サーバやデータセンターの世界でARMが過去数年で存在感を示せなかったのは、必要なパフォーマンスやメリットを提供できなかっただけでなく、それを支えるエコシステムパートナーの未熟さにあった。
従って、今回Centriq 2400がうまく立ち上がるかはパートナーに大きく依存している。Centriq 2400は最初のプレビューが行われた2016年末の時点で既に一部パートナーでの稼働が開始されており、テスト環境ではなく、実際のワークロードで1年近くにわたって運用が続けられてきたとQualcommは説明している。その代表格がMicrosoftだ。
例えば、Microsoftは過去数年にわたってFPGAを利用したデータセンター向け高性能システム「Project Catapult」の研究開発を続けており、それをベースに構築したディープラーニング高速化システム「Project BrainWave」を発表している。こうしたアーキテクチャ非依存型のソリューションはCentriq 2400を適用しやすい候補の1つだ。
一方でローンチイベントに登壇した米MicrosoftのAzure担当ディスティンギッシュトエンジニア(Distinguished Engineer)であるレーンデルト・バンドーン氏によれば、Azureデータセンターにおける「ストレージ」と「検索」で、Centriq 2400はその効果を発揮しているという。
ストレージはHDDからSSDまでさまざまなスループットの異なるI/Oがネットワークにぶら下がっているが、これらを集中管理してパフォーマンスの最適化を実現するのに効果を上げていると同氏は説明する。
また、検索では「インメモリ処理」と呼ばれる広大なメモリ空間上での各種高レスポンスな処理が有効で、Centriq 2400のアーキテクチャはこれにも有効だという。いずれにせよ、スループットや実装密度の面で有利だという分析だ。
これは米Cloudflareのマシュー・プリンスCEOも同様の指摘を行っており、実装密度での優位性により、最終的に1つのCentriq SoCで2ソケットのXeon Silver(Skylake)システムを置き換え可能だという。
この他、ローンチイベントではOpen 19のプラットフォームにCentriq 2400を実装したシステムの紹介や、HPEがRed Hatと共同でCentriq 2400を使ったEnterprise Linuxのプロモーションが行われた。Windows ServerやLinuxだけでなく、各種言語やコンパイラ、インフラ技術、データベースなどがARMへの対応を進めており、環境は次第に整いつつある状況だ。
今回、需要や適正を判断してCentriq 2400という複数のSKUからなる単一の製品ラインでの市場投入となったが、チャンドラシーカ氏によれば「これはあくまでスタート地点」。今後需要を見て製品ラインや適用範囲をさらに拡大させていくとしている。
また、既に次のコアと製品ラインの開発もスタートしており、「Saphira Core」を搭載した「Qualcomm Firetail」という次期製品の存在が発表された。「Saphira」は「Eragon」というSF小説に登場する雌ドラゴンの名称だが、モバイルやIoT向けの「Snapdragon」から始まり、どうやらQualcommはプロセッサ製品に架空のドラゴンキャラクターの名称を与えるのが好きなようだ。
まずは、今後2020年にデータセンターのトレンド転換が起こるそのタイミングまで、最初のドラゴンであるCentriq 2400がどこまで活躍できるのかを注視していきたい。
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