会議や商談で出張、というのは珍しいことではない。その時にお世話になるのが、いわゆる公共交通機関だ。移動距離が長ければ、航空会社を使うことになる。
そんな航空会社の1つが、全日本空輸ことANA。筆者も出張で日常的にお世話になっている。
そんなANAが、10月15日から18日に千葉市の幕張メッセで開催された「CEATEC 2019」に大きなブースを構えていた。航空会社なのだから飛行機関連……かと思うと、そうではない。飛行機関連は一切ない。そこにあったのは、ロボットやPC、タブレットばかりだ。同社は、VRなどの技術を使った「テレイグジスタンス(遠隔臨場感)」関連技術を、「アバター」という切り口で展示したのである。
航空会社が「移動しない」サービスを出展した裏には、どのような発想があったのだろうか?
2019年のCEATEC会場でも、ANAブースはひときわ目立つ存在だった。大量のロボットを展示し、動かしていたからだ。ANAはCEATECには初出展なのだが、なかなか派手なアピールだ。
まず目に入ったのは、「newme」と名付けられた、タブレットが付いた柱のようなロボットだ。実は会期中、このロボットはCEATEC会場のあちこちを移動しており、けっこう頻繁に見かけられた。
newmeは、移動する能力を持ったビデオチャット端末のようなものだ。10.1型のタブレットが顔のように付いており、そこにカメラもある。newmeに接続している人の顔がタブレットの画面に表示される。newme自身はタブレットから遠隔操作できて、自由に動き回れる。どんな風に使われるのかは、以下のPVを見ていただいた方が分かりやすいかもしれない。
ANAが展示したのはこれだけではない。例えば、こちらは「技術支援ロボット」だ。二人羽織のようにロボットを背負い、それを遠隔地からVRヘッドセットとハンドコントローラーを使って操作する。熟練者の動きや視線を相手に伝え、ノウハウの伝承に生かすことを狙っている。この開発は、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)が行った。
クッキング用の遠隔操作ロボットも展示した。こちらでは、人と握手をすることもできる。
釣りの体験も可能だ。遠隔地に実際に釣りロボットを置き、その操作と「釣りの感触」を体感できた。
そして、「未来の姿」として展示されたのが二足歩行ロボットだ。これは米Agility Roboticsが開発中のものなのだが、山道を人間と同じように歩ける。実は日本で見られるだけで貴重なものだ。今は「決まったところを歩く」ものなのだが、将来的にはこれを遠隔操作し、自分がそこに行って歩いているかのような感覚の実現を目標としている。
実はここまでざっくりと「ANAブース」といって来たが、これは実は正確ではない。出展は、ANAグループの持ち株会社である「ANAホールディングス(ANAHD)」の名前で行われていた。これはどういうことか? それは、ANAという航空会社ではなく、ANAHDという「モビリティー全体をビジネスとするグループ」としての出展だった、ということだ。
ANAは、出展理由を「6%の壁を越えるため」と説明する。
6%の壁とは、世界の航空会社が抱える共通の限界のこと。実は、世界の人口のうち、航空会社を利用して飛行機で移動する人口は、「全体の6%」なのだという。もちろん、国や地域によってもこの数字は異なるが、実際問題として、どの国であっても、国民全員が日常的に飛行機で移動する必然性のあるところはない。結局のところ、「航空会社」であることにとらわれていると、世界人口77億人のうちの6%=約4.6億人が市場規模になってしまうのだ。
ではこれを打ち破るにはどうしたらいいのか? 答えが「インターネットを使った瞬間移動」だ。人間が移動するのではなく、テレイグジスタンス技術を使って「インターネットの向こうにあるデバイスに入る」ことで、飛行機で移動しない人にも空間の移動と同じ価値を提供しよう……と考えたわけである。
考えてみれば、これは自然なことだ。ビデオ会議やチャットでコミュニケーションがネットに広がっている現在、それをもっと幅広い概念へと拡張し、移動の代わりにする、というのはあって当然の発想だ。
ただANAHDのやり方が面白いのは、航空会社がそのサービスを、横断的な形で提供しようと考えていることだ。
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