未来を創る「子どもとプログラミング教育」

「プログラミング教育」が必修化されたのはなぜ? それを支える「GIGAスクール構想」とは?短期集中連載「プログラミング教育とGIGAスクール構想」 第1回(2/4 ページ)

» 2020年04月16日 12時30分 公開
[石井英男ITmedia]

新しい学習指導要領でプログラミング教育が必修化された理由

 学習指導要領とは、全国の全ての学校において一定の教育水準を保つために、文部科学省が定める教育課程の基準だ。学校で使われる教科書や時間割は、この要領に基づいて作られている。

 学校は、社会と切り離された存在ではなく、社会の中に存在し、密接な関わりがある。現代社会は「グローバル化」「情報化」「技術革新」など、急速に変化を続けている。その社会の変化を見据えて、学習指導要領もほぼ10年ごとに改訂されているのだ。

学習指導要領 学習指導要領は、おおむね10年ごとに改訂されている

 海外の教育事情にも詳しい田畑氏は、「学校教育は、社会の変化を映す鏡として、少し遅れ気味だと思います。それが特に顕著なのが日本だと思います。それで、危機感を持って、学習指導要領を変えていこうということになったのだと思います」と、今回の要領の改訂が比較的大幅になった背景を推察する。

 ではなぜ、新しい学習指導要領では、プログラミング教育が必修化されたのだろうか。それは、2016年1月に閣議決定された未来社会のコンセプト「Society 5.0」と関係がある。

 「Society 1.0」の狩猟社会、「Society 2.0」の農耕社会、「Society 3.0」の工業社会、「Society 4.0」の情報社会と、社会は進化を続けてきている。それが、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」(内閣府)に進化したものが、Society 5.0という定義だ。簡単にいえば、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を活用して課題を解決していく社会ということになる。

Society 5.0 内閣府が作成したSociety 5.0の概略図。IoTやAIを活用して、社会課題を解決していくことを目指している

 Society 5.0時代に求められる学びのあり方として、文部科学省は「学んだことを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力、人間性」「実際の社会や生活で生きて働く知識及び技能」「未知の状況にも対応できる思考力、判断力、表現力の育成」の3つの柱を打ち立てた。これらを下敷きとして、新しい学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」の視点に立ち、「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」ということも重視した授業が展開される。

方向性 新しい学習指導要領の3つの柱。閣議決定されたSociety 5.0構想を反映している

 この「主体的・対話的で深い学び」が、いわゆる「アクティブ・ラーニング」と呼ばれるものだ。これについても、日本は諸外国に比べて遅れていると田畑氏は指摘する。

 「フィンランドでは、『先生が知識のリソースである』という考え方(に基づく教育)をかなり前にやめています。しかし、日本ではまだ、先生から一方的に知識を学ぶことが多いです。

 アクティブ・ラーニングといいますが、日本では今まで(児童や生徒の)アウトプットが少なすぎたと思います。子どもたちが知り得たことや考えたことを、友達や先生と話し合う機会が少なすぎたと思います。アウトプットの比率を極端に上げることで、インプットの重要性も変わってきます

 現代社会では、コンピューターはさまざまな場面で活用されている。あらゆる活動において、コンピューターなどの情報機器やサービスを適切に使うことは不可欠といえる。

 コンピューターのポテンシャルをより生かすには、その仕組みを知ることが重要である。コンピューターは、人が命令を与えることで動くが、その“命令”がプログラムであり、命令を与えることがプログラミングだ。

 プログラミングの考え方を学ぶことで、コンピューターの仕組みの一端をうかがい知ることができ、より主体的にコンピューターを活用できる。プログラミング教育は、子どもたちの可能性を広げることにもつながり、アクティブ・ラーニングとの相性もよい。

 小学校でプログラミング教育を必修とした背景には、こうした事情がある。

プログラミング教育の狙い プログラミング教育は主体性をもって行動することを促す上で有用とされる

「プログラミング」という教科が追加されるわけではない

 「小学校でプログラミング教育が必修化される」と聞くと、新たな教科として「プログラミング」が追加されると思う人もいるだろう。しかし実際は、既存教科の指導において、プログラミング教育を組み込むというイメージだ。

 文部科学省が公開している「小学校プログラミング教育の手引(第三版)」(PDF形式)によると、小学校におけるプログラミング教育の主な狙いは以下の3点に集約される。

  1. 「プログラミング的思考」を育む
  2. プログラムの働きや、情報社会がコンピューターなどのIT技術で支えられていることに気付くこと
  3. 各教科の内容を指導する中でプログラミング教育を実施する場合は、各教科での学びをより確実なものとする

 1番や2番について、一見すると新たな教科が加わるようにも思えるが、繰り返しだがそうではない。プログラミング教育そのものは、以前からある「総合的な学習の時間」の枠内で行われる。

 3番については、算数や理科を中心とする既存教科の教育において、プログラミングを活用することで、理解をより深めることが目的だ。

 例えば、小学5年生の算数では「正多角形」について学ぶ。この際に、プログラミングで作図することで、「辺の長さが全て等しく、角の大きさも全て等しい図形」という正多角形の性質を理解する――こういうことだ。

 こうしたプログラミングを活用した学びは、クラスをグループに分けてアクティブ・ラーニング形式で行うのに適しているのだ。

プログラミング教育 プログラミング教育では、プログラム“そのもの”を学ぶというよりは、その考え方を学ぶことになる
正多角形の例 正三角形を描くプログラミングをする学習例。(a)も(b)も「正三角形を描く」という目的を達する上では正しいが、(b)の方は正四角形、正五角形……と、他の正多角形にも流用できる。プログラムを比較することで、正多角形の性質も理解できるという組み立てだ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年03月29日 更新
  1. ミリ波レーダーで高度な検知を実現する「スマート人感センサーFP2」を試す 室内の転倒検出や睡眠モニターも実現 (2024年03月28日)
  2. Synology「BeeStation」は、“NASに興味があるけど未導入”な人に勧めたい 買い切り型で自分だけの4TBクラウドストレージを簡単に構築できる (2024年03月27日)
  3. ダイソーで330円の「手になじむワイヤレスマウス」を試す 名前通りの持ちやすさは“お値段以上”だが難点も (2024年03月27日)
  4. 「ThinkPad」2024年モデルは何が変わった? 見どころをチェック! (2024年03月26日)
  5. ダイソーで550円で売っている「充電式ワイヤレスマウス」が意外と優秀 平たいボディーは携帯性抜群! (2024年03月25日)
  6. 次期永続ライセンス版の「Microsoft Office 2024」が2024年後半提供開始/macOS Sonoma 14.4のアップグレードでJavaがクラッシュ (2024年03月24日)
  7. 日本HP、個人/法人向けノート「Envy」「HP EliteBook」「HP ZBook」にCore Ultra搭載の新モデルを一挙投入 (2024年03月28日)
  8. サンワ、Windows Helloに対応したUSB Type-C指紋認証センサー (2024年03月27日)
  9. あなたのPCのWindows 10/11の「ライセンス」はどうなっている? 調べる方法をチェック! (2023年10月20日)
  10. レノボ、Ryzen Threadripper PRO 7000 WXシリーズを搭載したタワー型ワークステーション (2024年03月27日)
最新トピックスPR

過去記事カレンダー