インタビュー
» 2016年04月14日 10時30分 公開

これからの人類はAIとどう向き合っていくべきか――「AIの遺電子」山田胡瓜と「イヴの時間」吉浦康裕、水市恵が語る現在と未来アニメ監督×漫画家×小説家(10/10 ページ)

[瓜生聖,ITmedia]
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作品世界が現実となる日は

瓜生 さて、今後AIが発達していく未来は変えられないと思いますが……。

山田 AIって盛り上がっては上手く行かず、という冬の時代が何度もあったんです。今メディアが騒いでいるから汎用人工知能がすぐに実現すると感じる人もいると思いますが、「AIの遺電子」や「イヴの時間」のような世界に至るにはもうちょっと壁がある気がします。

吉浦 例えば、どんな壁ですか。

山田 フレーム問題とかですね。囲碁にしても閉鎖的な世界のルールに則った完全情報ゲームです。そういう限定的な世界でだけ活躍できるもの、というのは強さの違いこそあれ、以前から実現されています。でも、現実世界でリンゴを買ってきて、と言われたとき、リンゴはどういうものか、どこで買うのか、それを全部、あらゆる可能性を考慮しなければならないとなると……。

※フレーム問題:人工知能における重要な難問の一つ。有限の情報処理能力では現実に起こりうる無数の可能性に対応することができない、というもの。

吉浦 可能性を考えすぎて何も行動できなくなる。

山田 そういうのをディープラーニングですべて解決できるかといえば、それは違うのではないかと思うんですよね。

吉浦 作品を描いていて「こんなのすぐにできるわけないじゃん」て思いません? 僕もそうなんですけど(笑)。で、それが下手にエンターテインメントとして僕らの日常の隣にあるように描かれるから、意外とすぐできちゃうんじゃないかって思われてしまう面もある。


山田 囲碁で勝った、十年かかると言われていたのにGoogleが本気出したら勝った、じゃあもうすぐ、人工知能来ちゃう、という感じで世の中反応しているだけだと思うんですよね。

吉浦 家に帰って、玄関のドアを開けて、階段上がって冷蔵庫の前でドア開けて食材選んで、ってそんな簡単にできるわけないですよ。ハードウェアの問題はまったく無視していますし。情報処理能力として論じるのもそうですけど、現実にフィードバックするマニピュレータの存在は全然別としてあるわけで。だから、もしその危機感を考えるんだったら、そっちのほうもいっしょに考えると面白いでしょうね。

編集G そんな精巧なアームなんてないでしょ、って。

吉浦 しかも汎用性のあるアームなんて考えると、とても無理です。

山田 人間が無意識にやっているようなことを全部、機械にやらせようとするとディープラーニングですべて解決、ということにはなりませんよね。必要なものがたくさんあります。

吉浦 しかも事故の確率が限りなく0に近くなければ、市場に出せない。

編集G それにエネルギーの問題もありますね。人間は1日3度の食事ですごく色々なことが汎用的にできるじゃないですか。でもAIは囲碁に勝つためだけにデータセンターぶん回さなければならない。電気代いくらかかるんだ、みたいな。

吉浦 かなりかかったんですか?

編集G そうですね、かなりかかったと言われています。

※Alpha Goの運用費は2年で約29億円という試算がある。

編集G なので、本当に人間と同じような処理をAIにさせるとなると、ものすごく莫大なエネルギーが必要になるはずなのですが、これはいまだ解決されていない問題です。そう考えると人間はすごく優秀ですよね。ちょっとおやつ食べるだけでもう一働きできるわけです。

吉浦 対局中にケーキ食べるくらいですしね(笑)

瓜生 バランスを考えると人間は突出してますね。一番ではないかもしれないけれど、ちょっとしたエネルギーでいろんなことができる。

吉浦 そういう科学的な視点からアプローチして人間を再現しようとするのは、実はすさまじい“悪手”なんじゃないかと思うんです。本来の1億倍のエネルギーを使わないと再現できないような、超悪手なのではないかと。でもそれしか人間にはやる道がないから。

瓜生 モデルがそれしかないですから。

吉浦 だからバイオなのか、それとも他の何かなのかは分かりませんが、全然別のものが生み出されたときに本当の恐怖がやってくる気がするんです。結局それ、本物の人間作れるじゃん、というのが見つかったら怖いじゃないですか。

編集G そんな人間みたいなロボットが生まれたら、それが結婚して、子どもを作って、みたいなことに(笑)

吉浦 「AIの遺電子」の中でも養子の話があるじゃないですか。ヒューマノイドが人間の養子をとる場合もあるし、その逆もある。

「AIの遺電子」第4話「恋人」より。ヒューマノイドの少女は人間の恋人に養子を勧めるが……

山田 そうですね。

吉浦 あれって何か、あるんですか?

山田 どうですかねえ。秘密です(笑)

編集G ○○じゃないですか?

山田 ああ、そうです。

吉浦 ええっ!?

山田 ……あっ。

編集G えーと、では話はこの辺で(笑)

一同 (笑)


 作品世界が現実になるような日はまだまだ遠い――それが一致する見方のようだ。そして一線で活躍するクリエイターたちが、AIでも人を感動させる芸術作品を作ることができるようになる、ということをあっさりと、しかも肯定的に認めたところには少々驚きがあった。それが人類から何かを奪う恐ろしい存在なのではなく、共存できるもの、助けになるものでもあるだろう、という捉え方にはクリエイターとしての自負、自信が感じられた。

 「コンピュータがひらめく時代になったからって 人間がひらめいちゃいけないって決まりはない」――「バイナリ畑でつかまえて」第15話「人類は投了しました」で山田胡瓜先生が将棋にのめり込む男子学生に言わせた言葉だ。

 これまで「○○ができるのは人間だけ、だから、人間は素晴らしい」、そんな言葉をさしたる疑問も感じずに使っていた。しかしこの座談会を経て、「人間は○○ができる、だから、人間は素晴らしい」、それでよいのではないか。それがよいのではないか、という思いにさせられた。

 他者を否定してオンリーワンであることに存在意義を求めれば、それが揺らいだときに価値を見失う。感動を作ることができるのが人間だけではなくなっても、人間が感動を作り出せることにはなんら変わりはない。

「バイナリ畑でつかまえて」第15話「人類は投了しました」より。

「AIの遺電子」(c)山田胡瓜(週刊少年チャンピオン)、「イヴの時間」(c) Yasuhiro YOSHIURA/DIRECTIONS,Inc.、「サカサマのパテマ」製作:サカサマ会(c)Yasuhiro YOSHIURA/Sakasama Film Committee 2013、「イヴの時間 another act」/「時間商人」/「ドラゴンライズ」(c)水市 恵(小学館 ガガガ文庫)
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