Windows 10に続く道――2014年のMicrosoftを振り返る鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(1/2 ページ)

» 2014年12月27日 18時00分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]
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激動だったMicrosoftとWindowsの2014年

 2014年はMicrosoftにとって大きな変化を迎えた1年だった。2月に米Microsoftの新CEOにサティア・ナデラ氏が就任し、組織改編や新施策、ライバル各社との大型提携を矢継ぎ早に発表。同社が急速に変革へ向けて動き出したことが明確になった。

 Windowsについては、4月にWindows XPがサポート終了となり、Windows 8.1がWindows 8.1 Updateに更新されている。そしてThresholdの開発コード名で知られる次期Windows OSは、2014年10月1日(日本時間)に「Windows 10」として正式発表された。同日より開発者や企業のIT管理者、PCエキスパート向けに「Windows 10 Technical Preview」というβ版を配布中だ。

 今回は2014年最後の連載記事ということで、これらを振り返りつつ、改めて来年に向けたMicrosoftとWindowsの情報を整理してみる。

Windows XPのサポート終了とエンタープライズ戦略

 Microsoftにおける2014年最大のトピックは「Windows XPの(延長)サポート終了」だろう。2014年4月9日(日本時間)にWindows XPの延長サポートがついに終了し、継続利用が推奨されないプラットフォームとなったのだ。

 サポート終了直前にもかかわらずWindows XPの世界シェアは当時まだ2〜3割ほどを占めており、さまざまな混乱が予想されたものの、4月9日時点では特に大きな混乱もなく、10年以上もの歴史に幕を閉じることになった。

2014年4月9日(日本時間)、ついにWindows XPのサポートが終了した(日本マイクロソフトの記者会見資料より)

 しかし延長サポート終了直後の5月、Internet Explorer 6〜11に致命的な脆弱(ぜいじゃく)性が発見され、いきなりMicrosoftは試練を迎えることになった。本来であればサポートが終了したWindows XPにセキュリティアップデートが提供されることはないのだが、影響の大きさも鑑み、Microsoftは特例として同脆弱性に限りWindows XP向けのアップデートも配布した。

 このアップデートは「事前に決めたルール」と「社会的責任」の間で苦しい判断だったのではないだろうか。実際、アップデートの提供直前に来日していた米MicrosoftのDPE担当コーポレートバイスプレジデントのスティーブ・グッケンハイマー氏にWindows XP向けのセキュリティアップデート提供計画について聞いたところ、「Microsoftとして提供できるものはない」と断言していたように、内部でも意見が分かれていた可能性がある。

5月2日にMicrosoftが公開したセキュリティ更新プログラムは、特例としてWindows XPとIE6も対象となった

 「Windows XPはアーキテクチャ的に古すぎてサポート負担も大きい」という理由でMicrosoftが次世代プラットフォームへの強制移行を目指すのはごく自然な動きだが、一方でWindows XPのシェアは依然として高く、特に新プラットフォームへの移行が難しい「エンタープライズ」のユーザーをどう移行させるかが重要なポイントだった。

 IE11に導入された「エンタープライズモード(Enterprise Mode)」はその施策の1つで、IE8以前の環境向けに作成されたWebアプリケーションを、最新のIE11においても比較的忠実に再現する仕組みを提供する。IE11はWindows 7とWindows 8.1に提供されているので、これが一種のWindows XPユーザー救済策として機能することを狙ったものと言える。

IE11のエンタープライズモード。適用すると、アドレスバーのアイコンが“ビル”のマークに変化し、IE8以前のブラウザを想定したWebアプリケーションがIE11上でも動作可能になる(MSDNのIEBlogより)

 しかし現在、Microsoftは別の問題に直面しつつある。それはWindows XPからのユーザー移動には一定の成果を挙げつつも、その移行先が「Windows 7」に集中しているという部分だ。

 コンシューマー向けにはWindows 8.1でも問題ないが、利用者の教育コストやアプリの検証コストがかかるエンタープライズ向けでは、操作体系や実行環境が大きく変更された新OSへの移行は負担が大きい。そのため、デスクトップの利用が中心というユーザーはWindows 7を使い続ける可能性が高く、同OSの延長サポートが終了する2020年までに、移行先となるプラットフォームをMicrosoftが提供しなければならないという情勢だ。

 つまりWindows 10における目標の1つは、このエンタープライズならびにデスクトップ利用中心のユーザーをすくい上げることにあり、差し迫った課題でもあるわけだ。

100ドルPC時代の到来が意味するもの

 2014年におけるWindowsならびにPC業界の大きなトピックとして、「PCの低価格化」が顕著に進んだことも挙げられる。

 なんとこの年末、米国では税別で59.99ドルのWindowsタブレットが登場して話題となっている。ホリデーシーズン向けの割り引きキャンペーンではあるものの、100ドルタブレットや200ドルノートPCなども通常価格として用意されており、一昔前にNetbookで大騒ぎしていたのが遠い過去のように感じる状況だ。しかも当時に比べ、値段は安くても性能は相応に上がっており、「普通に使える製品」となっていることも大きい。

家電販売店のMicro Centerは、自社ブランドの7型Windowsタブレット「WinBook TW700(TW70CA17)」をホリデーシーズン商戦向け特価の59.99ドルで発売した

 こうしたユーザーにとってうれしい状況になったのは、大きく2つの要因があると考えている。

 まずPC以外のデバイスプラットフォーム、特にスマートフォンとタブレットの存在感が大きくなったことだ。結果として、この分野でシェアを持つAppleのiOSとGoogleのAndroidが相対的に強くなり、特に価格面でのプレッシャーをPCに与える形となった。

 これはPC向けのプロセッサ供給を行うIntelと、OSライセンスをビジネスとするMicrosoftにとっては潜在的な脅威であり、「Atomプロセッサの廉売(場合によってはリベート付与も含め)」と「(条件付きでの)Windows OSの無料提供」という施策につながったと言える。実際には2013年後半ごろから仕込みが行われ、それが2014年に大きく花開き、x86アーキテクチャならびにWindows OSの復権という形で現れつつある。

昨今の低価格Windowsタブレットブームの礎となっているMicrosoftの「ゼロ・ロイヤリティ」戦略

 もう1つの要因がChromebookだ。もともとは「低価格PC」的な位置付けで脅威とされていたChromebookだが、現在ところ価格レンジは200〜300ドル台で、スペックなどを考えれば安価になったPC製品群と比べてさほど魅力的ではない。

 しかし筆者は、別の部分にこそChromebookの脅威があり、それは「Webアプリケーション」にあると考えている。ChromebookはChrome OS上で動作し、原理的にはChrome WebブラウザのAPIを利用したWebアプリが動作するプラットフォームだ。Webアプリケーションは基本的にWebブラウザが動作する環境であればプラットフォームを選ばないため、特定のOSやデバイスには依存しない。その場合、Webアプリケーションが動作する「クラウド」の存在こそ重要であり、Chromebookはそのトレンドの移り変わりにおける試金石的な意味を持つ。

 正直なところ、現在のChromebookは従来のWindows環境に慣れたユーザーにとっては使いにくく、できることは限られている。だがChromebookが受け入れられる余地が市場にできたとき、“パーソナルコンピュータ”の世界は従来のPCが実現していた“それ”ではなくなっている可能性がある。

米国のショップでは日本上陸に先駆けて、Chromebookコーナーが用意されて販売されていることも多かった。写真は米ネバダ州ラスベガスのBest Buy店内
低価格Windowsタブレット以外では、2in1としての完成度を大きく高めた「Surface Pro 3」を投入(日本では7月に発売)。PCを開発するOEMベンダー各社に対し、Microsoftの考える新しいWindows PC/タブレットの形を示しつつ、製品単体として売れる独自の価値を追求することで、シェアを本気で取りに来ているようにも思える。左が旧Surface Pro 2、右がSurface Pro 3だ
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