PC版を使う場合、特別にハードウェアスペックが高いPCを用意する必要はない。一般的なノートPC程度の能力でも十分だ。そういう意味でも、機器を用意するハードルは非常に低くなる。
やはりWASDキー+マウスや平面のディスプレイでは、VRに比べて動きが制限されるのは間違いない。だが、それでも、桜花広場自体が仮想空間の中ではあるので、ビデオよりも、ある部分でリッチな表現が可能だ。
「例えば、首を上下に振る時はカーソルキーの上下を順番に打てばいいし、マウスのクリックで各自レーザーポインターが出せるのも大きいかもしれません。そうすることで、話しながら意思が示せます。また、話している人の位置に合わせて音を定位させているので、ステレオ環境なら『どちらにいる人が話しているのか』が分かるのも大きいです」(桜花氏)
桜花広場にはVR機器向け/PC向けの他にも、Android向けの各バージョンを用意しているのだが、これにも理由がある。
Android版の場合、スマホを持って移動することができる。そして、カメラも使える。
「工事現場などでのニーズを考えてのものです。現場の写真を見ながらやりたい打ち合わせもあると思うんです。その場合、Android版だと必要な人がその場から写真を撮ってアップすれば、会議をしている全員で検討できます」
PC版はAndroid版をベースに作られており、その関係でPC版の桜花広場は高性能なPCを必要としないという事情もある。
もう1つ、PC版の良さとして桜花氏が推すのが「ながら利用」だ。HMDをかぶってしまうと、現状は他のことを平行でやるのが難しい。しかし、PC版ならウィンドウの1つに過ぎないので、別の作業をしながら会議に参加できる。
これは個人的に感じたことだが、ビデオ会議と違って「自分の姿そのものが常に見えているわけではない」ため、会議に意識を100%集中していなくていいのは、ある意味メリットではないかと思う。もちろん、会議には真剣に参加すべきなのだが、「今回、自分はほぼ聞き役」ということもある。急ぎのメールなどが来ることもあるだろう。実際の会議で「内職」をしたことは誰にだってあるはずだ。
とはいえ、参加者全員がPC版でいいと判断しているわけでもない。説明者とそれを聴く人では環境が違ってもいいのではないか、と桜花氏は言う。
「やはり、登壇者や説明者は、自由に首の方向を変えたり、自分がいる位置を変えたりできた方がいいとは思うんです。それゆえ登壇者だけはHMDで、それ以外はPCでという形でもいいかと思っています。例えば今、企業向け案件の中で『3D CADのデータを出して操作したい』という話があります。その場合には、3D CADのデータを操作する人はHMDをかぶり、他の人はPCで、という形もあり得ると思うんです」(桜花氏)
桜花氏は友人や知人などと、PC版を使って何度かミーティングや宴会、カンファレンスに近いことなどを行っている。その過程で、「必要に応じてVR版とPC版を使い分けることによって、ハードルを下げることがプラス」と判断された。だからこそのPC版という見方だ。
すなわち、「空間を共有する」「データ/情報を一緒に見る」「ビデオのように自分が占有されない」などが、「仮想空間を使うがHMD必須とはしない」メリットということになるのだ。
現状で桜花氏が狙うのは、どの規模のミーティングなのだろうか?
「カンファレンス的に、1人が数百人に話すというパターンは他のサービスに任せておこうと思っています。むしろ、4〜5人の会議をパパッとすることに特化します」
現状、桜花広場はβ版であり、「新しもの好きの人が試している」(桜花氏)段階だ。だが、ビデオ会議だけでなく、こうしたパターンの可能性も検討すべきではないかと思う。おそらく今後、カンファレンス的なものから順に、「仮想空間でのコミュニケーション」をウリにするサービスも増えているのではないだろうか。
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