低音を意識した選曲ばかりしているうちに、実はHomePodは低音寄りに調整されたスピーカーなんじゃないかと疑問が浮かび、高音よりの曲や生音っぽい曲も再生してみたが、そんなことはなかった。
さらにApple Musicにいくつかある川のせせらぎや鳥の歌声、海の音を採録した音源も聴いてみたが、こちらもきわめてナチュラルに聞こえた。
ナチュラルといえば、2台のHomePodを連携させてステレオで使ったときの音も非常にナチュラルだった。
HomePodは、単体でも十分に音楽を楽しめる製品だ。部屋の壁近くに置いて電源を入れ、iPhoneを近づければiPhoneに設定用画面が現れ、Wi-Fi接続設定などほぼ全ての作業が全自動で完了する。
最初の曲を再生開始して40秒ほどの間に、360度全方向に配置された6つのマイクを駆使して、部屋の中での音の響き方などを計算し、音が一番自然に広がるように音質を調整してくれる。スピーカー1個でも、再生している音は部屋全体に自然に広がっていく感じで十分に楽しめる。
しかし、HomePodを2台購入してこれを連携させると、今度はその音に部屋全体が包まれるような広がりを感じるようになる。
スピーカー2台というと、どうしても左右のセパレーション(音の分離)がどうとかこうといった難しい話が出てくるのが、それは昔のオーディオ機器の世界。そうしたステレオスピーカーにはスイートスポットというものがあり、そこにいると確かに一番いい音の重心に引き込まれるようなスポっとハマるような感覚があった。
しかし、2台のHomePodが作り出す音は、それとは少し違って(部屋の大きさなどによって変わるだろうが)、少なくとも8畳〜10畳くらいの左右の壁が近い部屋だと、もう少し周りから包み込んでくる感じになり、スイートスポットがなく、どこにいてもいい感じに聞こえる。
左右の分離はそれほどしっかりしていないため、左のヘッドフォンと右のヘッドフォンの間を、音が激しく動き回るような曲は、両HomePodの間を音が行ったり来たりしているようなイメージになる。
先ほど、HomePodに近づきすぎると重低音が胸に響かないという話を書いたが、HomePodを2台設置すると、片方に近づいている間は、もう片方のHomePodを通してその重低音が響いてくるので、本当に部屋中どこでもいい感じで音が聞こえる、と言っていいのではないだろうか。
その後、この2台構成のHomePodをApple TVがあるリビングのTV脇に配置してみた。
Apple TVの設定画面からオーディオの出力先にHomePodのペアを選択、「ミュージック」機能から曲を選んで再生をしてみたり、BGMの良い映画も見てみたりしたが、これまたいい感じだ。5.1チャンネルのサラウンドサウンドのような、どこから音がしているか分かるような立体音響にはならないが、それでも十分な音の迫力と明瞭さがある。
リビングルームで音楽を楽しみたい人には、昔ながらのTV横に2台のHomePodを設置するのはなかなかいい配置ではないかと思ったのだが、1つ欠点があった。
一度、iPhoneなど他の機器から音楽を再生してしまうとApple TVとHomePodの接続が切れ、再び設定画面から指定し直さないといけないのだ。ここはぜひアップルに仕様を変更してもらいたいところだ。iPhoneやiPadのように簡単に出力先の切り替えができないApple TVでは、HomePodが近くにあるときは、一度接続が切れても再接続を試みる設定を加えてもらいたい。
「やり過ぎ」や機能の「つけ過ぎ」を避け、親しみやすさや分かりやすさを大事にし、その一方で、製品の本分(つまり音楽の再生)でも、製品の外観でも「質」には徹底的にこだわったHomePodは、非常にアップルらしい製品だと思う。
この曲はもう少し低音を響かせて聞きたい、この曲はもうちょっとボーカルを聞かせたいとイコライザーなどをいじりまくってきた経験は筆者にもある。しかし、そうした音楽の聴き方をやっていると、だんだん音楽そのものを楽しむことよりも、音いじりの方に忙しくなって本質(音楽を純粋に楽しむ)を忘れていってしまったり、ふと、「あれ、本当はどういう音で聞くのがいいのだろう」と迷ってしまったりすることがある。
それよりは素直に再生ボタンを押せば、いつでもベストな品質で音楽を楽しめた方がいい、という大人は少なくない気がする。
HomePodは、その音の質や部屋に音楽を漂わせるように広げる音の再現姿勢や、充足感を得られるスピーカーだ。まずはあなたのお気に入りの音源を持って、どこかでそのサウンドをHomePodで一度は体感してもらいたいと思う。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.