連載第2回で取り上げた「ATOK Sync」は、ユーザー辞書の同期のほか、お気に入り文書のアップロード/ダウンロードも行うことができると紹介した。お気に入り文書という名前から「よく閲覧、編集するドキュメントファイルへのショートカット」と誤解するかもしれないが、これは文字入力の省力化を図るものだ。
仕事で文書を作成する場合は、同じ言い回しや定型的な文章を書くことが多い。特に取引先へのメールなどでは書き出しと締めの部分はほとんど同じパターンだろう。それを毎回入力していると手間がかかるだけでなく、打ち間違いなどのミスが起きる危険性もある。そこで、よく利用する文章をあらかじめテンプレートとして用意しておき、簡単に入力できるようにする機能が「お気に入り文書」だ。
お気に入り文書のメニューを表示するには、ATOKメニューから選択するか、日本語入力オンの状態でSHIFT+CTRL+F11キー(デフォルトの場合)を押す。初期状態ではメール署名、ビジネス文書、お気に入り(ユーザー定義)の3グループが用意されており、さらにその下にいくつかのお気に入り文書があらかじめ収録されている。入力したい文書を選択すれば現在のカーソル位置に入力される。
お気に入り文書を追加・編集するには「お気に入り文書ボックス」を選択する。簡単なものであればそのまま登録すればよいが、名前やメールアドレスといったユーザー情報など、よく使う項目については変数のように別定義とすることもできる。もちろんお気に入り文書自体にベタ打ちしてもよいが、例えば会社名や部署名などを含んだお気に入り文書を複数登録する場合は、別に定義しておくと異動や社屋移転の際に一度に変更することができる。
また、この項目には事前に定義しておく文字列のほか、日付と時刻のように動的に変化するものも用意されている。使い方次第で便利なのが「入力文字列」「クリップボード」だ。この2つはお気に入り文書の一部を都度差し替える場合に有用で、「入力文字列」は未確定文字列に、「クリップボード」はコピーされた文字列に変換される。「入力文字列」を使用すると入力中にそのまま差し替えることができるため、よりスピーディな利用が可能だが、その性質上改行を含めることができない。一方、「クリップボード」は改行を含めることができるが、利用する前にコピー(または切り抜き)の一手間をかける必要がある。
これらは1つのお気に入り文書中で複数回利用することができ、宛先の人名が文中に何度も出てくる場合などにも対応可能だ。また、SHIFT+CTRL+F12でメニューを表示させずに、前回使用したお気に入り文書を貼り付けることができるので、同様の文書を宛名だけ変えて次々に作成する場合に威力を発揮する。

タブを含めたいときは「設定」から「タブ」を選択(画面=左)。タブを使用してExcelの複数のセルに一気に入力。改行やタブを含んだお気に入り文書をExcelに貼り付ける場合はコマンドモードで操作する。入力モードや編集モードではタブもしくは改行以降が入らない(画面=右)お気に入り文書メニューから選択できる「あいさつ文例」もメールを書く際に重宝する機能だ。書き出しや結びのほか、依頼や催促、断りなどの定型文があらかじめ用意されているので、用件を除くほとんどの部分が簡単に作成できる。なお、初期状態ではお気に入り文書・あいさつ文例を選択すると即座にアプリケーションに入力されるが、これをクリップボードにコピーし、実際には入力しないようにすることもできる。

あいさつ文は書き出しや結びといった定型的な部分から依頼や催促、断りといった内容に関する部分まで網羅している。敬語が苦手な人にも参考になる(画面=左)。お気に入り文書を直接入力するのではなく、いったんクリップボードにコピーすることもできる(画面=右)文字列を一括で置換する場合に、テキストエディタの置換機能が利用できることは周知のことだと思われるが、置換後の文字列を次々と変えて複数のテキストファイルを作成する、いわゆる「差し込み」の場合はExcelなどを使っていた人も多いのではないだろうか。ATOKは日本語入力ソフトであるがゆえにアプリケーションを選ばないという利点もある。上手に活用してほしい。
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