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» 2016年06月21日 18時36分 公開

アップルPickUp!:Apple Union Squareが示す未来の直営店 (2/2)

[らいら,ITmedia]
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「買わなくてもOK」ストアの概念を超えたコミュニティデザイン

 ビデオウォールのあるエリアは「フォーラム」と呼ばれ、主にワークショップなどのイベントを行うスペースとして使われる。新しい”Today at Apple”のセッションでは、ライブアート、フォトウォーク、クリエイティブセッション、音楽ライブなどが行われるが、そのときに活躍するのがこのビデオウォールだ。

ビデオウォールのある「フォーラム」

 技術的な仕組みは未公開だが、私たちがAirPlayでApple TVに画面を映し出すのと同じように、ビデオウォールで画面をシェアするといった使い方ができるという。例えば、アーティストのライブアートイベントで、iPad ProとApple Pencilで描く作品がリアルタイムにビデオウォールに映し出される。iPadの使い方を学ぶワークショップで、参加者がiPadで描いた絵をビデオウォールに映し出し成果物を発表する……といった用途だ。

 今後建設されるApple Store旗艦店にはビデオウォールが取り付けられるそうなので、いつか日本でもお目にかかる機会があるかもしれない。

ビデオウォールの前には自由に持ち運びできるイスがあり、セッションによってさまざまな並びに変えられる

 フォーラムにはテーブル席が用意されているが、よく見ると明らかにワークショップと関係なく作業をしている人がいる。実はユニオンスクエア店は、買い物やイベントの用事がなくとも、自由にテーブルを使うことができるという。フリーの無線LAN環境を完備しているので、ちょっとしたコワーキングスペース代わりにもなる。フォーラムは屋外のプラザと同じく、誰もが利用できるコミュニティスペースとしての役割も兼ねているようだ。

 個人的に興味深かったのが、法人向けサービスである「ボードルーム」という仕組みだ。スタートアップや小規模企業向けに、Appleのビジネスチームがアドバイスや研修の機会を用意する。近年日本の自治体でも、小規模事業主を対象にコンサルタントを行う支援活動が活発だが、IT企業が自前のストアでやるあたりがシリコンバレー企業らしい。

 このようにApple Union Squareは、製品とそのサポートを提供するだけの場ではない。地元で暮らす住民のために、教育や学術、文化を学ぶ場所を提供し、住民が集う憩いの場としての役割も担う。新Apple Storeのコンセプトは、お店というより、コミュニティセンター=公民館のそれに近い。

1階:おなじみの光景に隠れた環境保護への工夫

 とはいえ、当然のことながら製品も販売している。フロアの左右に配置された階段で、1階の「アベニュー」に降りてみよう。

左右に設置されたガラスの階段

 階段の手すりは5層の薄いガラスでできており、継ぎ目なく形が加工されている。ストアに使われているデザインの中で、最も技術的に実現が難しかったそうだ。

 芸術品にも思える(しかしアップルストア表参道と同じく、スカートで歩くにはやや気が引ける)ガラスの階段を降りると、おなじみの光景が広がる。製品が置かれた木製の長テーブルと付属品にはシュペッサートオーク製が採用された。

ストア1階のアベニュー

 奥にはアクセサリが等間隔に美しく並べられており、同じ壁に地元アーティストによるアート作品も展示されている。商品ラインアップは基本的に3カ月ごとに更新され、クリスマスなどのイベントごとに内容も変わるという。

正面の巨大ガラスは、おもて面が4層、裏面が3層の薄いガラスでできている

 ところで、これだけサンサンと太陽の光が降り注いでいると、日差しによるインテリアの日焼けが気になってくるところだ。しかし日当たりも完璧に計算されており、入り口より屋内に直射日光が入らないよう綿密に設計されているという。確かにこれだけ明るく自然光が差し込みながらも、眩しいと感じることは一度もなかった。

直射日光が入り口でストップしている。ストアには午前中と午後の2度訪問する機会があったが、どちらも日差しがキツいと感じることはなかった

 日本でもこの開放的な空間を体験したいものだが、カラッとした晴れ間が多く雨天が少ないカリフォルニアの気候だからこそ実現した設計であり、日本での採用は難しいらしい。先日アップルストア札幌が移転のためクローズしたが、春夏秋冬をうまく生かした日本ならではの建築デザインを見てみたいところだ。

 このようにすべてのデザインにこだわりぬいた新Apple Storeだが、設計の延長線上にはすべて環境保護への配慮がある。巨大なガラスドアは、照明や空調による無駄な電気使用量を減らす。床の大理石は明るく光を反射するだけでなく、床暖房のようなシステムで温度調節の役割も果たす。消費電力は屋上にある太陽光発電パネルなどの再生可能エネルギーによって100%まかなわれる。

 写真を撮影しそこねてしまったが、ショップバッグも環境保護のため再生紙で作られた紙製のものになっていた。日本のストアではまだビニール製のリュック型バッグが使われているが、近い将来再生紙100%のバッグが採用されるかもしれない。

環境に対する取り組み

 Appleは毎年、地球環境について考える「アースデイ」に合わせ、環境保護への自社の取り組みを紹介している。活動報告書(PDFファイル)を見ると、シンガポールの800以上の屋上にソーラーパネルを設置して、国内にあるAppleのオフィスや共有データセンターの一部の電力供給をまかなったり、iPhoneを適切に分解し部品を簡単に回収できるロボット「Liam」を発明したりするなど、日々環境保全に力を入れていることが分かる。3月のスペシャルイベントでも、iPhone SEやiPad Proの発表とともにこれらの活動を取り上げていたので、覚えている人も多いだろう。

 新しいApple Union Squareも、その環境保護活動の一環にすぎない。最先端の“環境にやさしい”技術がふんだんに取り込まれながらも、それは押し付けがましくなく、こだわりぬいたミニマルデザインに溶け込み、心地よい空間を演出している。建築や環境デザインに興味がある人は、一度訪れてみることをおすすめする。

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