さて、ここまで試作のプロセスを見てきたわけだが、何とか量産にこぎつけた後でも、問題が発覚するケースは数多い。そもそも「量産品」とひとくちに言うが、量産ラインを流れて生産された製品が、すべて出荷可能かというと、決してそうではないからだ。
例えば先ほどの「量産試作」の中で、最終的に量産にゴーが出る直前に生産された製品、つまり「プロセスとしては量産試作の段階で生産されているが、量産品と何ら違いのない製品」というのが存在している。量産ラインがきちんと流れるかどうかを検査する過程で作られた品なので、数台といったレベルではなく、通常と同じロット数、すなわち3ケタとか4ケタの数があることも少なくない。
大手メーカーであれば、これらの機材は社内で検証用に使ったり、不良交換用の部材として確保したり、または報道関係者向けの貸出機材に回されることが多い。最近であれば、ブロガー用の無償提供機材となっていることもある。しかしながら、実は小規模なメーカーの場合、この段階の製品をそのまま量産品として出荷してしまうことも少なくない。
もちろん、量産品と何ら相違がなく、動作に問題がないのであれば、ユーザーに直接的な不利益があるわけではない。「正式な量産品ではない」というのは、メーカー社内の工程だけの問題だからだ。ところが、実際には量産品とは微妙に異なっているにもかかわらず、量産品として出荷してしまうケースが起こり得る。そのきっかけは、オーダーに対して初回出荷分の数量が足りないとか、あるいは量産試作を何度も繰り返したことで社内にモノがあふれてしまい、その使い道を確保したいとか、そういう要因によるものだ。
これらを製品として出荷すると、下手をすると動作に不具合を起こし、ユーザーからクレームが相次ぐ危険があるわけだが、万一そうなった場合は初期不良として交換すればよいと割り切って、出荷を強行するケースがある。そもそもこうした量産試作は帳簿上はゼロ円となっていることが多く、売れればその金額がまるまる利益として計上されるので、不具合さえ起こらなければ、こんなにオイシイ商材はない。何パーセントかは良品交換になったとしても、試してみる価値は十分にあるというわけだ。
ここまで指摘したような問題は、大手メーカーは起こりにくく、小規模メーカーなら起こりやすいかというと、必ずしもそうではない。大手であるがゆえに、さまざまなしがらみがあり、結果として不本意な製品を世に送り出さざるを得ないケースもあるし、小規模メーカーでもしっかりしているところはいくらでもあるからだ。
1つだけ確実に影響するファクターがあるとすれば、それは「経験」だろう。ある程度大きな規模のメーカーであれば、過去にこの種のトラブルに直面した経験はあるはずで、どこまでがセーフでどこからがアウトかは、その会社のものづくりのプロセスにきちんと組み込まれていると考えられる。製造工程での問題を回避する独自の開発ノウハウを確立している場合も少なくない。
また、そうした大手メーカーから独立したスタッフが立ち上げたメーカーであれば、たとえ会社の規模が小さく事業を始めたばかりであっても、こうしたリスクはきちんと理解できていると考えるのが自然だ。
これに対して、経験がほとんどなく、外部にアドバイザーもおらず、さらに決定権を持つ役職者がワンマンだったりすると、ここまで見てきたようなトラブルが起こり得る。また、好ましくないことは分かっているが、資金繰りの問題でやむを得ない……となり得る確信犯的なケースは、抑止力の働きにくい小規模メーカーに起こりがちだろう。
ユーザーとしてこうしたトラブルを回避するには、長い目で見てその会社が信頼に足るかどうかを判断するという、製品単位ではなく会社単位で判断する方法が1つ。さらに確実性を増したければ、メーカーを問わず新製品の初回ロット、念を入れるならばセカンドロットくらいまでは手を出さず、きちんと動作することを口コミレベルで判断した後に手を出すことだ。いずれにせよリスクを減らす方法はあれど、完全に回避する方法はないに等しい。言い方は悪いが、「新製品は他人に先に買わせる」というのが、ある意味で究極の対策になる。
しかし、製品の発売時を逃してしまうと、品薄でしばらく入手できなくなったり、ようやく世間の評価が定まってきたころには、競合製品がより魅力的なモデルチェンジを遂げていたり、といったことも少なくない。こうなると、ますます買い時を逸してしまう。後悔しない買物のためには、初回ロットのリスクを知りつつも、購入したい製品のライフサイクルや早期に導入するメリット、そして今すぐ使いたいという物欲も考慮して、ときには思い切った決断も必要だ。
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