ANAはこの構造に「avatar-in」という名称を付けている。前述のnewmeも、その他のロボットも、全てavatar-inというサービスを介して利用することを前提としている。newmeで移動してコミュニケーションをするのが第一段階だが、釣りロボットで釣りを体験したり、二足歩行ロボットで山の中を歩いたり、特殊な技能を持った人が他の人を助けたり……という方向性を目指している。詳しくは、ANAが公開しているavatar-in構想のPVを見るのが分かりやすいだろう。
一方、そのやり方に落ち着かないものを感じる人もいるはずだ。実際、筆者もちょっとそう感じた。なぜなら、こうした「ロボット」の部分には、ANAのテクノロジーやノウハウは生かされていないからだ。
newmeのようなコミュニケーションロボットは、何年も前から海外の展示会でよく見かける。デザインは独自に作ったようだが、テクノロジー的には陳腐なものだ。二足歩行ロボットは前述のように、アメリカの有名なロボット系ベンチャーであるAgility Roboticsのもの。Agility Roboticsは世界有数の技術を持つ企業だが、ANAHDはあくまで「パートナー」だ。他のものもパートナーが開発したものを展示していたに過ぎない。
ロボット技術には多数のノウハウが必要になる。その部分は他社に依存しているため、「なんとなく落ち着かない」のである。
それをANAHDはどう思うのか? ブースで担当者にたずねたところ、以下のような答えが返ってきた。
「我々はどのような企業とも組めるように、消費者との接点となるWebのポータルを構築します。そして、そこと各ロボットとの仲立ちを規定する役目を果たします」
すなわち、前述の構想のうち、avatar-inこそが「ANAHDの軸」なのである。統一的なWebを作り、そこに色々なロボットをひも付けて動けるようにすることで、利用者は乗り物を乗り換えるように、場合に応じて「移動先であるロボット」を使い分けられる。
考えてみれば当然のことなのだが、ANAは航空会社であり、顧客対応のプロである。彼らのコアコンピテンシーは、ITやテレイグジステンス、ロボット技術にあるわけではない。人が快適に使うにはどうしたらいいか、そのための環境をどう整えるか、という部分にある。だから航空会社のグループが「アバターのポータル」を作るのである。
問題は、これをどこまで本気でやって、我々の移動を軽減できるのか、ということだ。avatar-inは2020年から、newmeを介した実験の形でスタートする。東京オリンピックに合わせたテクノロジー・ショーケースではあるが、その先に「モビリティカンパニー」としての本気度があるかを見ていきたいと思う。
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