新型Mac Proと言えば、ネットではその外観を“チーズおろし”などと比較する人が多い(人間は50歳くらいを超えると理性を司る「前頭葉」の活動が衰え始め、連想したことを口に出す行動に歯止めが効かなくなり、これがオヤジギャグの原因の1つといわれている。同じ原理だと筆者は推察している)。
だが、これまでのほぼ全てのApple製品がそうであったように、あの外観にも当然、理由はある。
これまでのハイエンドデスクトップ製品がそうであったように、ボディーデザインにおいて最も重視しているのは、内部機構に簡単にアクセスして本体を拡張できるようにすること、そしてもう1つは本体内で起こる気流を計算して最も冷却効果が上げる設計にすることだ。
正面に開いた直径2〜3cmほどの158個のくぼみは、まさにその冷却効果とユニークな構造の本体に剛性を与えるための工夫となっている。
小さな写真でMac Proを見た人は正面に平面的な穴(パンチングホール)が空いていると思っているかもしれないが、よく見ると実は違う。前面パネルはかなりの厚みを持っており、そのアルミがところどころ直径2〜3cmほどの半球の形に削り出されているのだ。どうやらこの半球型の削り出しは、少し位置をずらしてアルミパネルの背面からも行われているようで、これが1つ1つのくぼみに1〜3個の穴が開くというユニークな外観をもたらしている。
実はこの穴の向こう側には、さらに無数のパンチングホールが開いた黒い金属メッシュ板があるが、それぞれがヒートシンクの役割を果たして空気を冷やしたり、流れの向きをコントロールしたり、内部の動作音をやわらげたりといった効果を狙っているのだと筆者は推察している。
その後の取材で、新Mac ProのフレームとなるU字型のパイプは「Space Fame」、正面のくぼみのパターンは「Lattice Pattern(ラティスパターン)」と呼ばれていること、キャスターを追加する際は、下のスタンドをスクリューで外して取り付けること、ラックマウントで使用する場合は、最初からそのようにオーダーするとラックマウント専用のケーシングで送られてくることなどが分かった。
ところでTwitterなどでは、正面にたくさんの穴が開いた外観ということで、この製品のデザインを「Power Mac G5のようだ」と語っている人を多く見かけた。Power Mac G5は2003年に登場した正面がメッシュ構造になったアルミボディーのデスクトップマシンで、直方体の4隅に本体をつかむためのグリップのような構造があるのが特徴だ。
拡張性と冷却性を重視したために、確かに大雑把にみれば形が似ているように見えなくもないが、実際の製品構造はむしろ前モデルのMac Proによく似ていると筆者は思っている。
Power Mac G5(や同じボディーを使っていた頃のMac Pro)は、他の多くのデスクトップPCと同じように、ボディーと呼ばれる箱をつくって、その中に基板を設置して作る構造だ。Power Mac G5では、その直方体の箱の側面カバーを取り外せるようにして内部へのアクセスを工夫していた。
これに対して新Mac Proでは、ひっくり返したU字型の金属パイプ2本を用意し、そこに底面と天板の2つの板を通し、その上にモジュール化されたプロセッサや拡張スロットなどコンピューターにおける内臓のような内部構造をはめ込む、その上で上からアルミのカバーを被せる、といった構造になっている。
つまり、内部にアクセスするには本体の上についたダイアルを回してロックを外してからカバーを上に引き抜く、という構造になっている。
性能を追求した内部構造も、その性能を支えるための外観デザインも、これまでにない全く新しいアプローチで臨んだ新Mac Proは、この秋に登場するが、クリエイターではない筆者は、本製品が使われるようになり、映像、音楽、そしてARなどの表現における試行錯誤が容易になることで、どんな新時代の作品が産み落とされることになるかを楽しみに待ちたいと思う。
なお、新Mac Pro本体の見た目をリアルに体験したい人は、Mac Proの公式WebサイトにiPhoneやiPadなどでアクセスすると、ARデータが用意されており、自分の部屋にMac Proを置いた際の見た目などを確認できるので試してほしい(Twitterでは筆者が始めた「#MacProAR写真コンペ」というハッシュタグで、さまざまな写真が投稿されている)。
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