する際に、耳を澄ましてようやく駆動音が聞こえる程度だ。しかも駆動音は低音のためほとんど耳につかない。ファンの回転数が低いことで耳障りになりがちな風切り音がほとんど発生しないのだ。
ボディ前面の左右に搭載しているAURASOUND製スピーカは、楽器を操る指使いやヴォーカルの呼吸音を把握できる伸びのある音を聞かせるが、スピーカの容積が限られていることもあって、低音の迫力にやや欠ける印象がある。とはいえ、PCの騒音を限りなくゼロに近づけたことで、必要以上に音量をあげなくてすむほか、長時間聞き続けても耳が疲れず、ながら聞きには向いている。
さて、ボディが小型で静音となると、最後に気になるのはその冷却性能だ。以前のセパレート型水冷デスクトップPCでは、TDPが130ワットのPentium D 840(3.2GHz)を搭載していただけに、消費電力が大きく下がったCore 2 Duo(E4400のTDPは65ワット)の冷却だけなら、何の問題もないだろう。ただ、第4世代では発熱量の大きいHDDも同時に冷却するため、長時間の運用時はどうなるのだろうか。
もちろん、メールの送受信やWebの閲覧といった通常の操作をする分には不安は一切ない。第4世代の水冷ユニットが効率的に熱を放熱するので、使っているうちに熱がこもってくるファンレスのモバイルPCのような状態にはならない。しかし、年末年始の特番を控えたこれからの季節は、普段とは比べものにならない長い時間にわたってテレパソを酷使させる人も少なくないだろう。長時間の番組録画を行うと、その間は常にHDDが稼働することになる。数日分の録画予約を設定したまま旅行に出かけるとなると、数10時間も録画を続ける場合があり、やはり一抹の不安は残る。
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