フェイクニュースにデータ不正利用――悩み多きFacebookとザッカーバーグCEOの2018年ITはみ出しコラム(1/2 ページ)

» 2018年11月25日 06時00分 公開
[佐藤由紀子ITmedia]

 米Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOは、毎年年頭に「今年の個人目標」を立てて、感謝祭(2018年は11月22日)前後に達成度を公表しています。過去には「中国語をマスターする」「自分で食べる動物は自分の手で殺す」「1カ月に2冊本を読む」「自宅用のAI執事をプログラミングする」「全米の人々との会話」などの目標を掲げてきました。

Zuckerberg ザッカーバーグCEOが感謝祭に投稿した家族団らんの図

Facebookのさまざまな問題を改善するはずが……

 今年、2018年の目標は「Facebookのさまざまな問題の改善」。個人の目標を会社の課題解決としました。その達成度について、何回かに分けて投稿するそうです。

 でも今年は、Facebookの問題が次々と明るみに出て、改善が追い付かない状態でした。きっかけは2016年の米大統領選。大方の予想に反してドナルド・トランプ候補(当時)が当選したのは、「Facebook上で拡散されたフェイクニュースのせいだ」という批判が高まりました。

 大統領が決まった直後には、フェイクニュースが拡散してしまったことは認めながらも、そのせいで人が投票先を決めると考えるのは「非常にクレイジーだと思う」とザッカーバーグさんは言いました

 クレイジーだと言ったことについては後で謝罪しましたが、本気で「そのくらいのことで影響を受けるほど人間はばかじゃない」と思っていたのではないでしょうか。

 これについては数値で証明できることではないので、私もいまだにどのくらいの影響があったのか分かりません。ただ、ロシアが偽アカウントをたくさん作って米国人のふりをしてフェイクニュースで米国民の分断を図っていたことは明らかになっています。ロシアはこれで影響を与えられると考えていたのでしょう。

 Facebookはこの1年、こうした外国政府からの介入を許さないための対策を逐一報告してきました。でも、対策の報告を上回るように、CAスキャンダル(2016年の米大統領選でトランプ陣営に協力したデータ解析企業が、Facebookの約8700万人の個人情報を不正利用)や、ミャンマー問題(ヘイトスピーチや不正確な情報の拡散を防ぐためとして、ミャンマーの複数の軍上層部アカウントや軍関連ページを削除)も浮上しました。

自らもコンサル企業を雇ってフェイクニュース拡散?

 そして、11月14日に米New York Timesが投下した社内暴露記事で、Facebookのイメージ(と株価)はまた大きくダウンしました。この記事は、Facebookが2016年の米大統領選に与えた影響について、いつ気付き、どう対処したのかを中心に、同社の過去2年間の動向を、従業員や元従業員、関連企業などのへのインタビューや調査に基づいてまとめたものです。

 読んで衝撃を受けるのは、Facebookは結構早い時期にロシアがサービスに介入していたことを知っていたのに、すぐに対策しなかったという情報と、Facebook自身もコンサル企業を雇って競合他社や批評家のネガティブな情報を投稿、つまりフェイクニュースを拡散していたという情報です。

 すぐに対策しなかったことについては、記事が出る前からザッカーバーグ氏もシェリル・サンドバーグCOO(最高執行責任者)も謝罪していますが、コンサル企業を雇ってのフェイクニュース拡散はこの記事が初耳(目)です。

 「大統領選の結果はFacebookのせいだ」という批判が高まった2017年に、Facebookの問題から世間の目をそらす目的で、Definers Public Affairsというコンサル企業と契約。この会社がFacebookの依頼を受けて、Facebookに批判的な個人や団体についてのフェイクニュースを流していたというのです。

 この記事に対しては、ザッカーバーグ氏が記事掲載の翌日に(目標達成度報告の中で)反論しています。Definersについては、「フェイクニュースを流したというのとは違う。Definersに頼んだのはPR企業としてのメディア対応だ」と説明しています。

 同日、サンドバーグさんも「私、Definersなんて会社をFacebookが雇ったことすら知らなかった。知っていなくちゃいけなかったけど」と釈明しています。

 さらに、同社で約10年広報および公共活動担当副社長を務めてきたエリオット・シュレージ氏が「Definersについては全部自分の責任だ。マークもシェリルも知らなかったことだ」という全社宛書簡(11月21日に公開)を書きました。

 シュレージ氏は、Definersに依頼したのは、「PR企業がクライアントのイメージアップのためにやっていることをやってね」ということで、そのためにDefinersがやってたことについては「正直全部は把握してなかった」としています。

 でも、ワシントンD.C.の近く(バージニア州アーリントン)に拠点を置くPR会社は、通常クライアントの政治家のために敵対候補のネガティブキャンペーンを張ったりしていることは、(多分)小学生でも知っているのではないでしょうか。

Zuckerberg Definers Public Affairsのサイトにはアメリカ合衆国議会議事堂の画像が

 Facebookは、New York Timesの記事が出た日にDefinersとの契約を解除しました。シュレージ氏はこれについて、「記事を読んで初めてDefinersのことを知ったマークから説明を求められ、説明した結果、Facebookのミッションに合わないから契約解除してくれと言われた」としています。

 シュレージさんは6月に退社することを決めている人です。この人はGoogleでも8年広報担当として活躍し、その腕を見込まれてFacebookに招かれました。全てを自分の責任だとしてFacebookを去っても、これからいくらでも活躍できそうです。

 Definersも別に悪いことをしていたわけではありません。政治家向けのPR企業として当たり前のことをしただけなのでしょう。

 ザッカーバーグ氏とサンドバーグ氏も、経営トップとして「知らなかった」で済むとは思えませんが、これで少なくとも自ら邪悪なことをしたワケではないとは言い張れます。「これからは気を付けます」で後は結果を出していけば、この危機は乗り越えられるかもしれません。

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