吉浦 「イヴの時間」でやってることは「AIの遺電子」よりも割と王道、ベタなんです。どちらかというと見せ方をちょっと変えて、コメディタッチな芝居っぽいことに重点を置いていて、真面目にAIものを論じているようでそうではない作品なんですよ、実は。
山田 「イヴの時間」(作中に出てくる喫茶店)に行ったときだけはみんな人間として扱いましょうよ、という隠れ家的なところが個人的にすごく好みで。SFというとみんな想像するのが攻殻機動隊とか、すごくサイバーなものなんですよね。
編集G 巨悪がいて、みたいな。
山田 非日常、本当に見たことのない訳の分からない世界を見たいという欲を満たしてくれて、そこが楽しいんです。もちろん、自分たちの世界とリンクするようなメッセージもあるんですけど、やっぱり我々は公安9課ではないので、このようなアクションをするわけではない。
山田 でも、実際にSFのような世界っていうのはすぐそこまで来ているんですよね。我々の今生きている世界って、ちょっと前の人にとってはSFの世界だから、もう入っちゃてるんだぞ、と。だから、SFはもっと日常的な描写を広げてもいいんじゃないかというのがあるんです。例えば「電脳コイル」なんかもかなり日常的ですよね。
山田 そういう中で「イヴの時間」も普通の主人公で、アンドロイドがいて、アンドロイドにはまる人がちょっと白い目で見られる――割と今に近い日常というか。
編集G 日常に沿ってAIを描く作品はこれから増えそうですね。
山田 AIモノと言えば、僕、エクスマキナ見たいんですよ。
吉浦 ああ、チューリングテストとか出てくるやつですよね。
山田 Facebookの社長みたいな人が自分でAIを作ってそれをテストするから、と。そこに出てくるのが絶世の美女ロボットで。
吉浦 さすが西洋だなって思うところが美女ロボットの描き方なんですが、ボディの一部が空洞になっているんです。でもその空洞部分の曲線がね、すごく官能的で。ロボットと人間をビジュアル的に区別した上で官能性を入れ込む、あの辺がいいなって。
編集G 映画「her」のように、今後AIに恋をする人間が出てくるでしょうか。
山田 AIじゃなくったってすでにいるじゃないですか。二次元で。それはずっと昔からそうで、その強化版みたいな状況になるだけかも。
瓜生 VRもそうですね。
吉浦 PlayStation VRのサマーレッスンはガチ体験すると見るでは大違いらしくて、実際に試した人によると、ゲーム内の女の子が隣に座ったときに脳が本物の女性と判断して照れちゃうらしいんですよ。
山田 こういうところの境界もあいまいに、ごちゃごちゃしてくると思うんですよね。二次元側にいくこともできるし、二次元側をこっちに呼ぶこともできるようになってくる。
吉浦 みんな、そういう知識を前提として持っている状態から話を書けることが増えてきているわけですから、作家的にはより突っ込んで描きやすくなってきてますね。
編集G 十年前だったら訳わかんない、と言われていたものが、それを説明なしにぱっと出しても、みんな理解してくれる。
吉浦 そうそう、僕の好きな映画にパトレイバー劇場版があるのですが、レイバーに搭載された共通OSにウイルスが仕掛けられて暴走するという話、1989年当時に観た人ってすんなり理解できたのかなあって思う。今観るとみんな分かるから先見の明がすごいというか。
山田 素晴らしいですね。
吉浦 素晴らしいです。
編集G ……lainですかね、私が当時見て分からなかったのは。
吉浦 lainは今観てもちょっと分からないとこある(笑)
一同 (笑)
吉浦 逆にこの「AIの遺電子」がブラック・ジャックのころに連載されていたらどうなんでしょう。
山田 いろいろと前提条件の説明が必要になるでしょうね。
吉浦 人間の姿をした人間以外のもの、それじゃ感情移入できないよ、とか言われちゃうんですかね。
瓜生 アンドロイド、ロボット、AIというグラデーション、それがまず理解されないでしょうね。
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