さて、Oculus Rift開発キットを開梱して初めに思ったのは「これは低コストだ」ということだ。
Oculus Rift開発者キットは スポンジクッションを詰めた取っ手付き専用ケースに収められて届く。一見剛健そうに見えるのだが、実際に持ってみるとかなり軽い。写真では立派に見えても、実際に見ると安っぽいと感じるころがたくさんある。肌に触れる部分はしっかりしているが、そのほかのデザインなどには低コスト感が漂う。
コントロールボックス部に並ぶ5つのボタンは筐体側のエンボスで機能が表されているだけで印刷はない。ディスプレイ部についても、外観は平面なディスプレイをダクトテープで固定した最初期のものと大きくは変わらない。これが通常のメーカーだと全体を流線型の美しいフォルムに仕上げるのかもしれない。
最終製品版ではなく開発者キットだから、という可能性もあるが、最終的にスペックの変更こそあれ、大きく変更はないと思われるディスプレイ部に至っては単に1280×800ドットの液晶ディスプレイの形そのままだ。光学的にはその上に凸レンズをはめ込んでいるだけで、「凸レンズのメガネで液晶ディスプレイを超至近距離で見ている」状態だ。
もちろん、それだけではまともな映像になるはずもない。だが、Oculus Riftはそれ自身では画像を補正したりはしない。Oculus Riftで正常に見えるような画像を「あらかじめ」PC側で作って、それをストレートに表示しているだけだ。
一般的なHMDであれば、入力に汎用性を持たせるために内部処理を行って画像をコンバートするのかもしれない。だが、Oculus Riftはあらかじめ歪ませた画像を入力するという大胆な方法でこれを解決した。
Oculus Riftのすごいところはこれらのコスト削減がまったく、使い勝手や性能の低下につながっていないところだ。軽量という点ではむしろメリットですらある。このメリハリのあるコスト意識には思わず惚れ込みそうになるような「思想」を感じずにはいられない。Oculus Riftに対する「安っぽい」はむしろ賛辞なのではないかとすら思われる。
その理由はOculus Riftが生まれる背景に由来する。南カリフォルニア大学のMxRラボでは、スマートフォンやタブレットを使って没入型VRを低コストで広く利用できるようにするプロジェクトが進められていた。これが「FOV2GO」プロジェクトであり、そのメンバーの1人がOculus VR社の創業者、Palmer Luckeyだ。
Palmer LuckeyはクラウドファンディングサイトのKickstarterで出資を募り、25万ドルの目標値に対して約十倍の243万ドルを集めた。その際のゲーム業界のキーマンたちの熱狂は記憶に新しい。Oculus Riftはこの先も低コスト、低価格で在り続けるはずだ。
Oculus Riftを体験してもらいたい、という人たちの集団である「Oculus Festival in Japan」は頻繁に体験会「Oculus Festival」を開催している。先日の秋葉原イベント「アキバ大好き」でも秋葉原ベルサールを始め、ショップなど5か所で展開していたので、実際に体験した人も多いかもしれない。
3Dプリンタが現実に立体物を生み出すように、Oculus Riftは視覚に立体物を生み出す。自身の無力さを認めるようで残念ではあるが、このリアリティはいくら言葉を重ねても伝えきることはできないだろう。もし、近所でOculus Fesが開催されるようであればぜひ、体験してもらいたい。
そして公衆の面前ではなく、1人でじっくりと没入したい、そう思ったら直接購入するのがよいだろう。このような製品としては破格の3万円台で購入可能だ。現行の開発者キットの後にもCrystal Cove、さらには最終製品版も控えているが、それを待たずに購入したくなる魅惑の世界がすぐそこにある。
なお、くれぐれも自制心を持って、こちらの世界に戻ってくることを忘れないようにしてほしい。忘れそうになるが、Oculus Riftで見ている映像は現実ではないのだ……今のところは。
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