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» 2017年11月22日 06時00分 公開

鈴木淳也の「Windowsフロントライン」:LinuxからWindowsに完全移行を決めたミュンヘンのその後 (2/2)

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]
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Windows派、オープンソース派、それぞれの主張

 過去10年以上にわたるLiMux利用での問題は、以前のレポートでも紹介したように「ソフトウェア更新や管理の問題」が大きく、適切なタイミングで適切なアップデートが適用されないという課題があった。

 また外部とのやりとりや標準的なアプリケーション(SAPなど)との連携における互換性問題が存在し、これが生産性を落とす原因にもなっていたという。実際のところ、この話も移行推進派と反対派とで意見が真っ向から対立しており、多分に政治的意図が含まれている様子が伺える。

 もともと、市のオープンソース戦略を推進していたのは現市長のライター氏の前任であるクリスティアン・ウーデ氏の意向が大きかった。同氏はライター氏と同じSPDの所属だが、1993年から2014年までの20年以上にわたる市長職の期間でプロジェクトを指揮してきた。

 もともとの「WindowsからLinuxへの移行プロジェクト」は同市がWindows NTを利用していた時代に計画されていたもので、時期的には2000年前後ということになる。その意図は「WindowsやMicrosoft(など特定ベンダー)への依存」を減らすことにあり、これがコストや柔軟性の面で優位に働くという考えからきている。

 一方でSPDと連立を組む以前の多数勢力であるCSUはこの戦略に一貫して反対しており、これに同調するSPDのライター氏が新市長となったことでWindows派が一気に優勢となった。この対抗勢力が緑の党などの第三勢力の他、市のIT部門、オープンソース団体という構図になる。

Munich ミュンヘンの街並み

 Windows派が主張するのは、互換性問題と「業界標準からの乖離(かいり)」だ。まず、ミュンヘン市の外部との連携において、独自のシステムを採用する同市では互換性問題が存在していることを挙げている。

 またWindowsが実質的な業界標準としてビジネス市場に君臨していることで、全てを自身で開発して検証しなければならないミュンヘン市では「(LiMuxを導入した)過去10〜15年間で業界標準から大きく後れを取ってしまった」という。

 公共機関向けのアプリケーションパッケージはほぼ全てWindows向けに開発されていることもあり、こうした業界標準からの乖離や対応のための追加負担が重荷になっているというのが、移行における同派のモチベーションになっている。

 一方、同市のIT部門やオープンソース団体では、そのような互換性問題は存在していないと主張しており、特にOpenOffice.orgからLibreOfficeへの移行が完了して以降は諸問題は既に解決済みという認識だ。

 そのため、今回は「LiMuxからWindowsへの移行を納得させる十分な技術的理由がない」ということで、政治的判断が大きいことをほのめかしている。ロス氏は「Windowsへの移行は教育コストを含め、職員や市民に多大なる悪影響を今後数年間にわたってもたらす可能性があり、構成としてはWindowsとLiMuxの混成が望ましい」と述べている。

 この計画がどの程度の影響を与え、実際に効果をもたらすのかを2018年以降にスタートする予備作業を注視していくことで見極め、投資が無駄にならないかを追求していく構えだ。むしろ、関係者らのコメントを総合する限り、今回の移行判断が誤りであることを結果をもって知らしめることを望んでいるようにさえ思える。

 1つ興味深いのは、ロス氏も指摘しているように現状のミュンヘン市のシステムが「LiMuxオンリー」ではなく「WindowsとLiMuxの混成」という点にある。TechRepublicでは「LiMuxマシンが2万台に対してWindowマシンは4136台」、The Registerでは「全体の40%がWindowsマシン」という風に表記されている数字の違いこそあるものの、かなりの台数のWindowsマシンがミュンヘン市で既に稼働している。

 今回の計画はこのLiMuxマシンを含めて全てWindows 10へと置き換え、生産性アプリケーションをOffice 2016で統一するというものだ。2020年以降のロールアウトのため、サポートサイクルを考えれば展開完了時点で既に“先が見えている”という状態ではあるものの、管理面では恐らく比較的負担が軽減されるだろう。

 現状でWindowsマシンが存在している理由は「互換性のないソフトウェアを動作させるため」とあり、LiMuxオンリーでは既に業務が成り立たない理由の一端となっている。移行反対派が難色を示す「既存資産の移行」のハードルさえ越えれば、こうした混成環境を維持する理由もなくなるとみられ、2020年の移行開始までの中間報告で状況があらためて明らかにされるだろう。

ミュンヘンが陥ったイノベーションからの隔絶

 筆者の見解だが、LiMuxプロジェクトの諸問題は「イノベーションからの隔絶」という1つの理由で説明できると考えている。ベンダー非依存という理由からスタートした野心的なLiMuxプロジェクトだが、これが結果としてイノベーションを停滞させ、互換性維持のために独自拡張を繰り返したことで、かえって保守性や利便性を低下させる結果につながっているのではないだろうか。

 Windowsは多くの顧客に利用されることでノウハウが蓄積されて製品の改良も進み、1つの巨大なエコシステムを作り上げている。一方でLiMuxはムーブメントがミュンヘン市の外へと大きく広がることがなく、こうしたプラスのサイクルを生み出すことができなかった。

 これはLinuxやオープンソースがWindowsに劣っているという話ではなく、ミュンヘン市の試みが周囲を巻き込んだ大きな“うねり”となれなかった、ただそれだけなのではないかと考えている。

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