HoloLens 2から見るMicrosoftの「AR・VR戦略」西田宗千佳の「世界を変えるVRビジネス」(3/3 ページ)

» 2019年03月19日 06時00分 公開
[ITmedia]
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クラウド側に技あり、Microsoftは環境整備に本気

 そして、今回の発表にはハードウェア以上に重要な施策も発表された。それは、MicrosoftのクラウドであるAzureのサービスとして、「Spatial Anchors」と「Azure Remote Rendering」を発表したことだ。

 Spatial Anchorsは日本語に訳せば「空間アンカー」。具体的には、HoloLensが把握する「周囲の空間の情報」と「そこに置かれたオブジェクトの情報」のことを指す。

キップマン氏の後ろに映っているのは、HoloLens 2で取得した「空間マップ」。目の前の空間の立体構造をデータ化、Azure経由で処理して、iPhoneやAndroidでも活用できる

 HoloLensを含め、ARで比較的複雑な空間を扱う機器は、周囲の空間の情報を収集した「Spatial Map」(空間マップ)を収集し、合成に利用する。ただし、データの形態や扱いはプラットフォームごとにまちまち。最初から「複数の機器で同じ場所を見ながら、同じようにAR空間を共有する」つもりでソフトを作らないと、「自分が見ているARを他人も一緒に見る」ことはできない。

 そこで今回、Microsoftが用意したのがSpatial Anchorsだ。Spatial Anchorsでは、HoloLens 2やAzure Kinectから得た空間マップがAzure上で処理され、「より汎用(はんよう)的な空間マップ」になり、他のプラットフォームからでも活用できるようになる。例えば、iOSのARKitやAndroidのARCoreから使えるようになるのだ。

 結果として、この機能を使うとHoloLens 2を持っていない人でも、スマホやタブレットからHoloLens 2で見ている空間をシェアして作業することが可能になる。HoloLens 2はまだ高価な機械なので、社員全員に用意するのは難しい。ARを使った作業に一時的に参加する人はスマホやタブレットを使う、というソリューションの存在は、機器導入のハードルを下げる。これは、多数の人々で作業を進める上では非常に重要なことだ。

 もう1つの技術であるAzure Remote Renderingは「ハイクオリティーなデータを性能の低いデバイスでも表示する」ための仕組みだ。

 スマートフォンやHoloLens 2は、最新のゲーミングPCやグラフィックワークステーションほどの性能がない。だが工業利用の場合、デザインの現場では圧倒的にディテールの細かい形で製作していて、HoloLensやスマホと連携するなら、そのデータを持ち込む必要がある。

 だが現実には、とても機器の性能では表示できないデータであるため、小さく間引いたり、作り直したりする必要があった。ここへの対応は、導入企業にとって日常的な問題だ。

 Azure Remote Renderingでは、精密なデータをそのままAzure側でレンダリング処理し、スマホやHoloLens 2へとストリーミング形式で渡す。結果として、表示品質も損なわないし、データの作り直しなどの手間も減る。

左がスマホでも表示可能な低ポリゴン数の、右が本当に作成中だった高ポリゴン数の元データ。Remote Renderingにより、スマホ向けにデータを小さくしなくても、高ポリゴン数のまま扱える

 これら2つの要素は発表されたばかりで、実際の可用性については検証が必要だ。だが、こうした基盤がVRやARを実用的に使う上では必須であり、Microsoftはそれをきちんと理解している、ということは間違いない。

 Microsoftにとって「HoloLens 2でのビジネスを本格化する」とは、HoloLens 2を売ること以上に、「ARやVRをビジネスにするために必要なクラウド基盤で先んじる」ことなのだ。

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