“ARM Windows 8”はPC業界の何を変えるのか:BUILD(1/2 ページ)

» 2011年09月15日 17時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 米カリフォルニア州アナハイムで行われているMicrosoftのソフトウェア開発者向け会議「BUILD」。Windows 8に対する開発者たちの関心を集め、彼らが用意した従来とは全く異なるプラットフォームにアプリケーションを書いてもらおうと、Microsoftは新しい時代に即したWindowsを「再考した」と話している。

徐々に明らかになるARMサポートの意図

Windows 8が採用した「Metro」スタイルの新しいスタートスクリーン

 中でも注目されるのが、2011年1月のInternational CESで発表されたARMアーキテクチャへの対応だ。果たしてARMへの対応は、何をWindowsにもたらすのだろうか。

 1月に発表されたとき、多くの人はWindowsがそのままARMに移植されるだけだと考えていた。かつてWindows NTがPowerPCやMIPS、Alphaといったアーキテクチャで動作していたのと同じようなものを想像し、x86アーキテクチャ向けのアプリケーションはどう動くのか? など、さまざまな想像を巡らせていた。

 しかし、今ではそのような話は聞かれない。Microsoftが早々に、Windows 8が目指している世界観を公開したからだ。Zuneに始まり、Windows Phoneで発展させたユーザーインタフェース技術の「Metro」を採用し、全画面動作でタッチ操作を前提に設計される新しいアプリケーションを目指す。それは6月にMicrosoftが公開したデモビデオを見るだけで、誰もが理解したはずだ。

 一方で、Microsoftがワークデスクの上での仕事をメタファーとする現在のデスクトップ型GUIを捨てることも考えにくい。とするなら、インターネットサービスとの接続性やコンテンツの閲覧、再生中心のアプリケーションに適したMetroスタイルを別に構築し、既存OSに統合するのだろう。

 AppleとGoogleは、スマートフォンの世界を拡張し、タブレットの領域まで広げてきた。これに対してMicrosoftは、Windowsの領域をタブレットの領域にまで広げるため、Windows 8の軽量化を行うことでPCからタブレットまでを一貫したプラットフォームでサポートしようとしているのではないか。と、ここまでがBUILD前までに考えられた話だった。

Windows 8のタッチ用ソフトウェアキーボード

 そしていよいよWindows 8が公表され、PC USERでのニュースで紹介されているさまざまな情報が明らかになってくると、それまでの推測が徐々にリアリティを持つようになってきた。

 Windowsを基礎に“下の方”へと広げていけば、本来的に備えているリッチなメディア機能、ネットワーク機能、グラフィックス機能、セキュリティ機能などを、ARMアーキテクチャのデバイスで構築したモバイル端末(ノート型もあれば、タブレット型もあるだろう)にそのまま引き継げる。各種サーバやクラウドのソリューション、企業向けアプリケーション開発基盤としての実績も考え合わせれば、タブレット以上をWindowsベースで統合する意味は小さくない。

 こうしたWindowsが持つ得意分野は、一方でiOSやAndroidの不得手な領域とも言える。もし、本当にiOSやAndroidと同じぐらいモビリティの高い軽量なOSになるならば、ARM版Windowsは、たとえx86バイナリの従来型Windowsソフトウェアと互換性がなくとも魅力的な存在になる可能性がある。

Windows搭載機がこれまでできなかった弱点の克服

 Windowsはこの10年、徐々にモバイル機能を強化してきたものの、Windows搭載PCはスマートフォンに対して劣る点を克服できずにいた。携帯電話網などのWANに常時接続しながら節電モードに入ったり、必要なときにすぐ電源がオンにできたり、目的/コンテンツ指向で利用シナリオに応じた最小ステップで使えたり、などの点がそれに当たるだろうか。もちろん、PCにはありあまる汎用性とプロセッサパワー、自由度の高さなどがある。

 とはいえ、クラウドの中へとアプリケーションが持つ価値が遷移していく中で、PCでなければならない領域は狭くなってきている。ARM版のWindows機は、従来の弱点を克服するための要素だ。

SnapDragon搭載機を目の前で操作してくれたQualcomm。さすがにCore i5で動かす場合に比べると動きがややぎこちない。もっとも、製品化されるときには、CPU、GPUが次世代になり、メモリ搭載量も多くなる見込みとのこのことで、あまり心配はしていないようだ。基調講演における常時接続時の省電力待機デモは、この試作機で行われた

 基調講演の中でQualcommのSnapDragonとLTE対応のGobiを搭載したタブレット型PCが、LTEネットワークに継続して接続しながら省電力モードで動作し、そこから一瞬で立ち上がった。これこそがWindows搭載機がこれまで得られなかったものだ。基調講演では他にTIのOMAP4、NVIDIAのTagra 3搭載のタブレットを紹介したが、いずれもSnapDragonと同様の振る舞いを期待できる。

 長時間のバッテリー駆動も期待できるはずで、SnapDragon搭載の試作機は1Gバイトメモリと64GバイトのSSDを搭載し、10時間を超えるバッテリー駆動時間を現段階でも得ているという。一般的なCore i5搭載のタブレット型Windows PCに比べると、2倍以上の駆動時間になる。

 しかし、一方でいくら軽量化が図られたとはいえ、WindowsがARMの上で快適に動くのだろうか? という疑問は、当然ながら出てくる。BUILDのショーケースには、ARM版Windowsタブレットが3種類並んだものの、いずれも実際に触るのはNG。Microsoftから、来場者に触らせることが禁じられているようだった。

 唯一、Qualcommだけがこちらのリクエストに応じて、説明員が操作をしてくれたが、確かにまだ反応はよいとは言えない。画面描画が優先されるため、ある程度のレスポンスは得られているものの、アニメーションはややぎこちなくなる場面もあり、Core i5搭載機とは比べることはできない。

 ただし、Qualcomm、TI、NVIDIAともに、さほどパフォーマンスの心配はしていない。Windows 8の投入を来年末(2012年末)と予想するならば、各社の作るARMベースのシステムチップは、CPU、GPUともに次世代のものにアップグレードされていると考えられるからだ。おそらくメモリも2倍にはなっているだろう。

 さらにその後、数年の進歩を期待するならば、ひとまずMetroスタイルアプリケーションにおけるパフォーマンスの問題はないだろう。

TIはフルHD動画の再生もできるOPAM4のパフォーマンスを生かし、デスクトップ画面で動画を再生させながら、Metroのパズルゲームを動かした状態でデモ(写真=左)。搭載メモリは1Gバイト。実際の製品が出る際には、次の世代に移行済みとのこと。Tegra3 で開発されたWindows 8マシンの試作機(写真=右)。Intel版と内容は全く同じだ

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